「人工授精」「体外受精」「顕微授精」の違いは?産婦人科医が解説!

監修医師 産婦人科医 藤東 淳也
藤東 淳也 日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、がん治療認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長... 監修記事一覧へ

不妊治療の方法として「人工授精(AIH・AID)」、「体外受精(IVF)」、「顕微授精(ICSI)」があります。言葉は聞いたことがあっても、詳しい治療方法やそれぞれの違いまでわからないという人もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、人工授精、体外受精、顕微授精について、それぞれの治療法や選択される場面、妊娠率、費用などの違いをご紹介します。

1. 人工授精・体外受精・顕微授精の「治療方法」の違いは?

病院 相談

不妊治療の方法は、不妊検査の結果に応じて決められます。

不妊検査の結果、原因が見つかったものの治療がうまくいかなかった場合や、原因が見つからなかった場合、最初は自然妊娠の補助として「タイミング法」「排卵誘発法」などを行います。

なかなか妊娠の兆候がみられない場合は、自然に近い形の妊娠を目指す「人工授精」を行い、それでも難しい場合は、生殖補助医療である「体外受精」や「顕微受精」へと移行します。

まず、人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの方法について知っておきましょう。

人工授精

人工授精は、排卵日を予測し、排卵直前〜直後の期間に精子を人工的に女性の子宮内に注入する方法です。その後の受精や着床などの過程は、自然に妊娠するときと変わりません(※1)。

人工授精では、受精が行われる卵管膨大部までたどり着く精子の数を増やすことで、妊娠の確率を上げます。

人工授精を5~8周期行っても妊娠しない場合は、体外受精や顕微授精など、次のステップへの移行を検討します(※1)。女性の年齢が高い場合はもっと早い段階でステップアップすることもあります。

体外受精

体外受精は、精子と卵子を採取し、体外で受精させてから子宮に戻す方法です(※1)。体外受精で受精卵(胚)が得られたら、ある程度の成長段階まで培養して子宮に戻す「胚移植」を行い、妊娠を目指します。

顕微授精

顕微授精も、「体外で得られた受精卵を子宮に戻す」という点では体外受精と同じです。しかし、体外受精は精子と卵子を培養液に入れて自然に受精するのを待つのに対して、顕微授精は顕微鏡とガラス針を用いて卵子と精子を人工的に授精させます(※1)。

何らかの受精障害があり、培養液の中で自然に受精するのが難しい場合に行われます。

人工授精は治療自体が1日程度で終わるのに対して、体外受精・顕微授精は排卵を促す注射を打ったり、採卵日の調整をしたりするために数日間通院する必要があります。

2.人工授精・体外受精・顕微授精が選択される場面の違いは?

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人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの方法が使われる不妊の原因は、下記のとおり少しずつ異なります。ただし、原因が不明の場合、人工授精でうまくいかなかったら体外受精、体外受精がだめなら顕微授精…という選択がされる場合もあります。

人工授精

人工授精は、精子の数が少ない「乏精子症」や、精子の運動率が低い「精子無力症」、勃起不全(ED)・逆行性射精といった「性機能障害」など、主に男性側に不妊の原因がある場合に行われることが多い方法です(※2)。

また精子の通り道である子宮頸管の粘液に問題がある場合も、人工授精が行われます。

体外受精・顕微授精

卵子と精子が出会う「卵管」の両側に機能不全があったり、女性が「抗精子抗体」を持っていることで精子の進入や受精が妨げられたりする場合、体外受精や顕微授精が行われます。

特に顕微授精は、「精子の運動率が極端に低く、卵子の中に入り込めない」「著しい受精障害がある」など、重い男性不妊も重なっている場合に選択される方法です。

3. 人工授精・体外受精・顕微授精の「妊娠率」の違いは?

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日本産科婦人科学会のデータによると、人工授精、体外受精、顕微授精それぞれの1回あたりの妊娠率は下記のとおりです(※1,3)。

治療方法 妊娠率
人工授精 約7〜10%
体外受精 約23%
顕微授精 約15~20%

これらは1回あたりの妊娠率なので、複数回行えば確率は上がります。

しかしいずれの方法にしても、女性の年齢が上がるにつれて、妊娠できる確率は下がり、母体や胎児にかかるリスクが高まることは覚えておきましょう。

4. 人工授精・体外受精・顕微授精の「治療費用」の違いは?

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人工授精・体外受精・顕微授精は基本的に保険が適用されるため、自己負担額は実際の医療費の3割です。

金額は病院によって異なりますが、それぞれの治療方法の1周期あたりの費用はおおむね下表のとおりです。

治療方法 1回あたりの費用
人工授精 約2~3万円(自己負担額は数千円〜1万円)
体外受精 約10~30万円(自己負担額は3〜10万円)
顕微授精 約30~50万円(自己負担額は10〜17万円)

※体外受精・顕微授精の場合は胚移植の費用が別途かかります。

ただし生殖補助医療である体外受精と顕微授精には、保険適用の回数や年齢に以下のような制限があるので注意してください(※4)。

保険適用される年齢の上限

● 治療開始時に、女性の年齢が43歳未満であること

なお、男性の年齢制限はありません。

保険適用される回数の上限

● 初めての治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合
→通算6回まで保険適用

● 初めての治療開始時の女性の年齢が40歳以上43歳未満の場合
→通算3回まで保険適用

人工授精・体外受精・顕微授精の違いを理解しましょう

人工授精、体外受精、顕微授精のどの治療法を選択するかは、不妊検査の結果に応じて決められます。それぞれの違いを理解し、医師やパートナーとよく相談のうえ、納得のいく不妊治療に取り組めるといいですね。

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