生殖器の悩みはなかなか人に言いづらいものですが、なかでも「精巣(睾丸)が痛い」というのは口に出しにくいのではないでしょうか。しかし、痛みは何かの病気のサインかもしれませんし、放置しておくと不妊につながる可能性もあるので、注意が必要です。
今回は、精巣(睾丸)に痛みがある場合に考えうる病気について、原因や症状、治療法をまとめました。
精巣(睾丸)とは?
精巣(睾丸)は、男性の生殖器のひとつで、「陰嚢(いんのう)」というシワの寄った皮膚の中に左右1個ずつ入っています。精巣には、精子と男性ホルモンを作る役割があります。
精巣の中にある「精細管」で精祖細胞が細胞分裂を繰り返し、約70日間かけて精子が作られていきます。1日に作られる精子の数は5,000万~1億個といわれています。精巣で作られた精子は、精細管から精巣上体、精管へと移動し、射精に備えます。
また、精巣では男性ホルモンのほとんどを占める「テストステロン」が作られます。これは、精子の形成に欠かせないホルモンで、骨や筋肉の強度、性機能の維持などにも関わっています。
精巣(睾丸)に痛みが生じる病気は?治療法は?
上でご紹介したとおり、精巣は男性にとって重要な役割を持つ生殖器です。もし、その精巣に痛みが生じる場合、どのような病気の可能性があるのでしょうか?ここでは、3つの病気をご紹介します。基本的にどれも泌尿器科での診断が必要なので、覚えておいてくださいね。
急性精巣炎(睾丸炎)
精巣炎には急性と慢性のものがありますが、激しい痛みをともなって急に赤く腫れた場合、「急性精巣炎」の疑いがあります。
主にムンプスウイルスの感染症であるおたふく風邪にともなって起こる病気で、血液を介して精巣がウイルスに感染することにより起こります。急性精巣炎を発症したら、鎮痛薬を服用し、陰嚢を冷やすことで経過観察をします。1週間程度で回復するケースがほとんどです。
ただし、思春期以降に両側の精巣に炎症が起こると、精巣の萎縮が起こり、「無精子症」になるリスクがあるので注意が必要です(※1)。
「男の子は小さいうちにおたふく風邪にかかっておいた方がいい」と聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは、成人してからおたふく風邪にかかると男性不妊症になるリスクが高まるためです。
おたふく風邪は、ワクチン接種で予防することができます。おたふく風邪にかかっていない人は、予防接種を受けることをおすすめします。
精巣上体炎(副睾丸炎)
精巣に激しい痛みと腫れ、38度以上の発熱が見られるだけでなく、さわったときに「しこり」がある場合、「精巣上体炎」の可能性があります。
これは、尿道炎や前立腺炎、膀胱炎といった尿路感染症などで体内に入った細菌が、精巣の横についた「精巣上体」まで逆流し、炎症を起こす病気です。
炎症は抗生物質の投与により治療することができますが、精巣にしこりが残るケースもあります。残ったしこりが、精子の通り道である「精管」をふさいでいなければ問題ありませんが、しこりで精管が閉塞してしまうと、無精子症の原因となるので早急に対応をすることが重要です(※2)。
精巣捻転(精巣軸捻転)
「精巣捻転」は、思春期の男の子に多く発生する病気ですが、成人男性にも見られることがあります。精巣が陰嚢の中で回転してしまい、精巣が赤く腫れあがって激痛が走るのが特徴で、吐き気をもよおすこともあります。
上にご紹介した精巣上体炎と症状は似ていますが、精巣捻転の場合、発熱は見られません。
精巣捻転の治療法としては、精巣のねじれを治し、固定する手術を行うことが一般的です。発症から4~6時間以内に血流障害を回復させなければ、精巣の壊死が進み、精子を作る能力が減少してしまうため、緊急に手術を実施する必要があります。
発症から1日以上経過した場合は、精巣が壊死してしまっているため、精巣摘出手術を行うことになります(※1)。
精巣に痛みが生じる病気は、不妊につながるの?
上で説明したとおり、「急性精巣炎」と「精巣上体炎」にかかると、「無精子症」になるリスクが高まります。無精子症とは、男性不妊症の1つで、精液中にまったく精子が見られない状態をいいます。
WHO(世界保健機関)では、精液検査の基準値を設けており、泌尿器科や不妊外来では精子の数や濃度、運動率などを調べることができます。精巣に炎症を起こす病気にかかり、後遺症が心配な場合は、精液検査を受けてみると良いでしょう。
「精巣捻転」の場合は、精巣の機能が失われるまえに手術を行い、血管障害が復旧できれば問題はありません。しかし、精巣が壊死して摘出しなければならなくなると、精子を作りだせなくなるので、自然妊娠は難しくなってしまいます。
精巣に痛みが生じただけですぐに男性不妊症になるわけではありませんが、いずれの場合もできるだけ早い処置・治療が必要となるので、違和感を覚えた時点ですぐに泌尿器科にかかってくださいね。
精巣に痛みを感じたら、すぐに泌尿器科へ
精巣に痛みを感じたとしても、「我慢していればそのうち治るだろう」と思ったり、気恥ずかしさから病院にかかることをためらったりするかもしれません。しかし、今回ご紹介したとおり、精巣に痛みをともなう病気は、適切な処置をしないまま放置してしまうと、男性不妊症につながるリスクが高いものばかりです。
将来パートナーとのあいだに子供を授かりたいと考えている人は特に、少しでも精巣に痛みを覚えたら、なるべく早く泌尿器科を受診するようにしましょう。