妊婦健診では、毎回尿検査が行われます。この検査の目的は「尿蛋白の有無を調べること」です。尿蛋白と聞いてもあまりピンとこないかもしれませんが、妊娠中の病気を早期発見するためにはとても重要な項目です。そこで今回は、妊婦さんが尿蛋白を気にしなくてはいけない理由や尿蛋白が出たときの対策についてご説明します。
尿蛋白(にょうたんぱく)とは?
「蛋白」は栄養素の「たんぱく質」のことで、「尿蛋白」とはその名の通り「尿に含まれるたんぱく質」を意味します。
腎臓は血液をろ過して老廃物や塩分を尿として排泄し、血液をきれいな状態にしてから体へ戻しています。
このときたんぱく質は、血液の成分と一緒に腎臓を通過して体内に戻されるので、尿にたんぱく質が混じることは、基本的にはありません。
妊婦さんに尿蛋白が出やすい理由は?原因は何?
妊婦さんは、そもそも尿蛋白が出やすいといわれています。
なぜなら、妊婦さんの腎臓は自分の血液に加えて、赤ちゃんの血液も一緒にろ過しなくてはならず、妊娠前より腎臓に大きな負担がかかるためです。
たくさん働くほど腎臓の機能は低下しやすくなるのでろ過がうまくいかなくなり、本来なら体内に戻されるはずのたんぱく質が尿に混じってしまうのです。
そのほか、下記の理由でも妊婦さんに尿蛋白が出やすくなるとされています。
- 運動不足
- 体重の過度な増加
- 睡眠不足
- 水分の摂取不足
- 塩分の摂り過ぎ
いずれも、妊婦健診などで気をつけるようにアドバイスされるものばかりですね。
妊婦が尿蛋白を気にしなければいけない理由とは?
妊婦健診で毎回尿検査が行われるのは、妊婦さんがなんらかの病気にかかっている可能性を早期に発見するためです。
尿蛋白が出ていると、以下の病気や不調が疑われます。
1. 妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊娠をきっかけに発症する高血圧です。むくみや頭痛がしたり、目がチカチカするといった自覚症状が現れることもあります。
妊娠20週以降に見られ、高血圧や尿蛋白によって判明します(※1)。
妊娠高血圧症候群にかかると、重い合併症を併発することもあります。具体的には、失神や痙攣を起こしたり、出産前に胎盤が剥がれてしまう常位胎盤早期剥離などを起こしたりすることもあります。
進行すると母体の血管障害や臓器障害を起こし、母体の命に関わったり、妊娠を中断せざるを得なくなることもあります。
2. 腎機能低下
腎臓の機能が低下すると、様々な不調が見られます。代表的なものは、下記の4つです(※2)
- むくみ:むくみとは、体から不要な水分が排泄されないために、体内に余計な水分がたまってしまう状態です。むくみがひどくなると、立っているのがつらくなることもあります。
- 尿の量が増える:腎臓の機能が低下すると尿の量が増え、夜間に頻繁にトイレに起きることがあります。
- 貧血:腎臓の機能が低下すると、赤血球を作る働きを促進するホルモンの分泌が減ってしまうことがあります。そうすると、赤血球を作る能力が低下してしまいます。
- かゆみ:腎臓の機能が低下すると、老廃物が血液の中や皮膚にたまってしまいます。そうすると、かゆみを生じることがあります。。
尿検査の診断結果の見方は?(++)、(+)、(−)とは?
妊婦健診の尿検査の結果では、尿にたんぱく質が含まれていたら、尿蛋白の項目に(+)と表記されます。
表記の方法は様々で、(−)、(+)、(++)の3種類で表示されることが一般的です。プラスの数が増えるほど尿蛋白の量が多いことを意味します。
尿蛋白は(−)になっているのが正常ですが、(±:プラスマイナス)と表記された場合は「プラスが疑われる」という意味で、(+)に近い状態です。
妊娠中は普段より尿蛋白が出やすいので、一度(±)や(+)が出たくらいでは、すぐに問題になることはありません。
また風邪をひいているときや疲れがたまっているときにも尿蛋白は出やすくなるので、一時的に尿蛋白が多く出ただけの可能性もあります。
そのため、尿蛋白の数値で(±)や(+)が出た場合には、次の妊婦健診での尿蛋白の数値を見て判断します。2回以上尿蛋白が(+)になり、血圧も高い場合は、妊娠高血圧症候群の疑いがあります。
妊婦さんの尿蛋白が出たときの対策とは?
尿蛋白の検査で2回以上(+)が出て、妊娠高血圧症候群が疑われる場合は、食事や生活習慣を見直した対策が必要です。
1. 塩分を控える
ジャンクフードやラーメンなど、味の濃いものを食べたりしていませんか?
妊娠初期は食べられるものを少しずつでも食べるのが大切ですが、塩分の摂り過ぎには注意が必要です。
塩分を摂り過ぎると尿蛋白が出やすくなるので、つわりが軽くなったら薄味の食事を心がけましょう。
減塩のタイプの調味料を使ったり、香辛料などを使ったりすることで、塩分量を控えられます。
2. カロリー管理をする
妊娠中期から後期にかけてつわりが落ち着くと、食欲旺盛になる妊婦さんも多いのではないでしょうか。
体重の過度な増加は、尿蛋白が出る原因にもなります。
食べ過ぎたと思ったら翌日は食べる量を控えるなどして、1週間単位でカロリーのバランスを摂るのがおすすめです。
3. しっかり睡眠をとる
睡眠不足で疲労がたまっていたり、体調が悪かったりすると、尿蛋白が出やすくなります。
妊娠中は体調の変化で疲れやストレスがたまりやすいので、普段以上にしっかりと睡眠や休息をとるようにしましょう。
4. 適度な運動をする
お腹が大きくなるにつれて運動不足になり、体重の増加に拍車をかけてしまう人もいます。
カロリーの摂取量に気をつけるのと同時に適度な運動を取り入れ、体重を上手にコントロールしてくださいね。
尿蛋白は運動で予防できる?
前述の通り、尿蛋白が出る要因として、運動不足による腎機能の低下も関係しています。
安定期に入って体調が落ち着いてきたら、ウォーキングやストレッチなどの軽めの運動を始めましょう。
妊婦さんの体にかかる負担が少ない、マタニティスイミングやマタニティヨガなどもおすすめです。
妊娠中の運動は妊娠高血圧症候群の予防だけではなく、その他のトラブル予防や出産に向けた体力作りにもつながります。
お腹が大きくなってくると体を動かすのがおっくうになりますが、少しずつでいいので続けてくださいね。
妊娠中の尿蛋白検査で(+)が出ても心配しすぎないで
尿蛋白検査で(+)が出ると、心配してしまいますよね。
ただ、妊娠中は尿蛋白が出やすいものです。一度検査で(+)になったくらいで神経質になりすぎる必要はありません。
しかし、妊婦健診のたびに尿蛋白が(+)になるようなら、妊娠高血圧症候群の可能性もあります。
今回ご紹介した尿蛋白が出やすくなる生活習慣は避け、適度な運動を取り入れるなどして予防に取り組んでくださいね。
また、妊婦健診には欠かさず行くようにし、検査結果や症状で気になることがあれば、医師に相談するようにしましょう。