妊娠中は、様々な肌トラブルに悩まされる妊婦さんが多いと思いますが、「妊娠性疱疹」という病気をご存知でしょうか?妊娠性疱疹は、蕁麻疹のように全身の肌に赤みが出る病気です。そこで今回は、妊娠性疱疹の原因と症状、治療法についてご紹介します。
妊娠性疱疹(ほうしん)とは?
妊娠性疱疹とは、妊娠中または産褥期に発症する病気で、強いかゆみと紅斑が全身に出るのが特徴です。妊娠性疱疹の発症確率は、妊婦さんの5万人に1人という極めて稀な病気です(※1)。
妊娠性疱疹を発症する妊婦さんは、皮膚の紅斑だけでなく、軽度の絨毛膜炎や未熟な絨毛構造、慢性的な胎盤機能不全を引き起こしていることがあります。その結果、早産や低出生体重児につながる可能性があるとも考えられています。
一般的に、妊娠性疱疹の症状は出産後にだんだんと改善されていきますが、産後に症状が悪化することもあります。
また、妊娠性疱疹は次の妊娠時に再発する可能性もあるため、病院での適切な治療が必要です。
妊娠性疱疹の原因は?
妊娠性疱疹は、体内で作られた抗体が自分の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
妊娠をすると、胎盤の上皮に「BP180」というタンパク質が発生しますが、このBP180が妊婦さんの血液中に入ってしまうことが原因だと考えられています(※1)。
BP180が血液中に入ることで、体内に自己抗体が作られます。すると、この抗体が皮膚の表皮と真皮の間にある皮膚基底膜という部分の細胞内にあるBP180を攻撃します。その結果、皮膚の強いかゆみや紅斑という症状が現れるのです。
また、体内で発生した自己抗体は、皮膚基底膜の細胞を攻撃するだけでなく、胎盤に存在するBP180にも作用してしまうと言われています。自己抗体が胎盤のBP180を攻撃すると、慢性的な胎盤機能不全を引き起こし、早産や低出生体重児につながると考えられています。
しかし、そもそもなぜBP180が妊婦さんの血液中に入ってしまうのか、その根本的な原因は明らかになっていません。妊娠によるホルモンバランスの乱れが関係しているという説もありますが、まだ確かな研究結果はありません。
妊娠性疱疹は赤ちゃんに影響があるの?
妊娠性疱疹を発症した妊婦さんの体内で作られた抗体が、胎盤を通じて赤ちゃんに送られることで、新生児の10%程度に皮膚の湿疹が現れることがあります(※1)。ただ、この湿疹は自然に消滅することがほとんどなので、あまり心配することはありません。
先述のように、妊娠性疱疹は早産と低出生児につながる可能性があります。そのため、妊娠性疱疹を発症した妊婦さんは、ハイリスク妊娠として医師による管理が必要となります。
妊娠性疱疹の症状は?他の病気と見分ける方法はあるの?
妊娠性疱疹の症状は、全身に「強いかゆみ」と「紅斑」が出るのが特徴です。症状が悪化すると紅斑は拡大し、皮膚の一部に水ぶくれも生じます。
しかし、肌のかゆみや紅斑といった症状は、以下のような場合にも生じます。
● 妊娠性痒疹
● 蕁麻疹の悪化
● アトピー性皮膚炎の悪化
妊娠性疱疹と同じく妊娠中に発症する妊娠性痒疹は、主に妊娠中期から後期にかけて、腕やお腹、脚、背中など体の至ることに発疹が現れます。局所的に赤くて小さな湿疹ができることもあれば、だんだんと全身に広がっていくこともあります。
妊娠性疱疹とその他の皮膚疾患との明確な症状の違いがないため、自分で見極めることは困難です。全身にかゆみや紅斑が出てきた場合は、早めに医師に相談しましょう。
妊娠性疱疹の検査方法は?
妊娠性疱疹の検査方法は、主に細胞生検と血液検査の2つがあります。
細胞検査
症状が出ている皮膚を一部採取して、顕微鏡で皮膚基底膜の状態を調べます。皮膚基底膜の上に多数の水疱ができているか、自己抗体が作られているかを確認します。
水疱と自己抗体があった場合、妊娠性疱疹であると確定されます。
血液検査
細胞検査の後に行う血液検査では、血液中にある妊娠性疱疹の原因となる自己抗体の量を調べます。検出される数値が高い場合、症状はかなり重症化していると考えられます。
妊娠性疱疹の治療法は?
妊娠性疱疹の治療法は、抗ヒスタミン薬の服用と、ステロイド剤の塗布です(※1)。
重症化している場合は、皮膚の炎症と自己抗体の発生を抑えるために、ステロイド剤を服用することになります。このとき、胎児に影響がないように少量から開始し、症状にあわせて量を調節していきます。
妊娠性疱疹の症状が出たら早めに病院へ
肌にかゆみや赤みがあっても、最初はただの湿疹かなと思うかもしれません。しかし妊娠性疱疹は、妊娠の継続に伴って症状が悪化していくことがあり、まれにお腹のなかの赤ちゃんに影響があることもあります。
湿疹があるからと不安になりすぎると、かえって精神的なストレスが溜まってしまいますが、かゆみや赤みが悪化してきたり、水疱もできてきたりする場合は妊娠性疱疹の可能性があるので、早めに医師に相談してくださいね。