不妊治療のひとつである「人工授精」は、精子を人工的に子宮内に入れることで、自然妊娠に近い形での妊娠をめざす方法です。タイミング法で妊娠しなかった場合や、男性側に不妊の原因がある場合に行われる治療法ですが、人工授精の成功率はどれくらいなのでしょうか?今回は、人工授精によって妊娠できる確率や、成功率を上げる方法についてご説明します。
人工授精(AIH)で妊娠の確率が上がるの?
性交により自然妊娠するためには、女性の体内で排卵が起こったあと、精子が女性の腟内に入り、子宮頸管から子宮内、卵管へと進み、卵子のもとにたどり着く必要があります。
しかし、女性の子宮頸管粘液が十分ではない、または、男性の勃起や射精がうまくいかない、精子の数がもともと極端に少ない、精子の運動率が低いなどの問題があると、最終的に卵子がいる場所まで到着できる精子の数が少なくなるため、自然妊娠しづらくなります。
こういった不妊の原因があると考えられる場合、「人工授精(AIH)」によって精子を子宮内に直接注入することで、精子が卵子と出会うまでの時間と距離が縮まり、タイミング法と比べて妊娠できる確率が上がります。
人工授精の成功率は?回数はどれくらい?
治療を受ける人の年齢などにもよりますが、一般的に1回のタイミング法で妊娠する確率は約3%であるのに対し、人工授精1回あたりの妊娠率は約5%と、やや高くなります(※1)。
累積妊娠率(治療回数を重ねることで妊娠できる確率)で考えると、40歳未満で約20%、40歳以上で約10~15%です(※2)。
一般的に、人工授精での妊娠は最初の3~4回で成立することが多く、4〜6回行っても妊娠しなかったときには、受精障害や着床障害などがあると考え、「体外受精(IVF)」や「顕微授精(ICSI)」への切り替えを検討します(※1)。
ただし、体外受精や顕微授精などの方法も、加齢とともに成功率が下がっていくため、女性の年齢によっては早めに治療方法を切り替えることもあります(※3)。
人工授精の成功率は排卵日予測が重要
人工授精で妊娠する確率をできるだけ上げるためには、精子を子宮内に注入するタイミングを、排卵日とできるだけ一致させることが大切です(※4)。
自然な生理周期のなかで人工授精を行う場合、基礎体温をつけたり、超音波で卵胞の大きさを計測したり、尿中LH値を測定したりすることで排卵日を推測し、人工授精を行います。
女性に排卵障害がある、もしくは不妊の原因がはっきりとわかっていない場合には、クロミフェンやゴナドトロピンなどの排卵誘発剤を先に使い、人工的に卵胞を発育させてから、排卵するタイミングに合わせて人工授精をします。
排卵誘発剤を併用することで、妊娠する確率が高まることもありますが、薬の影響で卵巣が腫れてしまう「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」という副作用が起こるリスクもあります。医師ともよく相談したうえで、自分に合った治療法を選びましょう。
人工授精の成功率を上げるために女性ができることは?
人工授精を受けるなら、できるだけ成功率を高めたいですよね。そのためには、卵子の老化のスピードを遅くしたり、受精・着床(妊娠)しやすい体づくりをしたりすることが大切です。
女性は、日常生活で次のことを意識して人工授精に臨みましょう。
健康的な食事・運動をする
妊活の基本ともいえますが、普段から栄養バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。
これにより、卵子の老化を加速させる「活性酸素」が体内で発生するのを抑えられ、健康的で妊娠しやすい体の状態をつくることができます(※2)。
なお、妊娠の確率を上げるためではありませんが、胎児の先天性の病気である「神経管閉鎖障害」が起きるリスクを下げるために、妊娠前から食事やサプリメントで葉酸を摂りましょう(※5)。
体の冷えを防ぐ
冷えと妊娠率の関係ははっきりとわかっていませんが、血行が悪くなると子宮や卵巣の機能が悪くなる可能性もあります。
薄着をせず、冷房が効いている室内ではカーディガンを羽織る、冷えとり靴下の重ね履きをする、温かい飲み物をとるなど、できるだけ体を冷やさないように工夫しましょう。
人工授精の成功率を上げるために男性ができることは?
人工授精の成功率を高めるには、女性だけでなく男性側の生活習慣改善も大切です。
具体的には、子宮内に注入する精子の質をできるだけ良くするために、次のことに気をつけましょう。
禁煙する
妊娠を望む女性にとって、「タバコは妊娠に悪影響を与える」というのは当たり前かもしれませんが、実は男性にとっても同じことがいえます。
男性が近くでタバコを吸っていると、パートナーが副流煙を吸ってしまう恐れがあります。また、喫煙によって、健康な精子の数が減ったり、精子の運動率が悪くなったりする可能性も指摘されています(※6)。
パートナーの妊娠を希望するなら、男性も禁煙しましょう。
葉酸を摂取する
アメリカで行われた研究によると、葉酸を十分に摂っている男性の精子は、そうでない男性の精子と比べて染色体異常が約20%低い、ということがわかっています(※7)。
精子に染色体異常があると、精子の数が極端に少なかったり、まったく作られなかったりすることもあり、不妊につながります。葉酸を摂取することで、そのリスクを下げられる可能性がある、ということです。
妊娠を考えはじめた時点で、夫婦そろって葉酸サプリを摂取するのも一つの方法ですね。
人工授精の成功率は夫婦で上げよう
人工授精を受けるのは女性の体ですが、そのときに使われるのは男性パートナーの精子です。人工授精による妊娠の確率を上げるためには、夫婦二人三脚で生活習慣の改善に取り組みたいですね。
人工授精の成功率は、実施する回数や年齢によっても異なります。体への負担や時間的・経済的コストなども踏まえたうえで、パートナーや医師とよく相談して治療方針を決めていきましょう。
※1 日本産科婦人科学会『E. 婦人科疾患の診断・治療・管理 4. 不妊症』p.495
※2 メジカルビュー社『不妊症・不育症治療』pp.79, 284
※3 株式会社メディックメディア『病気がみえる Vol.9 婦人科・乳腺外科 第3版』p.245
※4 日本生殖医学会『不妊症Q&A:10. 人工授精とはどういう治療ですか?』
※5 厚生労働省 e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント 神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」
※6 厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙によるその他の健康影響」
※7 UC Berkeley News「Folate intake linked to genetic abnormalities in sperm, says new study」