体外受精(IVF)は不妊治療の方法のひとつです。近年、晩婚化が進んでいるということもあり、体外受精を検討している夫婦や、実際に体外受精で生まれる子供の数も増えています。今回は、体外受精について、流れやスケジュール、費用など、基本的なことをご説明します。
体外受精(IVF)とは?

体外受精(IVF)とは、女性の卵巣内から取り出した卵子を体外で受精させる治療のことです。
受精してできた受精卵(胚)は、体外で培養し、ある程度成長させてから、子宮のなかに戻します。
このように、体外で受精を行い、胚を子宮内に移植するまでの一連のプロセスを、正式には「体外受精・胚移植(IVF-ET)」といいます。
タイミング法や人工授精による妊娠が難しい場合に、産婦人科医から体外受精への切り替えを勧められることがあります。
体外受精(IVF)で妊娠する確率は?

体外受精や顕微授精など、体外で受精を行い、胚を子宮内に移植する技術のことを「生殖補助医療(ART)」といいます。
上のグラフは、ARTによる妊娠率と生産率(死産や流産にならずに赤ちゃんが生まれる確率)、流産率を年齢別に示したものです(※1)。
30歳女性の場合、胚移植による妊娠率は約40%・生産率は約20%です。年齢が5歳上がり、35歳になると、妊娠率は約36%・生産率は約17%と少し下がり、さらに5歳上がって40歳になると、妊娠率は約25%・生産率は約8%となります。
体外受精などの不妊治療を行った場合でも、自然妊娠と同じように年齢とともに妊娠率と生産率が低くなり、逆に流産率は上がっていくことがわかります。
体外受精(IVF)の出生数は?

日本産科婦人科学会の発表によると、2015年に日本国内で42万件以上の体外受精が行われ、それによって約5万1,000人の赤ちゃんが生まれました(※2)。
これは、この年の赤ちゃん全体のうち19人に1人が体外受精で生まれた、という計算になります。
なお、同学会が2013年に実施した調査によると、年間の出生数に対して体外受精で生まれた赤ちゃんの割合は26人に1人でした。ここ数年で、体外受精の実施数と出生数が増えているということがわかりますね。
体外受精(IVF)の対象となるのは?

体外受精は誰でも受けられるというわけではありません。
日本産科婦人科学会が2014年に示した見解によると、「これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの」、および「治療を受ける人、または生まれる子供にとって有益であると判断されるもの」を体外受精の対象とするとされています(※3)。
具体的には、女性の卵管に障害があったり、抗精子抗体によって精子が体内に入れなかったりする場合や、男性の精子数が少ない、または運動能力が低いといった場合に、体外受精の実施が検討されます(※4)。
なお、体外受精でも妊娠が難しいと判断された場合には、顕微授精(ICSI)が適応されます。
体外受精(IVF)の流れ・スケジュールは?

体外受精の流れは、大きく分けて「排卵誘発」「採卵・採精」「受精・培養」「胚移植」「妊娠判定」の5つのステップに分けられます。
それぞれについて、日数の目安もあわせて説明していきます。
1. 排卵誘発
体外受精の成功率を上げるには、質の良い卵子をできるだけ多く採ることが大切です。
月経(生理)3日目から毎日、FSH注射やhMG注射を投与して卵子を発育させます。これを「排卵誘発」といいます。注射の種類や投与量は、人によって異なります。
なお、卵子を採る前に排卵してしまわないように、点鼻薬などで排卵を抑制することもあります。排卵抑制の開始時期によって、ショート法・ロング法・ウルトラロング法などがあります。
2. 採卵・採精
卵子が十分に育ったら採卵します。卵子の発育スピードには個人差があるため、一概にはいえませんが、おおよそ生理開始から10~14日目ごろに採卵を行います。
良質な卵子がいくつか採れた場合でも、35歳以上で妊娠が難しいケースなどを除いて、双子などの多胎妊娠を防ぐために1個だけしか移植しないことになっているため、残った卵子は凍結保存することがあります。
また、採卵したその日に受精を行うため、男性も一緒に病院を受診し、精子を採る(採精する)ことがほとんどです。
3. 受精・培養
採取した卵子と精子を、シャーレなどの容器のなかで受精させます。受精がうまく行ったら、受精卵を培養させ、成長させていきます。
受精卵は細胞分裂を繰り返し、受精から2~3日後には「初期胚」、5~6日後には「胚盤胞」という状態になります。
4. 胚移植
着床に適した状態まで胚が育ったら、女性の子宮内に移植します。初期胚移植の場合は生理開始から12~17日目、胚盤胞移植の場合は15~20日目に行います。
一般的には、初期胚移植よりも胚盤胞移植の方が着床率(妊娠率)が高いとされています。
胚を凍結保存することもある?
胚移植の前に子宮内膜の状態を確認し、着床に適した環境が整っていないと判断された場合には、その周期での胚移植は行わずに見送ることもあります。
その場合、胚を凍結保存して、子宮内の環境を整えたうえで、より妊娠しやすいタイミングで凍結胚を融解し、あらためて胚移植を行うこともあります。これを「凍結胚移植」といいます。
5. 妊娠判定
胚移植後、うまく行けば、初期胚の場合は3~5日後、胚盤胞の場合は1~2日後には着床します。ただし、着床してすぐに妊娠判定ができるわけではありません。
通常、胚移植から14~21日(2~3週間)ほど経ってから産婦人科を受診し、血液検査や尿検査によってhCGホルモンの分泌量を測定したうえで、妊娠判定を行います。
体外受精(IVF)にかかる費用は?

体外受精には健康保険が適用されず、全て自費扱いとなります。
使用する注射薬や採卵の個数、胚移植の方法、実施する医療機関などによって費用は変わりますが、1周期あたり40~50万円程度はかかると考えておきましょう。
体外受精の費用モデルケース
採卵 | 90,000円 |
受精 | 30,000円 |
培養 | 100,000円 |
胚凍結 | 60,000円 |
凍結胚保存(1年) | 30,000円 |
凍結融解 | 30,000円 |
胚移植 | 110,000円 |
その他(検査・薬など) | 30,000円 |
合計 | 480,000円 |
上表は1周期あたりの費用を示したものなので、何周期かチャレンジする場合には、追加で料金がかかります。
体外受精にどれくらいの費用をかけるのか、夫婦でよく相談したうえで、医師のアドバイスを受けながら治療計画を立てましょう。
体外受精(IVF)の助成金があるの?

先述のとおり、体外受精にはそれなりの費用がかかるため、子供を授かりたいと希望していたとしても、経済状況によっては躊躇する夫婦が多いのも事実です。
自治体によっては助成金制度が設けられており、体外受精など不妊治療にかかる医療費の一部を負担してもらえる場合もあるので、まずは住んでいる地域について調べてみると良いかもしれません。
不妊治療費助成を受けられる条件や申請方法は自治体によって異なるので、あわせて確認してみてくださいね。
体外受精(IVF)は費用も含めて検討を

体外受精は、タイミング法や人工授精で妊娠が難しい場合に検討される不妊治療の方法です。時間的・経済的コストはかかりますが、もし検討してみたい場合は、体外受精を実施している医療機関を夫婦で訪れ、具体的な流れや費用について医師に相談してみましょう。