生まれたばかりの赤ちゃんが発症する病気に「先天性股関節脱臼」があります。名前に「先天性」とついていますが、実は後天的に起きるものがほとんどです。それでは、先天性股関節脱臼は何が原因で起こるのでしょうか?また、どのように治療していけば良いのでしょうか?今回は赤ちゃんの先天性股関節脱臼について、原因や症状、治療法、予防法などをご紹介します。
先天性股関節脱臼とは?
先天性股関節脱臼とは、大腿骨(ももの骨)の先端が骨盤にはまらず、外れてしまっている状態のことです。名前が「先天性」となっているため、生まれつき起こっている病気だと思われがちですが、先天性股関節脱臼の9割以上が後天的なものです(※1)。
日本股関節研究振興財団によると、先天性股関節脱臼が発生する確率は約0.2%で、日本小児整形外科学会は、男の子より女の子のほうが約10倍かかりやすいとしています(※2,3)。
先天性股関節脱臼は、原因を理解してきちんと対策を取れば、予防することが可能です。
赤ちゃんの先天性股関節脱臼の原因は?
赤ちゃんが逆子で生まれた場合、出産時に股関節が脱臼することがありますが、先天性股関節脱臼は多くの場合、赤ちゃんの自然な姿勢を妨げてしまうことが原因で起こります。
赤ちゃんの自然な姿勢とは、上半身は腕を軽く曲げて上に挙げるW字形で、下半身は股関節と足がM字形になっている状態を指します。大人の足とは異なり、赤ちゃんの足は外側に開いた状態が普通です。
そのため、赤ちゃんの足を無理にまっすぐにするような形でおむつや衣類を着用させてしまうと、先天性股関節脱臼の状態が起きることがあります。また、赤ちゃんの足をまっすぐに伸ばした状態で抱っこすることも、先天性股関節脱臼につながる恐れがあります。
赤ちゃんの先天性股関節脱臼の症状は?
先天性股関節脱臼は脱臼の程度によって分類でき、大腿骨が骨盤から外れかかっている状態を「亜脱臼」、大腿骨が骨盤から完全に外れた状態を「完全脱臼」といいます。
どちらも早期発見による治療が大切なのですが、先天性股関節脱臼は痛みがないため、赤ちゃんが泣いて知らせてくれるということはほとんどあまりません。したがって、日頃から以下のような症状に気をつけ、先天性股関節脱臼の可能性がないかをよく観察してあげてください(※1,4)。
先天性股関節脱臼の主な症状
・ひざを曲げた状態で股を広げたときに、「ポキッ」や「クリッ」などの音が鳴る
・両足をそろえたときに、左右の太ももやお尻のしわの数が異なる。また、足の長さが異なる
・両足を曲げて、ひざを外側に開いたときに、片方もしくは両方の足の開きが悪い
・足を引きずるようにしてハイハイする、立つ、歩く
先天性股関節脱臼で病院を受診するタイミングは?
先天性股関節脱臼が疑われる症状が見られたら、小児科か整形外科を受診しましょう。病院では、股関節の開きなどをチェックし、レントゲンによって先天性股関節脱臼かどうかを調べます。
先天性股関節脱臼は早期発見が大切なため、生後1ヶ月、3~4ヶ月検診のチェック項目になっており、乳幼児健診で先天性股関節脱臼に気づくことも少なくありません(※1)。
先天性股関節脱臼の治療法は?
先天性股関節脱臼の治療は、症状が軽ければ、普段の抱っこの仕方やおむつの履かせ方を工夫するだけで治ることがあるのですが、症状が重ければ、手術などの特別な治療を必要とすることがあります。
日常的にケアする
先天性股関節脱臼が軽度の場合、日常生活のちょっとした心がけで治ることがあります。例えば、赤ちゃんが自然な姿勢を保てるように、寝るときは足がM字形に開いているようにします。抱っこするときは、両足の間に手を入れ、股を割るようにします。
おむつや衣類などを着用させる際も、足が自由に動かせるようにきつく締めるのではなく、ゆとりを持っておむつを履かせたり、服を着させたりしてあげてください。
装具を使う
日常生活のケアでは十分に治らない場合や、完全脱臼の可能性がある場合は、リーメンビューゲルと呼ばれるバンドを肩から足にかけて治療します。
赤ちゃんの理想的な姿勢をサポートしてくれるようになっており、生後3~6ヶ月の間に赤ちゃんが使用すれば、亜脱臼で100%、完全脱臼で90%が治るとされています(※1)。
牽引治療や手術
装具を使っても治らない場合には、足を引っ張る牽引治療や、ギブスによる固定が行われます。それでもよくならない場合は、大腿骨が骨盤におさまるようにする手術を行います。
先天性股関節脱臼で手術に至るのは、全体の3%程度です(※1)。
先天性股関節脱臼の予防は日頃の心がけから
赤ちゃんが足をM字形に開けるように日頃から工夫することで、先天性股関節脱臼を予防することができます。おむつはサイズに余裕がある股おむつを履かせ、抱っこするときは赤ちゃんを正面から抱いて、両足の間に手を入れましょう。
赤ちゃんが足を伸ばした状態のままでいると、先天性股関節脱臼を起こす可能性があるので、ベビースリングで横抱きしたり、おくるみで足をきつく巻いたりすることは避けてください(※3)。どうしてもベビースリングで横抱きしたいときは、医師や助産師の指導を受けて足が伸びないように注意しておくと安心です。
そして、乳幼児検診には必ず行き、先天性股関節脱臼らしき症状が見られたら、早めに病院を受診するようにしましょう。先天性股関節脱臼は早期に発見し対処することで、治療がスムーズに進みますよ。