卵巣にできる腫瘍の種類は様々ですが、そのなかでも「卵巣奇形腫」は比較的発症しやすいといわれている腫瘍です。それでは、卵巣奇形腫とはどんな病気で、どのような治療が必要なのでしょうか?今回は卵巣奇形腫ができる原因や症状、治療法についてご説明します。
卵巣奇形腫とは?原因は?
卵巣奇形腫は、卵巣にできる腫瘍のうち「胚細胞腫瘍」に含まれます。胚細胞腫瘍とは、卵子の元になる卵細胞(胚細胞)から発生する腫瘍のことで、卵巣腫瘍の約15~20%を占めます(※1)。
卵巣奇形腫は、胎児のような未熟組織を含む「未熟奇形腫」と、体の成熟した組織を含む「成熟奇形腫」の2つに分かれます。成熟奇形腫には、腫瘍の中身が液状の「成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)」と、かたまりができる「成熟充実性奇形腫」の2種類があります。
それぞれ、その性質によって良性か悪性、もしくはその中間の境界悪性に分類されます。良性か境界悪性であっても、稀に悪性に転化するケースもあるので注意が必要です。
良性腫瘍 | 境界悪性腫瘍 | 悪性腫瘍(卵巣がん) |
・成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫) ・成熟充実性奇形腫 |
・未熟奇形腫(G1、G2) | ・未熟奇形腫(G3) ・悪性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫 |
これらのうち、最もよく発生するのが良性の「成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)」で、その約80%が20~30代の女性に見られます(※2)。腫瘍には、表皮や毛髪などの組織が含まれることが多くあります。胎児のときに生殖細胞が体の様々なところに迷い込み、腫瘍化することが原因ではないかと考えられていますが、はっきりわかっていません。
「成熟充実性奇形腫」は、嚢胞性のものと比べると稀です。一般的には骨や軟骨、リンパ組織などが含まれ、その成分が未熟である場合、「未熟奇形腫」に分類されます。これらの発生原因も明らかになっていません。
卵巣奇形腫の症状は?脳炎を起こすことがある?
卵巣奇形腫に限らず、卵巣にできる腫瘍は、初期症状がほとんどありません。
しかし、時間の経過とともに腫瘍が大きくなってくると、下腹部にしこりができます。また、卵巣周辺の臓器が圧迫されて、腹痛や腰痛、頻尿、便秘などの症状が現れることがあります。
良性の卵巣奇形腫であっても、周囲の臓器との癒着が少ない分、卵巣ごとねじれる「卵巣茎捻転」を起こすこともあるので、注意が必要です。茎捻転を起こすと、突然の下腹部痛に襲われるだけでなく、早急に適切な治療を行わないと卵巣がうっ血し、壊死してしまう恐れがあります(※1)。
また、ごく稀ではありますが、卵巣奇形腫のある女性は、免疫システムの異常から「抗NMDA受容体脳炎」と呼ばれる特殊な脳の炎症を合併することがあるといわれています(※3)。意識障害、行動や性格の変化、幻聴、痙攣などを伴うため、疑わしい症状が現れたときにはすぐに病院を受診してください。
卵巣奇形腫の治療法は?手術は必要?
卵巣腫瘍の疑いがある場合、腫瘍の大きさや状態などを、超音波検査、腹部のCTやMRI検査、血液検査(腫瘍マーカー)などで調べ、患者の年齢や妊娠の希望があるかどうかも考慮したうえで、治療方法を検討します。
卵巣奇形腫が発見されたら、経過観察となることもありますが、悪性かどうかの判別を行うため、また大きさによっては茎捻転などの恐れもあるため、基本的に手術が必要となります。
主な手術方法として、正常な卵巣を温存して、腫瘍だけを摘出する「腫瘍核出術」や、卵巣と卵管を腫瘍と一緒に摘出する「付属器切除術」があります。妊娠・出産の希望があれば卵巣を残す場合もありますが、悪性腫瘍の場合は子宮も全摘出することがあります。また、抗がん剤を使った化学療法も行うことがあります。
卵巣奇形腫の手術費用は?
かかる費用は、医療機関や手術方法によっても異なります。開腹手術の場合、入院期間は5~7日間程度、費用は健康保険が適用されて15~20万円ほど。ただし、腹腔鏡手術の場合はやや費用が高くなります。
決して安くはありませんが、高額療養費制度により、1ヶ月あたりの限度額を超えた分の金額が支給されます。申請方法などは詳しくは、治療を受ける病院で聞いてみましょう。
卵巣奇形腫を発見するためにも定期的な検査を
卵巣奇形腫は初期段階では自覚症状がほとんど現れないため、普段の生活の中で気づくのは困難です。しかし、婦人科検診で発見できる可能性もあるので、定期的に婦人科検診を受けることをおすすめします。
検査で卵巣奇形腫が見つかったときには、すでにある程度の大きさになっていることが多いため、悪性の可能性がないかを調べるためにも、検査や治療の方法を早めに医師に相談しましょう。基本的には手術になるので、妊娠・出産の希望がある場合は医師に伝え、自分に合った治療方法を選択してください。