卵巣は「沈黙の臓器」と呼ばれ、腫瘍ができるなどの異常が起きても自覚症状が乏しく、気づきにくい臓器です。ただし、痛みなどがないからといって腫瘍を放っておいたりすると、破裂を起こす危険性があります。今回は、卵巣破裂の原因と症状、治療法のほか、妊娠への影響についてご説明します。
卵巣破裂とは?どんな症状が現れる?
子宮から左右に伸びた卵管の先にある、親指大の臓器が「卵巣」です。卵巣の中には、卵子の元になる「卵細胞」と、それを包む「卵胞」が入っていて、女性ホルモンの作用で排卵するという大切な役割を果たしています。
しかし、卵巣内にできた腫瘍や、正常に着床しなかった受精卵が原因で破裂を起こすこともあります。一般的に、「卵巣破裂」という言葉が使われますが、正しくは「卵巣腫瘍や受精卵の破裂」だと考えてください。
卵巣に腫瘍があっても、初期段階では痛みなどの自覚症状はほとんどありませんが、破裂が起きると激しい腹痛と嘔吐などの症状が現れます。
卵巣破裂の原因は?
卵巣で破裂が起こる原因は、「卵巣嚢腫」や「卵巣がん」といった腫瘍の場合と、卵巣に着床した受精卵による場合があります。
卵巣嚢腫(のうしゅ)
卵巣嚢腫は、卵巣内にできる腫瘍のうち、中身が液体状のものです。ほとんどの場合は良性ですが、溜まっている液体の一部に硬いかたまりが含まれる場合は、悪性の可能性もあります。
どんな性質の液体が溜まるのかによって、卵巣嚢腫は主に3つの種類に分けられます。サラサラとした液体の「漿液性嚢腫」、ゼラチンのようなネバネバした液体が溜まる「粘液性嚢腫」、脂肪や髪の毛など体の一部の細胞が溜まる「皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)」です(※1)。
そのほか、子宮内膜症が原因でできる「チョコレート嚢胞」もあります。
卵巣がん
卵巣内にできる悪性の腫瘍が「卵巣がん」です。初期症状がほとんどない分、発見されたときにはかなり進行しているケースが多いのが特徴です。
卵巣がんが大きくなってくると、お腹がふくれたり、小腸や大腸が圧迫されて便秘や頻尿、吐き気などの症状が現れることもあります。しかし、気づかないうちにがんが大きくなり、急に破裂することも稀にあります(※2)。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
卵巣の腫瘍以外にも、異所性妊娠(子宮外妊娠)が卵巣で起こった場合に、破裂につながるケースもあります。
子宮内膜に着床するはずの受精卵が稀に卵巣に着床することを「卵巣妊娠」といい、そのまま卵巣の表面で細胞が成長すると破裂してしまう恐れがあります(※3)。
卵巣破裂の治療法は?
卵巣で破裂を起こすと、お腹の中で多量の出血が起こり、急激な下腹部痛が現れます(※3)。
出血性ショックが見られる場合、止血のための緊急手術のほか、酸素の吸入や輸血、薬剤投与などによる抗ショック療法で全身の状態を安定させることを目指します(※3)。
卵巣で破裂を起こしてしまうと、強い痛みがあるだけでなく、出血により命に危険が及ぶこともあるため、手術が必要だと判断されたら、すみやかに手術を行うことが大切です。
卵巣破裂後に妊娠はできなくなるの?
万が一、破裂後の手術で卵巣を摘出することになったとしても、その後100%妊娠できなくなるわけではありません。卵巣は2つあるので、もう一方の卵巣が機能していれば妊娠は可能です。
ただし、卵巣が破裂した時点で、卵巣や卵管周辺の激しい癒着が起きていると、不妊の原因になることもあります。
また、「妊娠したかも」と思い、妊娠検査薬を試して陽性反応を示したとしても、その時点では異所性妊娠(子宮外妊娠)である可能性があります。卵巣妊娠は非常に稀ですが、卵管妊娠は頻度が高く、「卵管破裂」でも卵巣破裂と同じようなことが起こるので、妊娠がわかったらすぐに産婦人科で診てもらいましょう。
卵巣破裂する前に産婦人科を受診しましょう
卵巣は、病気になっても自覚症状が現れにくいため、痛みを感じたときにはすでに症状が悪化している可能性があります。生理痛などとは違う違和感があったときは早めに婦人科を受診しましょう。
また、卵巣の腫瘍を早期発見することは難しいですが、婦人科で定期的に検査を受けるようにしてください。