男性不妊には様々な原因がありますが、射精時に何らかの障害がある「射精障害」に悩まされるカップルもいます。なかでも、女性の膣内で射精することができない「膣内射精障害」は、夫婦の関係性にも影響を与える可能性がある、深刻な問題です。今回は男性の膣内射精障害について、その原因と症状、治療法、克服後の妊娠の可能性についてご説明します。
膣内射精障害とは?
「膣内射精障害」とは、マスターベーションでは射精できるものの、女性の膣内では射精できない状態のことをいいます。どんな女性が相手でも射精できない場合もあれば、特定のパートナーにだけ射精できないこともあります(※1)。
勃起障害とは異なり、勃起したり、性交したりすることは可能であるのが特徴です。
膣内射精障害は不妊の原因になる?
日本産科婦人科学会では、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、一般的に1年間、避妊することなく通常の性交渉を継続的に行っているにも関わらず、妊娠できない場合」を「不妊」と定義しています(※2)。
不妊は、複数の原因が重なっていたり、原因を特定できなかったりするケースもありますが、半分の割合で、男性側に原因があるといわれています(※3)。
男性不妊の主な原因は3つに分けられます。精子を作る能力に問題がある「造成機能障害」、作られた精子が運ばれる精路に障害がある「精路通過障害」、そして性交がうまくできない「性機能障害」です。
膣内射精障害は、このうちの「性機能障害」に含まれます。
自然妊娠が成立するためには、男性の精子が女性の体内に入り、卵子と出会って受精する必要があります。そのため、膣内射精障害で女性の膣内に射精ができない限り、性交による自然妊娠は難しくなってしまいます。
膣内射精障害の原因は?
なぜ、膣内射精障害が起きてしまうのでしょうか?原因は大きくわけて、精神的なものと、不適切なマスターベーションによるものの2つです(※1)。
不適切なマスターベーションによるもの
強い圧力や刺激を与えるマスターベーションに慣れてしまい、女性の膣内での摩擦では快感を得られない、というケースです。
手を使わずにマスターベーションを行うことで、女性との性行為では刺激が足りないと感じることもあります。
また、足を突っ張ったままマスターベーションを行うことでその体勢に慣れてしまい、性行為では射精できないというケースもあります。
精神的な原因によるもの
様々な精神的要因により、膣内射精障害になることもあります。
例えば、女性との性行為に対してプレッシャーを感じてしまうケースがあるようです。なかには、特定の相手との性行為に対してのみプレッシャーを感じてしまい、射精できなくなることもあります。
前者は、1人でマスターベーションをすることに慣れてしまい、女性を相手にすると気が散ってしまうといったケースです。また後者は、妊娠を望む状況に対するプレッシャーなどがあるようです。
さらに、アダルトビデオなどの過激な映像に慣れすぎてしまい、女性との性行為では刺激が足りなく感じてしまうこともあります。
そもそも性欲が起こらない性欲障害、性的なものに対して嫌悪感を抱いてしまう性嫌悪症なども、膣内射精障害の原因となり得ます。
膣内射精障害の治療法は?
膣内射精障害を治すには、その原因にあった治療法や対策を考える必要があります。
マスターベーションの方法の変更
男性器に強い刺激を与えるマスターベーションのしすぎで、女性との性交で快感を得られない、という問題がある場合、膣内と同じ程度の圧力を加えるマスターベーションに慣れていくことが必要です。
手を使ったマスターベーションで徐々にグリップする力を弱めていくことにより、膣内で射精できるように慣らしていきます。
また、男性用マスターベーション補助具であるTENGA CUPも、治療に有効という説があります(※1)。刺激の弱いタイプ、中くらいのタイプ、強いタイプがあるため、刺激が強いタイプから始めて、徐々に弱いタイプに慣らしていきます。
心理療法
緊張やプレッシャーなど、精神的な原因で膣内射精ができない場合、医師やカウンセラーに相談し、アドバイスをもらうことで、根本的な原因を取り除いていきます。
心理療法はすぐに効果が出るとは限らず、時間をかけて実施していくことも必要なので、定期的に通院する場合もあります。
また、特に不妊治療中の場合、パートナーからの何気ない一言が男性にとってプレッシャーになり、膣内射精障害につながる可能性もあります。
夫婦ではなかなか話しづらいことではありますが、面と向かって本音をさらけ出すことが、膣内射精障害を克服する第一歩になるかもしれません。パートナーと協力して治療に取り組めるといいですね。
膣内射精障害を克服したら、妊娠できるの?
精巣機能などに特に問題が見当たらない場合は、膣内射精障害を克服することで、性交による自然妊娠が可能です。
ただし、膣内射精障害は治療に時間がかかるケースが多く、「克服できたと思ったら、自分やパートナーが妊娠しにくい年齢になっていた」ということもあるかもしれません。年齢などを考慮して、できるだけ早く妊娠を希望する場合には、人工授精や体外受精も有効です。
膣内射精障害は克服できるものですが、人工授精・体外受精に踏み切るタイミングなども、パートナーや医師と相談しておくといいでしょう。夫婦で納得のいく選択ができるといいですね。
膣内射精障害は、パートナーと二人三脚で向き合いましょう
「性交で射精がうまくできない」というのは、男性本人にとっても、パートナーにとっても、精神的なショックが大きい問題です。
原因がわからないまま放置してしまうと、2人の関係性が悪化することにもつながりかねませんし、妊娠を望むカップルの場合、子供を授かるチャンスが減ってしまいます。
膣内射精障害はデリケートな悩みではありますが、夫婦揃って不妊外来で相談してみたり、カウンセリングを受けてみたりと、一歩を踏み出す勇気が大切です。
不妊の原因になり得る問題が他になければ、人工授精や体外受精で妊娠できる可能性が高いので、これらの選択肢も、早いうちから視野に入れておくといいかもしれません。
夫婦二人三脚で対処していけると良いですね。