精巣とは、男性が精子や男性ホルモンを日々作り出す臓器です。女性の卵子と男性の精子が受精してはじめて妊娠が成立するわけですが、男性の生殖器の構造や役割については、意外と知られていないかもしれません。妊活中のカップルは特に、女性の体のことだけでなく精巣の役割や病気の可能性について理解しておきたいですね。
そこで今回は、精巣の役割や正常な大きさ、病気についてまとめました。
男性の生殖器とは?
男性の生殖器は、大きく分けて次の5つの部分に分かれます。
● 精巣(睾丸):精子を作る・男性ホルモンを作り、分泌する
● 精巣上体:精子が成熟するための空間を備えている
● 精管:精子の通り道となる
● 精嚢(せいのう):精液の一部であるアルカリ性の分泌物を出す
● 前立腺:乳白色の分泌液を出し、精子の運動を促進する
これらのうち、今回は「精巣」について説明していきます。
精巣の役割は?
精巣は、「陰嚢(いんのう)」というシワの寄った皮膚の中に左右に1つずつ入っています。精巣は白膜に覆われていて、白膜から続く中隔という組織によって200~300の部分(小葉)に分けられます。それぞれの小葉には3~4本の「精細管」があり、1つの精巣あたり1,000~1,200本の精細管を持っています。
精子のもととなるのは「精祖(せいそ)細胞」です。精祖細胞は精細管のなかで細胞分裂を繰り返し、約70日間かけて精子が作られていきます。そのあと、精子は精細管から精巣上体、精管へと移動し、受精のための能力を獲得して射精に備えます。
また、精巣は男性ホルモンを生成・分泌しています。男性ホルモンには何種類かあり、精巣では男性ホルモンの大部分を占める「テストステロン」が、腎臓にくっついている副腎では「デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)」などのホルモンが作られています。
テストステロンは、精子が形成されるために必要とされるホルモンですが、その濃度は加齢の影響で年に1%ずつ減少していきます(※1)。
精巣の正常な大きさと状態は?
精巣は楕円形をしていて、長い方の直径が4cm以上あれば精巣の容積が15mlあるとみなされ、正常な精巣の大きさだと判断されるのが一般的です(※2)。
ただし、これが3cm以下の場合、中学生・高校生であれば二次性徴の発達障害の可能性、成人男性の場合は男性不妊症の可能性が考えられます。
不妊治療を行うクリニックなどでは、「オーキドメーター」と呼ばれる計測器具によって精巣(睾丸)の大きさを測ることもあります。また、病院や医師によっては、超音波検査で精巣のサイズを計測するところもあるようです。
なお、精巣の大きさだけでなく、左右で明らかな差がないか、手で睾丸に触れたときにしこりや痛み、腫れがないかをチェックすることが、男性不妊症の原因となる疾患の早期発見につながります。
精巣の病気にはどんなものがあるの?
手で睾丸に触れたとき、大きさや硬さに異常がある場合、次に挙げる病気の可能性が考えられます。何か異常を感じたときには、すぐに泌尿器科を受診することをおすすめします。
精巣の大きさに左右差がある
陰嚢水腫
陰嚢水腫は、乳児に多く見られる病気ですが、成人男性が発症するケースもあります。精巣を包む「精巣鞘膜」にリンパ液が溜まって、主に片側のみの陰嚢がふくらんだ状態を指しますが、押しても痛みはなく、生殖機能を脅かす病気ではありません。
1歳未満の乳児の場合は自然治癒することもありますが、大人は、溜まったリンパ液を注射針で吸引しても治らない場合、精巣鞘膜を切除する手術を行うこともあります。
精索静脈瘤
「精索静脈瘤」とは、精索静脈の逆流防止弁がうまく機能しないことにより、精巣に向かって血液が逆流してしまい、片方の精巣にこぶのような血管の塊ができた状態を指します。
左右の精巣の大きさに明らかな差があり、大きい方の陰嚢の皮膚表面がでこぼこしている場合、精索静脈瘤の疑いがあります。
一般的には、10~20%の男性に精索静脈瘤があるといわれており、解剖学的に左側の精巣に起こりやすい病気です(※3)。陰嚢の痛みや違和感といった自覚症状が少なく、生活に支障が出にくいため、男性不妊の検査をしてはじめて見つかることも多いようです。
精巣にしこりがある
精巣腫瘍(精巣がん)
「精巣腫瘍」は、15~35歳の若年男性に最も多いがん(悪性腫瘍)です。初期には精巣内に硬いしこりを感じるものの、特に痛みや腫れがないため放置してしまうことも少なくありません。
精巣腫瘍は転移しやすいため、違和感を抱いたらすぐに泌尿器科を受診することが重要です。
精巣に痛み・腫れがある
精巣炎(睾丸炎)
精巣炎は、ムンプスウイルスの感染症であるおたふく風邪にかかったあと、そこから血液を介して精巣にも感染して起こる病気です。おたふく風邪に併発しやすい「急性精巣炎」は、激しい痛みをともない、陰嚢全体が大きく赤く腫れるのが特徴です。
思春期以降に両側で精巣炎が起こると、精巣が委縮し、無精子症になるリスクもあります。おたふく風邪ワクチンを接種し、感染予防に努めることが重要です。
精巣上体炎(副睾丸炎)
「精巣上体炎」は、膀胱炎などの尿路感染症で入った細菌が精巣上体まで逆流し、炎症を起こす病気です。初期には激しい痛みと腫れ、発熱が見られるだけでなく、しこりができます。
炎症は抗生物質で治療できるものの、しこりが残るケースも。しこりで精管が閉塞した場合は、無精子症の原因となってしまいます(※2)。精巣上体炎は、性感染症の細菌が原因で尿道炎が起こり発症することが多いので、男女ともに性病に感染していないか検査を受けることが大切です。
精巣捻転(精巣軸捻転)
「精巣捻転」は、精巣が陰嚢の中で回転する病気で、思春期の男の子に多い病気ですが、成人男性にも見られることがあります。突然、精巣が赤く腫れあがって激痛が走り、吐き気をともなうこともあります。精巣上体炎に症状は似ていますが、精巣捻転の場合、発熱がないのが特徴です。
症状が現れてから4~6時間以内に血流障害を回復させないと、精巣が壊死し、機能が失われてしまう恐れがあるため、緊急に手術を行う必要があります。
精巣に異常を感じたらすぐに泌尿器科へ
男性の生殖器である精巣は、妊娠に必要な精子を作りだす非常に大切な器官です。健康な精子を毎日生み出すためには、精巣の機能を正常に保つことが重要です。
精巣にしこりや腫れなどの違和感があっても、病院にかかるのに抵抗がある男性もいるかもしれませんが、そのまま放置しておくと男性不妊症になるリスクもあります。普段から精巣の状態をセルフチェックし、何か異常を感じたらすぐに泌尿器科を受診するようにしてくださいね。