小児糖尿病とは?原因や症状、治療法は?インスリン注射が必要?

監修医師 小児科 武井 智昭
武井 智昭 日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギ... 監修記事一覧へ

糖尿病は、大人がかかる生活習慣病の一つとして考える人も少なくありませんが、実際には子供が発症する「小児糖尿病」という病気もあります。小児糖尿病にかかると長期間向き合う必要があるため、正しく理解を深めることが大切です。今回は小児糖尿病の原因や症状、治療法についてご説明します。

小児糖尿病とは?原因は?

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子供がかかる糖尿病を「小児糖尿病」と呼びます。糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病にわかれ、10歳未満の子供の場合、1型糖尿病が多く見られます。

2型糖尿病は、患者のほとんどが大人ですが、最近では生活習慣の変化で小児肥満が増えていることもあり、子供でも2型糖尿病にかかることがあります。

それぞれの特徴と原因は次のとおりです(※1)。

1型糖尿病とは?

インスリンの分泌が何かのきっかけでほとんどなくなり、血糖値が上昇するのが「1型糖尿病」です。やせ型の子供に見られる傾向があります。

インスリンは、膵臓(すいぞう)にあるβ細胞によって作られますが、ウイルス感染などがきっかけとなり、免疫細胞がβ細胞を攻撃、破壊してしまうことで、インスリンが分泌できなくなることが原因の一つと考えられています。

1型糖尿病は、幼少期から発症が見られ、10~15歳頃が発症のピークとされます(※2)。

2型糖尿病とは?

「2型糖尿病」のインスリンの分泌は、良い状態であることがほとんどです。しかし、遺伝的要因による末梢組織でのインスリンの働きの悪化のほか、カロリーの摂りすぎや運動不足といった生活習慣の乱れが重なることで、発症します。

内臓脂肪の蓄積によって、アディポサイトカインという物質がうまく分泌されなくなり、インスリンに対する抵抗性が高まることが主な原因とされています。小児慢性特定疾病情報センターによると、日本人の小児2型糖尿病患者の約70~80%は、肥満という診断を受けています(※3)。

ただし、残りの20~30%の患者には肥満が見られず、インスリン抵抗性ではなくインスリン分泌の低下が原因と考えられるケースもあります。発症数は、年齢が高くなるほど多くなっていきます(※2)。

小児糖尿病に関係するインスリンとは?

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小児糖尿病の発症に関係する「インスリン」とは、どのような働きを持つ物質なのでしょうか?

インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、次のような働きによって血糖値を下げる役目を持っています。

・血液中のブドウ糖(血糖)を細胞内に取りこみ、エネルギーに変える
・肝臓などでブドウ糖からグリコーゲンが作られるのを助ける
・貯蔵されているグリコーゲンの分解を抑制する
・脂肪組織で脂肪が作られるのを助け、脂肪の分解を抑制する

しかし、糖尿病にかかると、インスリンの分泌や働きが悪くなるため、血糖がなかなか消費されず、食事後に血糖値が下がりにくくなってしまうのです。

小児糖尿病の症状は?

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小児糖尿病の症状は、1型糖尿病と2型糖尿病それぞれで、次のような違いがあります。

1型糖尿病の症状

初期症状として、口が渇く、水分を多く摂ることでトイレが近くなる、体重が減少する、などが挙げられます。子供がまだ小さいと、これらの症状を自分で訴えられないことも多いので、パパやママが異変に気づいてあげる必要があります。

症状が進むと食欲や元気がなくなり、「ケトアシドーシス」と呼ばれる意識障害を起こし、意識が朦朧としたり、腹痛や嘔吐などの症状が現れたりするようになります。

さらに症状が悪化すると、意識不明や昏睡状態に陥り、最悪の場合、死に至るケースもあります。1型糖尿病の症状は急激に進むこともあるため、注意が必要です。

2型糖尿病の症状

2型糖尿病は、1型糖尿病に見られるような症状が少し現れることもありますが、多くの場合、初期症状がほとんどありません。小学校で実施される尿検査の結果、発見されるケースがよくあります。

小児糖尿病の治療法は?

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現在の医療では、完全に治癒することが難しい病気です。ただし、適切に血糖をコントロールできれば、ほとんどの学校行事にも参加できますし、糖尿病を持たない人とあまり変わらない日常生活を送ることができます。

具体的には次のような方法で、長期間の治療・コントロールを行います。

1型糖尿病の治療

インスリン療法

1型糖尿病の場合、不足しているインスリンを補うため、1日3〜4回の皮下注射によってインスリンを体に取り込みます。基本的に、インスリン注射は医師ではなく、患者自身が行う必要がありますが、子供の年齢が低い場合は、パパやママが代わりに注射します。

注射するインスリンには、速攻型や中間型などいくつかの種類があり、食事前や寝る前など、タイミングに合わせて生理的な分泌に一番近い形で組み合わせて摂取します。

なお、最近では注入ポンプを用いた「持続皮下インスリン注入療法」の、子供にとって安全かつ効果がある治療法と考えられています(※4)。

食事療法

血糖値を適切な範囲内でコントロールするため、インスリン療法と並行して食事療法も行います。

1型糖尿病の場合、肥満を伴わないことが多いため、厳しい食事制限は必要ありません。しかし、子供の年齢や体格に合わせたエネルギー摂取と、栄養バランスの取れた規則正しい食生活を心がけることが大切です。

学校の給食は、基本的にほかの生徒と同じように食べることができますが、あめやガム、ジュースなど砂糖を多く含むおやつは、急激な血糖上昇を引き起こすことがあるので、過剰摂取に気をつける必要があります(※4)。

運動療法

適度に運動することで、インスリンの効果を高めます。ただし、運動量によっては、インスリンの働きが過剰になることもあり、低血糖を招く恐れもあります。

きちんと自己管理すれば、体育の授業や部活動なども、他の生徒と一緒に参加することができますが、場合によってはインスリン投与量の調節が必要になります。

子供の体の状態について、学校の先生と共有しておくようにしましょう。

2型糖尿病の治療

2型糖尿病の場合は、肥満が原因であることが多いため、食事・運動療法を中心に、生活習慣を改善していくことが何より大切です。

食事は、摂取エネルギーを制限するだけでなく、糖質・タンパク質・脂質といった栄養素をバランス良く摂り、1日3食、規則正しい食事をします。また、適度な運動をすることで、エネルギーを消費するようにしましょう。

高血糖を治すために、傾向血糖降下薬を投与したり、インスリン治療を行ったりすることもあります。

小児糖尿病になったら医療費の補助はある?

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小児の1型糖尿病の治療は、長期間かつインスリンの利用が必要なため、高額な医療費がかかります。

ただし、1型・2型ともに、公費の医療費助成を受けられる「小児慢性特定疾病」の対象となっており、子供が18歳になるまで医療費の自己負担分の補助を得られます(※5)。

自己負担限度額は所得によって異なります。手続きや条件など詳しくは、お住まいの地域の保健所で相談してください。

小児糖尿病は心身のケアが大切

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子供が小児糖尿病にかかると、食事の量やインスリン注射、血糖測定など、ママやパパのサポートが必要不可欠ですが、一人で抱えこむとストレスが溜まってしまいます。

ほかの家族や保育園・幼稚園・学校の先生、かかりつけの医師など、困ったときは周りのサポートも上手に受けるようにしてください。

また、特に思春期を迎えた子供は、身体的・精神的な成長や変化があるため、糖尿病であることに悩んだり、治療を面倒に感じたりする可能性もあります。

子供が病気について理解できるようになってきたら、同じ病気を持つ子供や親が参加する勉強会やファミリーキャンプに参加してみるなど、悩みを共有できる仲間に出会うことが子供の心身のケアにつながるかもしれません。

小児糖尿病を正しく理解し、治療に取り組みましょう

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子供が大きくなるにつれて、学校の遠足や部活動など、エネルギーの消費量や血糖のコントロールが難しくなる要素が増えていきます。

小児糖尿病について親子で正しく理解し、周囲のサポートも受けながら、根気強く向き合っていけるといいですね。

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