子宮内膜症の治療法は?手術なら費用はどのくらい?

監修医師 産婦人科医 丸田 佳奈
丸田 佳奈 日本産婦人科学会認定専門医。千葉県総合周産期母子医療センター勤務。一人でも多くのママと赤ちゃんを救いたいという想いで日々診療しています。また、現役の産婦人科専門医として、医療情報をテレビやラジオ、雑誌... 監修記事一覧へ

「子宮内膜症」は女性特有の子宮や卵巣の病気です。不妊の原因になることがあるため、これから妊娠を考えている人は、体に現れる症状を早い段階でキャッチして、治療を開始することが大切です。そこで今回は、子宮内膜症とはどのような病気か、原因や症状、治療法、手術の方法・費用についてご説明します。

子宮内膜症とは?

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子宮内膜症とは、本来は子宮の内腔にしかないはずの子宮内膜の組織が、卵巣や卵管など子宮内以外の場所にできる病気です。正常に生殖機能が働いている女性の約7〜10%に見られ、特に20〜40歳代の女性に発症しやすいといわれています(※1,2)。

子宮内膜症が体内のどこで増殖するかは人それぞれですが、卵巣や子宮、骨盤内を覆う腹膜などに発生しやすく、特に卵巣に子宮内膜症ができた場合は「チョコレート嚢胞」と呼ばれます。

子宮内膜症の症状は?

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子宮内膜は生理が近づくと剥がれ落ち、腟を通って体外に排出されます。子宮内膜症で子宮内以外の場所に子宮内膜ができた場合も、同じように生理周期ごとに剥がれ落ちます。しかし、体外に排出されず体内に溜まるため、他の臓器と癒着を起こして様々な症状を引き起こすのです。

一番多い症状は「痛み」です。内膜症のある場所、大きさ、癒着の程度などによって痛みの症状はさまざまですが、主に生理痛や下腹部痛、腰痛、性交痛、排便痛、慢性骨盤痛などが現れます。

痛みについで代表的な症状は不妊で、ほかにも泌尿器症状(排尿痛、血尿)、消化器症状(血便、通過障害)、皮膚病変、呼吸器症状(気胸、血痰、胸痛)などが見られることもあります。

子宮内膜症を発症しても、最初のうちは目立った自覚症状が現れないこともありますが、生理を繰り返すたびに痛みが強くなっていくことで異変に気づきます。

進行すると日常生活に支障をきたすほどの痛みを感じることもあり、ひどい場合には毎月寝込んだり、痛み止めが効かなくなるほどです。

子宮内膜症の原因は?

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子宮外になぜ子宮内膜ができるのかについて、はっきりした原因は分かっていませんが、有力な説として「移植説」と「化生説」の2つがあります(※3)。

移植説

子宮内膜が剥がれ落ちた際、その血液が体外に排出されるのではなく、卵管の方に逆流して腹部付近に溜まることで発症するという説です。子宮外に付着した子宮内膜組織の一部が逆流した先で増殖し、子宮内膜症を引き起こすと考えられています。

化生説

腹膜上皮と呼ばれる細胞が何らかの影響で子宮内膜へと変化し、増殖してしまうと考えられています。

性行為のしすぎで子宮内膜症になることがあるのではないか?という声もありますが、性行為と子宮内膜症に医学的な関連性は見つかっていません。

子宮内膜症はなぜ20〜40代に多いの?

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子宮内膜症は20〜40代の性成熟期によく見られます。この理由としては、生理の回数や妊娠との関係があるといわれています。

子宮内膜は「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と呼ばれる女性ホルモンの働きで、増殖と剥離を繰り返します。これが月経です。子宮内膜症の人は、子宮内以外にも子宮内膜があるため、月経の度にその部位でも出血が起きます。

この出血により強い癒着が起こり、痛みの原因となります。従って、月経の回数を重ねるほど癒着の程度がひどくなり、痛みなどの症状も強くなります。

閉経によってエストロゲンの分泌が止まると、子宮内膜症も急激に減少することがわかっています(※1)。また、妊娠中はエストロゲンの分泌は増えるもののプロゲステロン(黄体ホルモン)も増加して、子宮内膜の増殖が抑制されます。

しかし最近は、初経年齢は早く、閉経の時期は遅くなり、以前よりエストロゲンが分泌される期間が長くなっています。働く女性が増えて、女性一人当たりの妊娠・出産回数が減るなど、ライフスタイルが変化していることも重なって、子宮内膜症の発症者数は増加しています(※4)。

子宮内膜症と不妊症の関係は?

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子宮内膜症の症状の一つとして、不妊症が挙げられます。これは、子宮内以外で増殖した子宮内膜が癒着を引き起こし、卵管などを塞いでしまい、受精・着床を妨げることが原因と考えられています。

子宮内膜症に気づかないまま不妊症に悩んでいる人も多く、不妊症で婦人科を受診して初めて子宮内膜症を発症していることに気づくケースもあります。子宮内膜症があると必ずしも不妊症になるというわけではありませんが、妊娠しづらくなる要因の一つといえます。

軽度の子宮内膜症であれば自然妊娠を目指すこともできますが、病状が進むと不妊治療が不可欠になる可能性もあります。今後の妊娠を望む人は子宮内膜症のリスクを認識した上で、定期的に検査を受けることをおすすめします。

子宮内膜症の治療法は?手術が必要なの?

解決 疑問

子宮内膜症の治療法は、大きく「薬物療法」と「手術療法」の2つに分けられます。どの治療が行われるかは、年齢や症状の度合い、発生箇所、今後の妊娠希望などを検討した上で決められます。

薬物療法

1. 偽閉経療法

卵巣の働きを抑制する薬を使うことで、擬似的に閉経状態をつくる方法です。エストロゲンの分泌が抑えられて月経が止まり、閉経した状態にします。子宮内膜症の症状は軽くなりますが、閉経と同じようなホルモン状態にするため、副作用として骨粗しょう症や更年期障害と似た症状が出ることがあります。

2. 偽妊娠療法

擬似的に妊娠状態をつくる方法で、プロゲステロンを服用することで妊娠中と同じようなホルモン状態にして、子宮内膜の増殖を抑制します。偽閉経療法と比較すると、副作用が少なく長期間に渡って服用することが可能です。

偽妊娠療法にはプロゲステロンだけでなくエストロゲンも含んだ薬、いわゆるピルを使って偽妊娠状態を作り出す方法もあります。それぞれ副作用が出ることもあるため、担当医と相談した上で、使用を開始するようにしましょう。

手術療法

1. 腹腔鏡手術

お腹を切開せず、小さな穴を複数開けて腹腔鏡を挿入し、処置する手術方法です。出血も傷も小さいので体への負担が少なく、回復が早いことが利点です。

2. 開腹手術

腹部を開腹して手術を行う方法です。病巣が大きい場合や、卵巣や子宮の摘出が必要な場合は開腹手術が選択されます。全身麻酔で治療を行い、下腹部を約10〜15cm程度切開して手術を行います。

子宮内膜症の手術費用は?

子宮内膜症の治療にかかる費用としては、偽閉経療法で使用する薬には保険が適用されるものの、注射薬だと1ヶ月で10,000円程度、点鼻薬だと半月で4,000円前後です。

偽妊娠療法で低用量ピルを使用するときには、1ヶ月分で2,000〜3,000円程度になります。ただし、先発医療品か後発医療品(ジェネリック)かで値段には差があるので、詳しい費用に関しては医師や薬剤師に相談してください。

また、手術費用は、腹腔鏡手術であれば入院費用と合わせて20万円程度になります。開腹手術は、保険が適用されても、手術費用と入院費を合わせて30万円ほどかかります。

手術の場合は高額療養費の対象となるので、加盟している健康保険組合などに問い合わせると負担が少なくすむこともあります。

子宮内膜症は漢方薬や鎮痛剤で治療できる?

漢方薬

子宮内膜症に対して漢方薬や鎮痛剤を使う場合は、一時的に痛みなどの症状を和らげるのが目的で、子宮内膜症そのものを治療できるわけではありません。

月経痛や性交痛、排便痛などを軽減させたい場合にはまず婦人科に相談しましょう。症状に合わせて漢方薬や鎮痛剤を処方してもらえます。

子宮内膜症を予防するには?

風景 公園

子宮内膜症を一度発症し、何もせずに放置した場合は、悪化しやすくなります。また、子宮内膜症の原因が明確ではないため、確実な予防法がないのが現実です。

基本的には生活習慣を整えて、ホルモンバランスの乱れを起こさないようにすることが大切です。

● 栄養バランスのよい食事
● 睡眠をしっかりとる
● ストレスを発散する
● 適度な運動で体の冷えを正す
● 禁煙
● 過度なアルコールを避ける

子宮内膜症は早めの治療が大切

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子宮内膜症は完治が難しい病気のため、長期的に付き合っていくことが重要です。不妊にもつながることもあるため、子宮内膜症の症状に気づいたら、早めに婦人科を受診して、治療を開始するようにしましょう。

薬物療法や手術療法など、自分にあった治療法を見つけて、少しずつでも症状が和らぐといいですね。

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