不妊治療で排卵誘発剤を利用する際に、注意すべき副作用として「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」があります。排卵誘発剤は、その名のとおり排卵を促す効果がありますが、副作用もあることを治療前からきちんと知っておくことが大切です。今回は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の症状や妊娠への影響について説明します。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは?
卵巣過剰刺激症候群(OHSS=Ovarian Hyperstimulation Syndrome)とは、不妊治療の排卵誘発剤などにより卵巣が過剰に刺激され、たくさんの卵胞が一度に発育・排卵することで様々な症状を引き起こす病気です。
排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群であれば、治療の途中で薬の投与を中止することで、重症化を防ぐことができます。
ただし、妊娠が成立している場合、母体と胎児をつなぐ胎盤の絨毛で作られるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の刺激により、重症化する恐れがあるので注意が必要です(※1)。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる確率は?
卵巣過剰刺激症候群は、hCG製剤で排卵誘発を行ったケースのうち20~30%で発症します(※1)。入院が必要になるほどに症状が悪化した人は、1回の排卵周期あたり0.8〜1.5%と、重症化の頻度はそれほど多くありません(※2)。
しかし、排卵誘発剤を使用した不妊治療では、発症への注意が必要な副作用の一つとして理解しておきましょう。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になりやすい人は?
厚生労働省によると、主に次の条件に当てはまる女性は卵巣過剰刺激症候群のリスクが高いとされます(※3)。
● 35歳未満
● 痩せている
● 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)である
● 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になったことがある
● hCG製剤投与量が増加した
● 妊娠している
不妊治療では様々な排卵誘発法が取り入れられますが、特にゴナドトロピン療法(hMG-hCG療法)は効果が高い一方で、卵巣過剰刺激症候群を発症しやすくなります。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の症状は?腹水とは?
不妊治療で排卵誘発剤を使用したあと、以下のような症状が現れたら卵巣過剰刺激症候群の可能性があります(※1,3)。すぐに担当医の診察を受けましょう。
下腹部の張り・吐き気・嘔吐
卵巣が腫れあがることで、お腹に水がたまる「腹水」という状態になります。これにより、下腹部が張っているような違和感がずっと続いたり、明らかにお腹が出てきたりするほか、吐き気をもよおす、実際に嘔吐してしまうといった症状が出ることもあります。
急な体重の増加
腹水がたまることで体重が増加が見られる場合もあります。食生活には大きな変化がないのに、急に体重が増えたときは要注意です。
呼吸困難
まれに、胸に水がたまる「胸水」によって、呼吸困難になることもあります。
脱水症状に似た症状
腎臓の血流が少なくなることで、脱水症状のような状態になることがあります。のどが渇く、尿が少ないなど、体が水分不足だと感じることが多くなったら、それも症状の一つと考えられるので、医師に伝えましょう。
急激なお腹の痛み
最も重症なケースの一つでは、腫れあがった卵巣が、腹水により動きやすくなることによってねじれてしまい、急性腹症を引き起こします。
血栓症(脳梗塞など)
卵巣過剰刺激症候群の影響で、血液が濃縮されたり、血液凝固に異常が出たりすることで、血栓症をきたすのも最重症例の一つです。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の治療法は?
卵巣過剰刺激症候群の治療は、次のとおり症状によって様々な方法があります(※1)。
排卵誘発剤の減量・中止
hCG製剤の代わりにGnRHアゴニストを用いるか、hCG製剤の投与量を減らす、または中止することで重症化を防ぎます。
輸液
血栓症が見られる場合は、輸液を行い、濃縮されてしまっている血液を正常な状態に戻します。
アルブミンの投与
腹水によるお腹の張りや、胸水による呼吸困難が見られる場合、アルブミンを投与し、胸水・腹水を血管内に移す必要があります。場合によっては、体に穴を開け、溜まった液を排出することもあります。
低用量ドパミンの投与
尿が少なくなっている場合、急性腎不全を防ぐため、低用量ドパミンを持続的に投与し、尿量を確保します。
開腹または腹腔鏡下手術
卵巣が茎捻転を起こしている場合、緊急手術をし、ねじれを治します。状態によっては、卵巣・卵管を摘出しなければならないこともあります。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)でも妊娠できる?
もし卵巣過剰刺激症候群になっても、妊娠することはできます。ただし、先ほどご説明したように重症化する例もあるので、慎重に診てもらう必要があります。
軽症の場合は、水分を十分に摂り、激しい運動や性交は控えることが望ましいとされます(※1)。
不妊治療で体外受精のための採卵に向けて排卵誘発剤を使っており、卵巣過剰刺激症候群と診断された場合は、卵巣を刺激する方法を見直す必要があります。採卵後に発症がわかった場合は、一旦胚移植をキャンセルし、胚を凍結するなど無理のない進め方を検討してください。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は予防できるの?
不妊治療を行う際に、病院でも卵巣過剰刺激症候群が発症・重症化しないように予防をしていきます。たとえば、ゴナドトロピン療法では卵胞の成長を見ながら、排卵誘発剤の投与ができるだけ少ない量ですむように治療を行います(※3)。
また、多くの卵胞が成長している場合は、誘発剤の使用を止めて、自然な成長に任せるのも一つの方法です。日本産科婦人科学会のガイドラインによると、排卵誘発中に16mm以上の卵胞が4個以上ある場合には、卵巣過剰刺激症候群だけでなく多胎妊娠の可能性も高まるため、hCG製剤の投与を中止することとされています(※2)。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の自覚症状に気をつけて
卵巣過剰刺激症候群は、悪化すると危険な合併症を併発する恐れがある病気です。ただ、自覚症状に早めに気づいてすぐに治療すれば、重症化のリスクを最小限に抑えられます。
不妊治療中は自分の体調をしっかり把握して、排卵誘発剤を使用していて少しでもおかしいと感じることがあれば、医師に相談するようにしてください。