妊娠・出産が可能な年齢の女性のうち、10人に1人が発症するといわれる「子宮内膜症」(※1)。子宮内膜が子宮以外の場所で増殖する病気で、典型的な症状には非常に重い生理痛があります。不妊の原因になることがあるので、妊娠を希望している場合は特に、適切に対処していく必要があります。今回は、子宮内膜症と不妊の関係や、治療の進め方についてご説明します。
子宮内膜症とは?
子宮内膜症とは、通常は子宮の中にしか増殖しない子宮内膜の組織が、腸や膀胱、卵巣など子宮以外の場所にもできてしまう病気です。日本産科婦人科学会によると、特に20〜30代の女性で発症しやすく、ピークの年齢は30~34歳です(※2)。
初期段階では、ほとんど自覚症状が見られないこともありますが、子宮内膜症の患者のほとんどが、生理痛に悩まされています。子宮内膜が増殖する部位によっては、腰痛や排尿・排便痛、性交痛、血尿などが見られることもあるので、生理痛以外にもこのような症状があれば、すぐに婦人科を受診しましょう(※1)。
子宮内膜症で、なぜ不妊症になるの?
子宮内膜症を患っている女性の約50%が不妊症であり、また原因不明の不妊と診断された患者の多くに子宮内膜症が見つかっています(※3)。
子宮以外の場所で作られ、増殖する子宮内膜の細胞組織も、正常な子宮内膜と同じように月経周期に合わせて剝がれ落ちます。しかし、体外に排出されないまま溜まっていき、卵管を塞いで排卵障害が起こったり、子宮内膜の異常により着床障害が起きたりすると、不妊につながると考えられています(※2)。
ただし、卵管の通りが妨げられていない場合でも不妊になる例もあるなど、子宮内膜症から不妊に至る詳しいメカニズムについては、現在も明らかになっていない部分があります(※2)。
子宮内膜症で不妊症にならないためには?
子宮内膜症で不妊症にならないためには、検査による早期発見が重要です。
自覚症状で最もわかりやすいものは、つらい月経痛です。月経の回数を重ねるごとに痛みが強くなっていくのが特徴で、月経のたびに寝込んでしまうという人は、1人で我慢せず婦人科を受診してください。
子宮内膜症の疑いがある場合、問診や内診に加え、超音波(エコー)検査やMRI、CT、腹腔鏡検査、血液検査などを行います(※1)。早期発見することで病気の進行を抑え、症状を軽くできる可能性があるので、検査を受けて診断してもらうことが大切です。
子宮内膜症でも妊娠できるの?確率は?
子宮内膜症の患者の妊娠率は、発症部位や進行の程度によって異なるため、一概にはいえません。
例として、卵巣で子宮内膜症が発症する「チョコレート嚢胞」を合併している場合、腹腔鏡下手術を行ったあとの平均妊娠率が約50%という報告があります(※3)。しかし、途中で治療をやめた人数や、人工授精や体外受精などの割合が明らかではないことから、日本産科婦人科学会によると実際の妊娠率は約25%程度と推測されています(※3)。
子宮内膜症になったからといって、絶対に妊娠できないというわけではないので、治療を受ける前に妊娠の希望があることを伝え、自分に合った適切な治療を選択することが大切です。
なお、自然妊娠が難しい場合は、不妊治療を検討できることもあります。治療方針については、医師やパートナーとよく相談して決めましょう。
子宮内膜症のときの不妊治療は?
子宮内膜症の症状の程度によって、妊娠に向けた治療法は次のように異なります(※4)。
子宮内膜症が軽症の場合
子宮内膜症が軽度で、下腹部痛などの痛みがある程度であれば、手術は行わずに薬物療法を選択されるのが一般的です。
不妊治療のファーストステップである「タイミング指導」を受け、妊娠確率が高い時期に合わせて性交渉を行うことで、自然妊娠を目指せる可能性があります。
ただし、子宮内膜症は再発しやすい病気なので、あまりにも繰り返すようであれば手術で根治治療を行う必要が出てきます。
子宮内膜症が重症の場合
明らかに不妊である例に対して、薬物療法のみの効果は認められていません(※3)。そのため、薬物療法だけでなく、腹腔鏡下手術などを行ったうえで人工授精や体外受精などの不妊治療が検討されます。
ただし、日本産科婦人科学会によると、3~6cmのチョコレート嚢胞がある患者の場合、先に嚢胞を摘出したとしても人工授精や体外受精の成績は特に良くなるわけではなく、逆に卵子の数が減ってしまうという報告もあります(※3)。
一方で、まれですが嚢胞ががん化して不妊につながったり、破裂して緊急手術となったりすることもあるため、適切なタイミングで手術を行うことも重要です。
以上のようなメリット・デメリットを踏まえて、慎重に手術方針を決める必要があります。
子宮内膜症で妊娠しにくくなる前に
子宮内膜症は女性不妊の原因として割合が大きいもので、薬物療法や手術など、治療方法にいくつか選択肢があります。治療をすることによって、妊娠できる可能性が高まることもあります。
「生理痛が重いのはいつものことだから」と我慢せず、子宮内膜症が重症化する前に検査・治療を受けましょう。どのような治療を行っていくのかについては、医師やパートナーとしっかり話し合い、納得のいく道を選んでくださいね。