国語や社会など、ほかの勉強は問題がないのに、算数だけ先に進むことができない…子供にもしそんな症状が見られたら、算数障害(ディスカリキュア)の可能性があります。学習障害の一つである算数障害は、どんな原因で起こるのでしょうか?またその特徴や、チェックする方法はあるのでしょうか?
算数障害(ディスカリキュア)とは?原因は?
算数障害(ディスカリキュア:dyscalculia)は、学習障害(LD:learning disability)のひとつです。
学習障害は発達障害のひとつで、「聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する」の能力のなかで、特定の分野だけ習得が困難な状態のことを指します。算数障害とは、そのなかでも特に「計算する・推論する」という分野に関して、習得が難しかったり、うまく使えなかったりすることです。
特定の分野以外に関しては問題がないことが多く、いわゆる知的障害とは異なります。
知的発達に遅れはないものの、学習面で著しい困難を示す小中学生の子供は全体の4.5%を占め、なかでも「計算する」または「推論する」分野で著しい困難を示した子供は2.3%とする調査結果があります(※1)。
つまり約40~50人に1人の割合で、算数障害の可能性を持つ子供がいることになります。
なお、主として書くことに困難が伴うことを書字障害(ディスグラフィア)、読むことに困難が伴うことを読字障害(ディスレクシア)といいます。
算数障害に限らず、学習障害になる原因は、中枢神経系に何らかの機能的な障害があると推測されていますが、現時点では明確にはわかっていません(※2)。
算数障害の原因やその特徴は?
算数障害の子供の特徴は、前述したとおり、特に算数に関してだけ習得が著しく遅いことです。
文部科学省は、算数だけに小学2~3年生で1学年以上の学習の遅れ、小学4年~中学生で2学年以上の学習の遅れが見られれば、算数に関する学習障害の可能性がある、としています(※2)。
算数障害はどうチェックする?診断方法は?
算数障害はレントゲンなどの検査をして明らかになるものではなく、症状から推測するしかありません。
そのため、以下のようなチェックシートが用意されています。
数処理
1 数字を見て、正しく数詞を言うことができない(読み)。
2 数詞を聞いて、正しく数字を書くことができない(書き)。
3 具体物を見てそれを操作(計数するなど)して、その数を数字や数詞として表すことができない。
数概念(序数性)
4 小さい方から「1、2、3…」と数詞を連続して正しく言うことができない(目安として120くらいまで)。
5 自分が並んでいる列の何番目か言い当てることができない。
数概念(基数性)あるいは数量感覚
6 四捨五入が理解できない。
7 数直線が理解できない。
8 多数桁の数の割り算において、答えとなる概数がたてられない。
計算(暗算)
9 簡単な足し算・引き算の暗算に時間がかかる。
10 九九の範囲のかけ算・割り算の暗算に時間がかかる。
計算(筆算)
11 多数桁の数の足し算・引き算において、繰り上がり・繰り下がりを間違える。
12 多数桁の数のかけ算において、かけたり・足したりの途中計算を混乱したり、適切な位の場所に答えを書くところで間違える。
13 多数桁の数の割り算において、答えの書き方や適切な位の場所に答えを書くところで間違える。
文章題
14 文章題の内容を視覚的なイメージにつなげられず、絵や図にすることができない。
15 答えを導き出すための数式が立てられない。
引用:日本心理学会「算数障害とはいったい?」(※4)
とはいえ、小学1年生が九九の計算ができないのは当然ですよね。学校の授業での進み具合に合わせてチェックすることが必要ですが、未就学の段階では算数障害であるかどうかの判断は難しいのが実情です。
算数障害は治療できる?
算数障害に限らず、学習障害、さらには発達障害というものは、治療することはできません。
しかし足し算や引き算ができないと、日常生活にも影響が出てしまいます。ですから、できるだけ早い段階で、算数障害への対応をとることが大切です。
ただし、算数障害がある子供でも、その特徴は個々によって異なります。それぞれに応じた指導が必要となり、「これ!」という決定的な対応法はありません。
まず子供に算数障害の疑いがあったら、各市町村の窓口や発達障害者支援センターに相談してみるといいでしょう。
学習障害がある子供の多くは通常の学級で勉強していますが、学校や担任の先生と協力しながら、子供が理解しやすい方法を模索していく必要があります。
具体的な例として、以下のような対応をとると、苦手な分野が学習しやすくなるといわれています(※2)。
● 教材の種類や教え方、板書の仕方、ノートの取り方などを工夫して教えること
● 手や指、視覚的な教材を使って数字を認識させること
● コンピューターや電卓などの機器を使うこと
算数障害は上手に付き合うことが大切
嫌いなわけでも、学習意欲がないわけでもないのに算数ができないのは、子供にとってもつらいもの。他の子供と同じような勉強法は合わないことが多いので、できるだけ早く気づいてあげることが子供の可能性を広げることに繋がります。
また算数障害は代数学や幾何学、微積分学のような高度な数学ではなく、基本的な四則演算で症状が現れるものです(※3)。そこを上手にカバーすることができれば、将来的に理系の学習を深めることも決して不可能ではありません。