「黄体ホルモン(プロゲステロン)」は、「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と共にバランス良く分泌されることで生理周期を作り出す女性ホルモンです。不妊治療の一環として、注射で投与されることがありますが、どのような効果があるのでしょうか。今回は、黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)による治療について、痛みや副作用の有無も含めてご説明します。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は、どんなときに必要?
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は、何らかの原因で「黄体ホルモン(プロゲステロン)」が上手く働かず、子宮内膜の環境が整わないときなどに使用されます。
例えば、黄体機能不全が不妊の原因になっている場合や、体外受精の胚移植後に妊娠を維持する必要がある場合など、不妊治療の一環で使われることがあります(※1)。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)の効果は?
そもそも黄体ホルモンは、基礎体温を上昇させ、子宮内膜の厚い状態を保つことで受精卵が着床しやすい(妊娠しやすい)状態に整え、妊娠を維持する働きをします。
しかし、排卵後の卵胞が変化してできる「黄体」に異常があり、黄体機能不全が起きている場合、黄体ホルモンの分泌が不足してしまいます。
また、体外受精を行う前に、ゴナドトロピン製剤などで卵巣を刺激すると、卵胞の発育と排卵が促される一方で、ホルモン分泌の指令を出す脳下垂体の機能が抑えられ、やはり黄体ホルモンの分泌量が少なくなってしまいます。
いずれの場合にしても、黄体ホルモンの不足により、子宮内膜が厚くなる前に剥がれ落ちてしまい、妊娠しづらくなってしまうか、妊娠したとしても受精卵が子宮内膜に留まっていられず、流産が起こる恐れがあります。
こういった場合に、黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)を投与することで、体内で不足している黄体ホルモンの作用が補われ、「妊娠しやすく、流産しにくい」子宮内環境に導くことができるというわけです。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)はいつまで打つの?
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)を使うのは妊活中のみというイメージがある人も多いと思いますが、受精卵が着床して、無事に妊娠が成立したあとも、しばらく使い続けることがあります。
一般的には、妊娠7週頃から「胎盤」が作られはじめ、妊娠12週頃には胎盤から黄体ホルモンが十分に分泌されるようになります(※2)。
そのため、黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)を妊娠12週頃まで使い続けることもありますが、子宮内膜の状態や注射薬の種類などによって使用期間は異なります。病院で注射を受けている人は、いつまで通院するべきか医師に確認しましょう。
また、自分で黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)を行っている場合も、自己判断で使用をやめたりせず、必ず医師の指示に従って適切に治療を続けてくださいね。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は痛い?副作用は?
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は筋肉注射なので、針が刺さるときに痛みを感じる人もいます。
病院で注射を受ける場合、神経に当たらないよう医師が慎重に対応しますが、万が一注射をしたあとに強い痛みを感じたときは、すぐに医師に伝えましょう。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)による副作用の頻度ははっきりとわかっていませんが、一例として「プロゲデポー筋注(持田製薬)」という注射薬の場合、頭痛や眠気、倦怠感、むくみ、体重増加などの症状が副作用として報告されています(※3)。
また、男性ホルモンの「アンドロゲン」のような作用を示すことがあるため、にきびが増えたり脂質代謝がうまくいかなかったりといった症状が現れる可能性も指摘されています(※4)。
ただし、今のところ黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は、血栓症などの重い副作用は報告されていないようです(※3)。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)の費用はどれくらい?
治療のための黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は、基本的には健康保険が適用されるため、1回あたりの自己負担額は200~300円程度です。
ただし、何週かにわたって接種が必要なことや、他の検査や治療と組み合わせて行うこともあるので、全体でどのくらいの費用がかかるのか事前に病院に確認しておくと良いでしょう。
また、接種回数が多いときには、保険適用の範囲から外れることもあるため、詳しくはかかりつけの産婦人科で聞いてみてくださいね。
黄体ホルモンは注射以外でも補える?
黄体ホルモンを補うプロゲステロン製剤には、注射薬以外にも経口薬(飲み薬)や腟錠、ゲルタイプもあります(※4)。
天然の黄体ホルモンは、経口薬として飲むと多くが肝臓で代謝され、成分のほとんどが子宮に届く前になくなってしまいます。そのため、経口薬に含まれるのは合成の黄体ホルモンで、商品としては「ディナゲスト」や「デュファストン」、「ルトラール」などがあります。
また、注射薬と同じく天然の黄体ホルモンを含み、子宮に直接作用することができるのが「ルティナス」などの腟剤や、「ワンクリノン」などのゲル剤です。これらは、注射薬よりも痛みが少なく、比較的簡単に体内に入れることができるというメリットがあります。
不妊治療でどの薬をどのくらい使うかは、その人のホルモン分泌や子宮内環境の状態にもよるので、医師と相談しながら自分にあった治療法を検討しましょう。
黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)で妊娠率を高めよう
不妊治療で使われる薬には様々な種類がありますが、そのなかでも黄体ホルモン注射(プロゲステロン注射)は、妊娠しやすい・妊娠を維持しやすい子宮の状態を作るためのサポートをしてくれるものです。
「ホルモン注射」というと少し怖いイメージを持っている人もいるかもしれませんし、継続的に注射を打つ必要があるなど大変な部分もありますが、不安なところは医師に聞きながら、治療法のひとつとして検討してみてくださいね。