不妊治療の方法として「人工授精(AIH・AID)」、「体外受精(IVF)」、「顕微授精(ICSI)」というものがあります。言葉としては聞いたことがあっても、いまいち違いがわからないという人もいるのではないでしょうか。治療法や費用、妊娠の成功率も含めて、違いを理解した上で不妊治療に臨みたいですよね。そこで今回は、人工授精、体外受精、顕微授精の違いをご紹介します。
人工授精・体外受精・顕微授精とは?

不妊治療を進める場合、軽めの治療から始めて、徐々に難易度の高い治療法へステップアップしていくのが一般的です。
最初は経済的・身体的負担の少ない「タイミング法」「排卵誘発法」などが行われ、次に「人工授精」、それでも妊娠しない場合は、「体外受精」や「顕微授精」へと移行します。ただし、初診結果によっては人工授精を行わずに、最初から体外受精を受ける人もいます。
人工授精、体外受精、顕微授精の違いは大きく4つあります。
人工授精、体外受精、顕微授精の違い
1. 治療方法
2. 不妊理由
3. 治療費用
4. 妊娠率
これらの違いについて、1つずつ見ていきましょう。
1. 人工授精・体外受精・顕微授精の「治療方法」の違いは?

まず、人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの方法について知っておきましょう。
人工授精
人工授精は、「精子を人工的に女性の子宮内に注入する」方法で、その後の受精や着床などの過程は、自然に妊娠するときと変わりません(※1)。人工授精では、受精が行われる卵管膨大部までたどり着く精子の数を増やすことで、妊娠の確率を上げます。
排卵日を予測し、排卵直前~排卵直後の期間に人工授精を行います。
人工授精を5~8周期行っても妊娠しない場合は、体外受精や顕微授精など、次のステップへの移行を検討します(※1)女性の年齢が高い場合はもっと早い段階でステップアップすることもあります。
体外受精
体外受精は、「精子と卵子を採取し、体外で受精させてから子宮に戻す」方法です(※1)。体外受精で受精卵(胚)が得られたら、ある程度の成長段階まで培養して子宮に戻す「胚移植」をし、妊娠を目指します。
何らかの受精障害があり、培養液の中で自然に受精するのが難しい場合には、顕微授精を行うことになります。
顕微授精
顕微授精も、「体外で得られた受精卵を子宮に戻す」という点では体外受精と同じです。しかし、体外受精は精子と卵子を培養液に入れて自然に受精するのを待つのに対して、顕微授精は、顕微鏡とガラス針を用いて卵子と精子を人工的に授精させます(※1)。
人工授精は治療自体が1日程度で終わるのに対して、体外受精・顕微授精は排卵を促す注射を打ったり、採卵日の調整をしたりするために数日間通院する必要があります。
2.人工授精・体外受精・顕微授精の「不妊原因」の違いは?

人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの方法が使われる不妊の原因は、下記のとおり少しずつ異なります。ただし、原因が不明の場合、人工授精でうまくいかなかったら体外受精、体外受精がだめなら顕微授精…という選択がされる場合もあります。
人工授精
人工授精は、精子の数が少ない「乏精子症」や、精子の運動率が低い「精子無力症」、勃起不全(ED)・逆行性射精といった「性機能障害」など、主に男性側に不妊の原因がある場合に行われることが多い方法です(※2)。
採取した精液の不要物質を除去し、質の良い精子を選んで子宮の中に注入することで、妊娠の確率を高めることができます。これを「精子調整法」といい、体外受精や顕微授精でも行われます。
体外受精・顕微授精
卵子と精子が出会う「卵管」の両側に機能不全があったり、女性が「抗精子抗体」を持っていることで精子の進入や受精が妨げられたりと、女性側にも不妊の原因がある場合、体外受精や顕微授精が行われます。
特に顕微授精は、「精子の運動率が極端に低く、卵子の中に入り込めない」「著しい受精障害がある」など、重い男性不妊も重なっている場合に選択される方法です。
3. 人工授精・体外受精・顕微授精の「治療費用」の違いは?

人工授精、体外受精、顕微授精は自由診療扱いとなるため、保険が適用されません。すべて自己負担となると、費用の違いは大きな問題ですよね。それぞれの治療方法について、1周期あたりの費用は下表のとおりです。
治療方法 | 1回あたりの費用 |
人工授精 | 約2~3万円 |
体外受精 | 約10~30万円 |
顕微授精 | 約30~50万円 |
体外受精・顕微授精の場合は、胚移植の費用が別途かかるので、全部で100万円程度かかることも。病院によっても費用は異なるので、事前に確認するようにしましょう。
なお、体外受精と顕微授精以外の治療法で妊娠の見込みが極めて低い場合に、国や自治体が助成金を支給する「特定不妊治療費助成制度」という制度もあります(※3)。自治体によって適用条件や申請期限が異なるので、厚生労働省や各自治体のウェブサイトをよく確認してください。
4. 人工授精・体外受精・顕微授精の「妊娠率」の違いは?

日本産科婦人科学会のデータによると、人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの1回あたりの妊娠率は下記のとおりです(※4,5)。
治療方法 | 妊娠率 |
人工授精 | 約5% |
体外受精 | 約23% |
顕微授精 | 約15~20% |
いずれの方法にしても、女性の年齢が上がるにつれて、妊娠率・生産率(赤ちゃんが生きた状態で生まれてくる確率)は下がっていきます。
日本産科婦人科学会のデータによると、生殖補助医療全体で、32歳頃までは約20%の生産率がありますが、32歳を超えると1歳増えるごとに1%、37歳からは2%ずつ出産率が下がり、逆に流産率は高くなっていきます(※6)。
人工授精・体外受精・顕微授精の違いを理解しましょう

今回ご紹介したように、不妊治療の方法として知られる人工授精、体外受精、顕微授精は、治療方法や不妊原因、治療費用や妊娠率において違いがあります。
人工授精、体外受精、顕微授精のどの治療法を選択することになるかは、不妊検査を受けたうえで慎重に決められます。医師やパートナーとよく相談のうえ、納得のいく不妊治療に取り組みましょう。