毎年5,000人の赤ちゃんが必要とする「ドナーミルク」とは?

生まれたときの体重が1,500g未満の赤ちゃんのことを「極低出生体重児」と言います。日本ではさまざまな理由から年間約7,000人の極低出生体重児が生まれています。

こうして小さく生まれた赤ちゃんは、腸の一部が壊死する「壊死性腸炎(えしせいちょうえん)」をはじめ、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高いとされています。これらの合併症を予防するのに有効とされているのが、母乳です。

しかし、ママの母乳が十分に出ず、必要な量の母乳が得られないことは少なくありません。自身の母乳をあげられるまでの間、赤ちゃんを守るために推奨されているのが「ドナーミルク」。

このドナーミルクを必要とする赤ちゃんは、年間5,000人いるといわれています。産後のママと赤ちゃんを救う選択肢の一つとして、ぜひ出産前に知っていてほしいドナーミルクについて、今回はご紹介します。

ドナーミルクを必要とする「極低出生体重児」が生まれる原因は?

エバセンベビー 新生児 泣く
赤ちゃんが極低出生体重児として生まれてくる原因はいくつかあります。極低出生体重児を含む低出生体重児(生まれたときの体重が2,500g未満の赤ちゃん)が生まれる背景について、厚生労働省が公開している「低出生体重児保健指導マニュアル」では次のような項目が記載されています(※1)。

・母体側の原因
妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、子宮頸管無力症、前置胎盤、絨毛膜羊膜炎のような感染

・母体以外の原因
双胎、多胎妊娠、羊水過多症、羊水過少症、胎児発育不全、子どもの疾病

他にも妊娠中の生活習慣として、喫煙していると出生体重が少ないという研究結果にも言及しています。さまざまな原因によって、胎児の発育に影響を及ぼしたり、早産にならざるを得ない状況になったり、早く出産して治療した方が良いという判断になったりしているようです。

こうして年間約90,000人の低出生体重児が生まれ、そのうちの約7,000人が極低出生体重児として生まれています。

ドナーミルクとは?

哺乳瓶 粉ミルク
ドナーミルクとは、ある一定の基準を満たした女性から提供され、安全に管理された母乳のこと。提供された母乳は「母乳バンク」という施設に預けられ、細菌検査や低温殺菌処理が行われた後、冷凍保管しています。

ドナーミルクは2002年からWHO(世界保健機構)でも使用が推奨されており、母親の母乳をあげられない時は、人工乳(粉ミルク)よりもドナーミルクを優先して与えるよう勧告されました。

1,500g未満で生まれた赤ちゃんは、腸も未熟です。母乳には⾚ちゃんの腸を早く成熟させる物質が含まれています。特に、発症すると死亡率の高い「壊死性腸炎(えしせいちょうえん)」については、人工乳よりも母乳の方が発症率が低いことがわかっています(※2)。

多くは生まれたときの体重が1,500g未満の極低出生体重児が対象ですが、他にもNICUに入院中で担当医が必要と判断した赤ちゃんであれば、ドナーミルクを利用することができます。

ドナーミルクの安全性は?

母乳バンクで安全に管理されていると言っても、他の人の母乳を飲ませることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。

日本で母乳バンクを運営している団体のひとつ、一般社団法人日本母乳バンク協会のHPでは、ドナーミルクの安全性について次のように説明しています。

赤ちゃんを感染から守るための対策

● ドナーになる女性は、登録時に診療録の確認ならびに検診を受けます。血液検査によって、母乳や血液からうつるウイルスや病原体(HIV1、HTLV-1、B型肝炎、C型肝炎、梅毒)をもっていないことが確認されています。

● 母乳を提供していただくとき、その時点での健康状態(ご家族を含めて)を確認しています。

● 提供された母乳は殺菌処理の前に細菌検査を行い、母乳に病原菌が含まれていないことを確認します。そして、62.5℃、30分の低温殺菌処理を行います。その後、あらためて細菌検査にて細菌が全く検出されないことを確認します。

これらの基準は、一般の粉ミルクの細菌に関する規定よりも厳しく設けられています。ドナーミルクは社会みんなで助け合って赤ちゃんを育てていこうとする仕組みです。そのために徹底的に安全性が考慮されているので、もしも必要になった際は、その点は安心して利用してくださいね。

ドナーミルク利用の流れ

担当医がドナーミルクの必要性を判断したら、保護者に内容を説明し、文書での同意が得られてはじめて利用することができます。保護者の承諾なしに勝手に利用されることはないので、安心してくださいね。利用にはもちろん、お金はかかりません。


▲ドナーミルク提供の流れ(一般財団法人日本財団母乳バンクHPより)

現在ドナーミルクを常備しているNICUは、全国約250あるNICUのうち50ヶ所程度と言われています(2022年2月時点)。一般社団法人日本母乳バンク協会のHPでは、連携施設一覧が公開されているので、気になる方はチェックしてみてくださいね。

事前に病院へドナーミルクの取り扱いについて確認し、必要な際は希望を出せるのか聞いておいても良いかもしれません。

ドナーミルクの課題

ドナーミルクの必要性は世界的にも認められており、現在50ヶ国750ヶ所以上の⺟乳バンクが活動しています。一方日本は、2022年4月に2拠点目の母乳バンクが開設されたばかり。まだまだドナーミルクの認知も足りていないのが現状です。

しかし、2020年度は203人、2021年度は360人以上の赤ちゃんにドナーミルクが提供され、少しずつ広がりを見せてきました。新しく開設された「日本財団母乳バンク」では、母乳の成分を分析し、赤ちゃんごとに最適なドナーミルクを提供する、世界初のオーダーメイドのドナーミルクの提供を目指しているそうです。

今後も、ドナーミルクを必要とするすべての赤ちゃんに安定的に提供できるよう、各地への母乳バンクの整備や認知、ドナーミルクの理解を深める普及活動といった動きが期待されています。

同時に、ドナーミルクの提供者も必要です。産後、もしも赤ちゃんが必要とする以上に多くの母乳が出た場合、1ヶ月健診を終えた後であればドナー登録をすることができます。

登録申請は「一般社団法人日本母乳バンク協会」もしくは「一般財団法人日本財団母乳バンク」のホームページからできるので、興味のある方はぜひ参考にしてみてくださいね。

いざという時、前向きな決断をするために

日本の新生児医療は世界でもトップレベルと言われ、生まれた時の体重が500gに満たない赤ちゃんでも5割以上は生存退院します。それでも、思った以上に早く出産することになったり、赤ちゃんが小さく生まれたりしたら、心配になったり、不安になってしまうのは当然のことです。

そんな時、こうしてママと赤ちゃんをサポートする取り組みについて知っていれば、少しでも前向きな決断ができるかもしれません。ドナーミルクの使用説明・承諾の際は、ママの体調がすぐれず、パパが対応した、という方もいます。今のうちからパパともぜひ話し合ってみてくださいね。

監修:一般財団法人日本財団母乳バンク
日本財団母乳バンクは、NICUに入院している超早産・極低出生体重の赤ちゃんに、人生最初の栄養として母乳をあげることで、赤ちゃんたちの健康のみならず、将来の可能性を大きく広げていくこと、そして、ドナーミルクを通して無限に広がった未来が、よりよい世界を創っていくことを目指しています。
https://milkbank.or.jp/
https://www.instagram.com/milkbank_official.jp/

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