婦人科系の病気を治療するためにホルモン剤が処方されることがありますが、はじめて処方されるときは、どんな薬なのか不安を感じる人も多いのではないでしょうか。今回はそんな不安を払拭するために、ホルモン剤の効果や種類、どんな治療で使われるのかなどをご説明します。
女性のホルモン剤とは?効果は?
ホルモン剤とは、体内で分泌されているホルモンを合成し、医療用の製剤にしたものです。適切なタイミングで使うことで、体内で不足しているホルモンの作用を補うことができます。
治療内容によって使われるホルモン剤の種類は異なりますが、効果としては主に次の2パターンに分かれます。
女性ホルモンの作用を直接補う
女性ホルモンには、次の2種類があり、それぞれの作用を直接補うホルモン剤があります。
● エストロゲン(卵胞ホルモン):排卵前の卵胞から主に分泌され、子宮内膜を厚くさせる
● プロゲステロン(黄体ホルモン):排卵後に卵胞が変化した黄体から主に分泌され、受精卵が着床しやすいよう子宮内膜の厚さを維持する
女性ホルモンの分泌を間接的に助ける
主に不妊治療で、女性ホルモンの産生や分泌を間接的に助けるホルモン剤が使われることもあります。
● FSH(卵胞刺激ホルモン):卵胞の発育を促し、エストロゲンが作られるのを助ける
● LH(黄体形成ホルモン):排卵を誘発し、プロゲステロンが作られるのを助ける
● GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン):LHとFSHが作られ、分泌されるのを助ける
生理不順で処方されるホルモン剤は?
女性ホルモンのバランスが崩れると生理不順や月経前症候群(PMS)などが起きます。このようなとき、最初の治療で使われることが多いホルモン剤は「低用量ピル(経口避妊薬)」です。
ピルには、エストロゲンとプロゲステロンが配合されており、飲み続けることでホルモンバランスが整い、生理不順やPMSが改善されることが期待できます。
ピルには、配合されているホルモンの量によって「一相性」「二相性」「三相性」という3つの種類があります。現在日本で販売されているのは、主に次のような一相性と三相性の低用量ピルです。
● 一相性:マーベロン、ファボワールなど
● 三相性:アンジュ、トリキュラー、ラベルフィーユなど
そのほか、生理がこない「無月経」や排卵が起こらない「無排卵」などが見られる場合には、エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤を分けて投与することもあります。
不妊治療に使われるホルモン剤は?
不妊治療では、排卵をサポートする「排卵誘発剤」や、採卵したあとに黄体ホルモンを補う「黄体ホルモン製剤」を併用することが多くあります。
排卵誘発剤は、脳の視床下部に対して「GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)」の作用を発揮したり、卵巣に対して「FSH(卵胞刺激ホルモン)」や「LH(黄体形成ホルモン)」のように作用したりすることで、卵胞の発育と排卵を促します。
黄体ホルモン製剤は、体内のホルモンバランスを保つために使用されます。
● 排卵誘発剤:クロミッド、セキソビット、hMG、hCGなど
● 黄体ホルモン製剤:デュファストン、ルトラールなど
更年期障害の治療に使われるホルモン剤は?
年齢が上がるにつれて、エストロゲンやプロゲステロンの分泌量は減少し、その反動でFSHやLHの分泌量が増えていきます。更年期障害は、過剰分泌されたFSHやLHが自律神経に影響を与えることで現れると考えられています(※1)。
そこで、急減したエストロゲンとプロゲステロンをホルモン剤で補い、更年期障害の症状を緩和するのが「ホルモン補充療法(HRT)」です。症状や体質に合わせて、エストロゲンだけを補ったり、プロゲステロンと合わせてホルモン剤を投与したりします。
更年期障害の治療に使われるホルモン剤には、次のように飲む・貼る・塗るの3タイプがあります。
● 経口薬:プレマリン、ジュリナ、エストリールなど
● 貼付薬:エストラーナ、フェミエストなど
● 塗布薬タイプ:ディビゲル、ル・エストロジェルなど
子宮筋腫や子宮内膜症の治療に使われるホルモン剤は?
子宮筋腫や子宮内膜症は、女性ホルモンのうちエストロゲンの分泌量が過剰になることで増殖・肥大化すると考えられています(※1)。
そのため、ホルモン剤の注射でGnRHやLH、FSHなどの分泌を抑えることで、結果的にエストロゲンの分泌量も減少させ、子宮筋腫や子宮内膜症の症状の改善を試みることもあります。
また、エストロゲンとプロゲステロンが配合された内服薬によって生理周期を整えることで、症状が軽くなることもあります。
●注射薬:リュープリン、ゾラデックスなど
●内服薬:プラノバール、ルナベル、ヤーズなど
乳がん治療に使われるホルモン剤は?
乳がんの細胞は、エストロゲンを取りこんで増殖する性質があるため、手術で乳がんを切除したあとに、再発を予防する目的でエストロゲン作用を抑えるホルモン剤が使われることがあります(※2)。
乳がんのホルモン療法で使われる薬は、閉経前と閉経後で使い分けられます。
閉経したかどうかに関係なく使われる「抗エストロゲン剤」のほか、閉経前に使われる「LH-RHアゴニスト製剤」、閉経後に使われる「アロマターゼ阻害剤」の3種類があり、具体的には以下のような薬があります。
● 抗エストロゲン剤:ノルバデックス、フェアストンなど
● LH-RHアゴニスト製剤:リュープリン、ゾラデックスなど
● アロマターゼ阻害剤:アリミデックス、アロマシンなど
ホルモン剤を使うと、不正出血がある?
ホルモン剤の種類によっては、使用時に性器から少量の不正出血が見られることもあります。
これは、薬の作用でホルモンバランスが変わるためで、すぐに不正出血がなくなることがほとんどなので、一時的なものであれば大きな心配はいりません。
ただし、医師からあらかじめ言われていた期間よりも長く出血が続いたり、量が多かったりするときには、ホルモン剤が処方された病院で相談しましょう。
ホルモン剤とは正しく付き合おう
ホルモン剤は、婦人科系の病気の治療や症状の改善に効果が期待できる反面、副作用が現れることもあるので、処方されるときに医師に確認してください。また、用法・用量を守って正しく使ってくださいね。
ホルモン剤を服用していて体に違和感があったり、体調不良を感じたりしたときには、早めにかかりつけの医師に相談して、薬の種類や量を変えるなどの対処をしてもらいましょう。