不妊症の原因は、男女それぞれ様々なものが考えられます。たとえば、女性であれば排卵がうまくいかないこと、男性であれば質の良い精子が作られないことが不妊の原因になります。そんな不妊症に対する治療として、ホルモン製剤の一つ「ゴナールエフ」が処方されることがあります。一体、どのような作用があるのでしょうか?今回は、ゴナールエフについて、不妊治療における効果や妊娠率、副作用などについてご説明します。
ゴナールエフとは?
ゴナールエフは「卵胞刺激ホルモン製剤」の一種で、投与すると体内で「卵胞刺激ホルモン(FSH)」と同じ働きをします。卵胞刺激ホルモン(FSH)は、黄体形成ホルモン(LH)とあわせて性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)と呼ばれます。
女性の場合、卵巣機能が低下すると、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌量が異常に多くなったり少なくなったりします。これにより無排卵などの排卵障害が見られる場合や、クロミッドによるクロミフェン療法で効果が出なかった場合などに、ゴナールエフが処方されます。
排卵誘発剤には、口から飲む経口タイプと自分で皮下注射をするタイプがあり、ゴナールエフは主に皮下注射によって投与する薬なので、「ゴナールエフ皮下注用」という商品名で知られています。
ゴナールエフの効果は?男性と女性で違う?
先ほどご説明したとおり、ゴナールエフは排卵障害が見られるときに、「卵胞を成熟させ、排卵を誘発する」目的で処方されます。
一口に排卵障害と言っても、様々な原因があり、ゴナールエフは主に次の3つのケースを改善するために使われます(※2)。
下垂体機能障害による排卵障害
排卵は、脳下垂体から分泌される2つのゴナドトロピン(LHとFSH)によってコントロールされています。卵胞刺激ホルモン(FSH)の刺激によって卵胞の発育が促され、毎月1個の「成熟卵胞」が卵巣から排卵されるという仕組みです。
しかし、下垂体の機能に何らかの障害があると、卵胞刺激ホルモン(FSH)が十分に分泌されず、卵胞が育ちきらないために、排卵が起こらなくなってしまいます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害
「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」とは、卵胞の発育が遅く、さらに、ある程度の大きさになっても排卵されずに、卵巣内に卵胞が溜まってしまう病気です。
生殖可能な年齢の女性の場合、血液中のゴナドトロピンの比率は「LH<FSH」、つまり黄体形成ホルモン(LH)の方が少ないのが正常な状態です(※1)。しかし、何らかの原因で黄体形成ホルモン(LH)が過剰に分泌されるとそのバランスが崩れ、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害が起こることがあります。
いずれにせよ、排卵障害が見られる場合、成熟卵胞になる前の「主席卵胞」が十分に発育するまでゴナールエフを投与します。卵胞の十分な発育が確認できたら、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)製剤を投与し、排卵を誘発します。
精子形成障害
実は、男性の体内でも2つのゴナドトロピンが分泌されており、特に卵胞刺激ホルモン(FSH)は精子形成に大きく関係しています。
脳の視床下部や下垂体の機能低下などにより、ゴナドトロピンの分泌が不十分だと、精巣内で質の良い精子が作られない可能性があります。
そのような場合に、ゴナールエフとhCG製剤を併用し、精子の形成を促す治療が行われることもあります。
ゴナールエフで妊娠率は高まる?
販売元の臨床データによると、ゴナールエフとhCG製剤を併用した無排卵・無月経の女性のうち、約80%で排卵が認められ、約17%で妊娠が確認されました(※1)。
また、ゴナドトロピンの分泌低下による無精子の状態が見られた男性のうち、ゴナールエフとhCG製剤の併用で精子形成が認められたのは7~9割でした(※1)。
このように、ゴナールエフは、女性の排卵障害や男性の精子形成障害の改善に効果があり、不妊症に悩むカップルの妊娠率を高めることができるといえます。
ゴナールエフは自己注射できるの?
ゴナールエフの注射を打つためには毎日病院に通う方法もありますが、自分でお腹などに打つ、いわゆる自己注射も可能です。注射の針は細くて短いものですが、薬剤が体内に入っていくときに少し痛みを感じる人もいるようです。
自己注射をする場合、適切な投与法と注射器具の廃棄方法について医師から説明・指導を受けたうえで、用法・用量を守って実施してください。
ゴナールエフの副作用は?
ゴナールエフの副作用として、女性が特に注意したいのは、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」です。これは、薬によって卵胞の発育を促すため、卵巣への刺激が過剰になることで起こります。激しい腹痛や腰痛、吐き気や嘔吐などの自覚症状が現れたときには、すぐに投与を中止し、医師に相談しましょう。
そのほか、重大な副作用として血栓塞栓症やアナフィラキシー反応が現れることもあります。どちらも発生頻度は不明ですが、ゴナールエフを打ちはじめて体調に違和感を覚えたら、薬の副作用かどうか判断がつかなくても速やかに病院を受診しましょう。
また、男性の場合も副作用はあり、重大なものにはアナフィラキシー反応があります。胸が大きくなったり、胸に痛みを感じるといった女性化が起こることや、精巣痛など生殖器に影響が出ることも稀にあるので、注意が必要です。
ゴナールエフを適切に投与し、妊娠率を高めましょう
ゴナールエフは、女性の排卵障害や男性の精子形成障害など、不妊の原因になりうる病気の治療薬として使われます。「仕事で忙しく、毎日病院に通うのが難しい」という人でも、自己注射で投与できるのはメリットの一つ。少しでも妊娠率を高めるため、医師の指示に従って適切に治療を行いましょう。