体のデリケートな部分の悩みは、なかなか人に言えないもの。男性の中には、睾丸を包んでいる「陰嚢(いんのう)」にかゆみを感じて、原因がよくわからないまま我慢している人も多いかもしれません。しかし、湿疹が慢性化するのを防ぐためには、早めの対処が大切です。今回は、陰嚢湿疹の症状と原因、治療法や予防法について、詳しくご説明します。
陰嚢湿疹とは?その症状は?
陰嚢とは、男性の生殖器のひとつである「精巣(睾丸)」や「精巣上体」を包む、袋状の皮膚のことをいいます。下着の締めつけや汗などにより蒸れやすく、かゆみを伴う湿疹が現れることもある部位です。
陰嚢に湿疹ができてしまうことを「陰嚢湿疹」と呼びます。皮膚には特に異常が見られなくても強烈なかゆみがあり、場合によっては日常生活に支障が出るほどかゆいこともあります。
また寝ているときなどに掻きむしってしまうと、ひっかき傷ができてしまいます。その傷が悪化すると、入浴時などにヒリヒリとした痛みが生じたり、炎症がひどくなると、ジュクジュクと膿んだようになることもあります。
陰嚢湿疹の原因と疑われる病気は?
正確には「陰嚢湿疹」という病気はありません。陰嚢湿疹は症状のことで、そこには様々な原因が存在します。
体質やアレルギー反応によるもの
他の部位に生じる「湿疹」や「皮膚炎」と同じように、アトピーや花粉症などアレルギー体質の人は、陰嚢湿疹が起こりやすい傾向にあります。
もしくは、性交時に使ったコンドームのラテックス素材に対するアレルギーによって、陰嚢がかぶれることもあります。
環境によるもの
陰嚢は通常、体温より2~3度低く保たれており、温度調整のために他の部位よりも汗をかきやすくなっています。つまり高温多湿な状況下では蒸れやすく、菌が繁殖しやすい環境になります(※1)。
排尿障害によるもの
尿が出にくかったり、尿の勢いが弱いなどの症状があることを排尿障害と呼びます。この原因は膀胱や前立腺、尿道に何かの問題があることが考えられます。
陰嚢湿疹と、いんきんたむしは違う?
「いんきんたむし」といえば、股付近がかゆい病気として、発症したことはなくても名前を聞いたことがある人は多いでしょう。
いんきんたむしは、皮膚糸状菌というカビによる感染症である「白癬(はくせん)」のひとつです。白癬はケラチンというタンパクを栄養源とし、毛や爪に感染します。足にできた白癬は水虫、股にできた白癬はいんきんたむしと呼ばれています。(※2)
水虫の人が、水虫を触った手を洗わずに股を触るといんきんたむしになってしまいます。症状はかゆみの他、赤い斑点のようなぶつぶつができます。その多くは、陰嚢だけでなく股間部全体に広がります。
また気温が低く乾燥している冬には症状が出ず、高温多湿な夏になるとかゆくなることが多い病気です。
陰嚢湿疹は性感染症からも起こる?
陰嚢湿疹とは異なりますが、いくつかの性感染症では陰嚢や周辺のかゆみを伴うことがあります(※3)。
ケジラミ
ケジラミというシラミ(虫)が、寄生していたパートナーとの性行為により移動することで発症します。ケジラミが寄生してしまうと、陰毛の根本付近に産卵、繁殖します。ケジラミが血を吸うため、かゆみを感じます。
性器ヘルペス
性的接触のあと、2~10日間の潜伏期間後に症状が現れます。1~2mmの水泡があらわれ、性器にかゆみや違和感を伴います。その後水泡が破れて、痛みのある円形の潰瘍になります。
尖圭コンジローマ
性器へのヒト乳頭腫ウイルスの感染による性感染症で、3週間~8ヶ月という長い潜伏期間を経て発症します。陰嚢の他、陰茎の亀頭などがかゆくなることもあります。
陰嚢湿疹の治療法は?薬が必要?
一般的に陰嚢湿疹の症状が現れたときには、皮膚の症状改善として、ステロイド剤を配合した軟膏を処方されることが多いようです。
しばらく塗り薬を服用しても症状が改善されなければ、感染症にかかっていないかどうか、さらなる検査が必要となる場合もあります。
なお、排尿障害が起きている場合には、前立腺肥大など原因となる病気に合わせた治療が必要となります。
陰嚢湿疹を予防するには?
陰嚢湿疹ができないように予防し、万が一かかってしまっても悪化させないようにするためには、次のようなことに気をつけましょう。
通気性の良い下着を身につける
陰嚢がかゆくなる原因として、皮膚の乾燥や汗による蒸れが考えられます。できるだけ通気性が良く、締めつけの少ない下着をはくようにすると良いでしょう。具体的には、ブリーフよりトランクスの方が適しています。
陰嚢を清潔に保つ
毎日入浴することはもちろんですが、トイレに入ったときにも陰嚢付近を拭く習慣をつけるのも一つの予防策です。
ただし、陰部を清潔に保とうとしてシャワートイレを使いすぎると、その圧などによってかゆくなってしまう場合もあります。
食生活や生活習慣を見直す
アレルギーやアトピーが原因で陰嚢に症状が出ている場合、食事や生活習慣を見直すことで症状が改善することもあります。毎日適度な睡眠・運動をすることで代謝を上げることも有効です。
体の不調は、陰嚢に限らず皮膚に出やすいものなので、精神的なストレスも溜めこまないように心がけましょう。
陰嚢に湿疹が出たら、早めに病院で相談を
陰嚢にかゆみが生じても、「何かにかぶれただけかな」と軽くみてしまったり、病院で症状を訴えるのが恥ずかしくて躊躇してしまったりするかもしれません。
しかし今回ご紹介したとおり、症状を放置しておいたり、自己判断で薬を塗ったりしてしまうと、陰嚢湿疹が慢性化し、何年もかゆみに悩まされることにもなりかねません。
また湿疹が出ているということは、陰嚢の環境がよくないという証でもあります。高温多湿な環境だと、陰嚢は精子をつくりにくくなってしまうため、妊娠を望むのであれば好ましくありません(※1)。
違和感を覚えたらなるべく早期に皮膚科か泌尿器科を受診し、医師の指示に従って治療や生活習慣の見直しをするようにしてくださいね。