精巣(睾丸)がどのくらいの大きさなのか、知っているようでよく知らないものかもしれませんね。しかし何らかの病気により、片方、もしくは両側の精巣が腫れたり、大きくなったりしてしまうことがあります。今回は、精巣が腫れてしまう原因や治療法、腫れた際は病院に行くべきかなどについてご説明します。
精巣(睾丸)が腫れるとはどんな状況?
精巣は、左右の陰嚢の中に1つずつある、精子をつくり、男性ホルモンを分泌する器官です。精巣でつくられた精子は、精管を通り、前立腺などでつくられた分泌液と混じり、射精時に尿道を通って体外に放出されます。
正常な精巣は楕円形で、長い方の直径が4cm以上あります(※1)。中高生以上でこの基準に満たず、長い方の直径が3cm以下であれば、二次性徴の発達障害や、男性不妊の可能性があります。
また何らかの原因で、いつもより大きくなってしまうこともあります。片側だけ大きくなることもあれば、両方とも大きくなることもあります。
精巣(睾丸)が腫れる原因と治療法は?
精巣が腫れたり大きくなる原因はいくつかあります。ただし精巣は陰嚢の内部にあるので、直接触ったり見ることはできません。
ここでは精巣だけでなく、陰嚢が腫れたり大きくなる原因になる病気と、その治療法をご紹介します。
陰嚢水腫
陰嚢水腫とは、陰嚢の中に水が溜まることです。胎児のときに、精巣は腹部から陰嚢の中へ、道を通って下りていきます。
その道は後で閉じるものですが、何らかの理由で閉じないと、陰嚢に腹水が溜まります。陰嚢に痛みはなく、左右で大きさが違い、ライトで照らすと精巣が透けて見えるのが特徴です。中高年の男性にも起こることがあります。
陰嚢水腫の治療法は?
1歳未満では自然に治ることもあるので、治療せずに経過観察をします(※2)。もし2歳を過ぎても水が溜まっていたり、極端に左右の大きさが違ったりする場合には、一時的に針で水を抜いたり、手術で治療を行います。
鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアとは俗にいう「脱腸」のことで、男性の場合は、力を入れた際などに、臓器(小腸、大腸など)が陰嚢の中に入り込んでしまうことがあります。
鼠径ヘルニアは左側だけ、右側だけのこともあれば、両方に見られることもあります。臓器が飛び出してしまうと狭い場所で臓器が締め付けられるため、痛みを伴うこともあります。
鼠径ヘルニアの治療法は?
鼠径ヘルニアは子供の約1~5%に見られます(※3)。自然に治ることもありますが、生後4~6ヶ月以降に手術で治療を行うこともあります。中高年の男性にも起こることがあり、その場合も手術が必要になります。
精巣炎
細菌やウイルスが精巣に入り込んだことで、精巣が炎症を起こします。
主に流行性耳下腺炎(おたふく風邪)を引き起こすムンプスウイルスが原因となって起こり、精巣が腫れるだけでなく、精巣に激痛を感じることもあります。
おたふく風邪は子供がかかる病気と思われがちですが、それまでにかかったことがなければ大人も感染します。
成人男性がムンプスウイルスに感染した場合、約20%の確率で精巣炎を発症します(※4)。炎症が両方に起こる可能性もあり、精巣が炎症後に萎縮してしまうと不妊症の原因となってしまいます(※5)。
精巣炎の治療法は?
炎症や痛みを抑えるため、患部を冷やしたり、鎮痛薬を服用することで治療を行います。
精巣上体炎(副睾丸炎)
精巣に付いている精巣上体(副睾丸)が細菌に感染し、炎症を起こします。子供も大人もかかり、精巣上体が腫れることで陰嚢が腫れたように見えます。
精巣上体が痛みを伴ったり、発熱することもありますが、痛むのが精巣なのか、精巣上体なのかはわかりにくいものです。
精巣上体炎(副睾丸炎)の治療法は?
完治するまで抗菌薬を使用して炎症を抑えますが、完治しても精巣にしこりが残ってしまうことがあります。
精巣腫瘍
いわゆる「精巣がん」のことで、10万人に1人と、比較的まれな病気ですが、5歳以下と20代後半~30代に多くみられます(※6)。
片側の精巣が腫れたり、硬くなりますが、痛みや発熱はあまりありません。また、比較的短期間で転移しますが、転移した部分も含めて治療で完治しやすいという特徴があります。
がんで亡くなる人全体のなかで、精巣腫瘍が原因の割合は0.1%未満です。転移があったとしても、抗がん剤がとても効果的であることが知られており、がんの中では比較的予後がいいといえます(※6)。
精巣腫瘍の治療法は?
最初に精巣を摘出し、病理組織を確認する必要があります。転移があった場合は、放射線治療や抗がん剤による化学療法がとられることがあります。
精巣捻転症
精巣につながる器官である精索(せいさく)を軸として、精巣が捻じれてしまうことです。
思春期の子供がに起こることが多く、最初は精巣が強く痛み、その後に精巣が腫れてきます。吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
精巣捻転症の治療法は?
精巣捻転症は、精索が捻じれることで血管が締め付けられ、精巣に血液が届かなくなってしまいます。そのため、6~12時間以内に手術を行い、捻じれた精索をもとに戻さなければいけません(※4)。
精巣が壊死してしまった場合は、精巣を摘出することになります。
精索静脈瘤
精索静脈瘤は精巣につながる精索に入っている静脈が、異常に膨らんでしまう状態のことです。10~15歳の時期に増え、成人男性の約15%に見られます(※7)。
痛みを感じることはあまりなく、左右の大きさや硬さの違いで診断します。
左側のみに起こることがほとんど(約90%)で、精索静脈瘤により精巣の精子をつくる機能が低下すると、男性不妊に繋がります(※7)。
精索静脈瘤の治療法は?
手術により静脈をしばり、静脈瘤を解消することができます。また軽度の場合は漢方薬による治療を行うこともあります。
精巣(睾丸)の腫れは、不妊につながる?
精巣や陰嚢が腫れたり、大きくなったりすると、必ず不妊につながるわけではありません。
しかし以下の病気に関しては、不妊につながる可能性があります。
- 精巣炎:精巣が萎縮し、精子を作る機能が低下してしまうことがある
- 精巣上体炎(副睾丸炎):しこりが精管をふさいでしまうと、精子が外に出にくくなることがある
- 精巣腫瘍:片側、もしくは両側の精巣を摘出しなければいけないことがある
- 精巣捻転症:精巣が壊死した場合、その精巣を摘出する必要がある
- 精索静脈瘤:精子を作る機能が低下してしまうことがある
精巣(睾丸)が腫れたら、早めに病院へ
前述のように、精巣や陰嚢が腫れたり大きくなったりする病気はいくつもあります。病気によっては緊急に手術が必要な場合もあります。
また痛みなど他の症状がなくても、男性不妊に繋がる病気もあるので、精巣や陰嚢の腫れや、大きくなっていることがわかったら、早めに泌尿器科で診てもらいましょう。
原因を特定できれば、多くの場合は治すことが可能なので、早めに対処することが大切ですよ。