うつ病は「心の病気」と思われがちですが、最近の研究では、セロトニンなど脳内の神経伝達物質の不足が原因のひとつと考えられています。そのため、セロトニンを補う治療薬(抗うつ薬)も開発されてきていますが、その服用によりセロトニンが過剰分泌されてしまう「セロトニン症候群」を引き起こすこともあります。今回は、命にかかわる危険性もあるセロトニン症候群について、原因や症状、治療法などをご説明します。
セロトニン症候群とは?
まず、「セロトニン」とは、脳の視床下部などに分布している神経伝達物質のひとつです。
セロトニンは、喜びや快楽などを伝える「ドパミン」や、恐怖や驚きなどを司る「ノルアドレナリン」など、ほかの神経伝達物質の情報をコントロールすることで、精神を安定させる働きを持っています(※1)。
セロトニンの分泌量が減少すると、ドパミンとノルアドレナリンのコントロールが不安定になり、攻撃的になったり、不安やうつ、パニックを起こしやすくなったりと、精神症状を引き起こすといわれています(※1)。
逆に、脳内のセロトニン濃度が高くなりすぎてしまった場合も、不安や錯乱などの症状が現れる「セロトニン症候群」を引き起こすことがあります(※2)。
セロトニン症候群は、早期発見・早期治療により症状が落ち着くことが多いですが、対応が遅れると重症化して命にかかわる危険性があります(※2)。
セロトニン症候群の原因は?
セロトニン症候群は、うつ病の治療薬として処方される抗うつ薬を飲んでいるときに現れる副作用と考えられています(※2)。
抗うつ薬には様々な種類がありますが、特に「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」の服用中にセロトニン症候群が起こりやすいとされています。
SSRIを飲んでいるからといって、必ずセロトニン症候群を引き起こすわけではありませんが、飲みはじめや服用量が増えはじめた頃に副作用が出やすくなります(※2)。
また、いくつかの抗うつ薬を併用していたり、同時期にほかの薬も飲んでいたりすると、セロトニン症候群が起きやすいため、注意が必要です。
セロトニン症候群の症状は?
セロトニン症候群は、薬を飲んだ数時間以内に次のような精神症状や運動症状、自律神経症状が見られることがあります(※2)。
精神症状
不安、混乱、イライラ、興奮、動き回るなど
運動症状
手足が勝手に動く、震える、体が固くなるなど
自律神経症状
汗をかく、発熱、下痢、脈が速くなるなど
精神科などで処方された薬を飲んでいるときにこうした症状が同時にいくつか起きたときは、セロトニン症候群の可能性を疑い、すぐにかかりつけの医師に連絡して病院を受診しましょう。
深夜などで連絡がつかないときは、お薬手帳や服用している薬を持って、救急医療機関を受診してください。もし意識がもうろうとしてきたときは、家族に頼むなどして救急車を呼んでください(※2)。
セロトニン症候群が重症化すると、筋肉の成分が血液中に流出する「横紋筋融解症」や、全身の血管内で血液が固まってしまう「DIC(播種性血管内凝固症候群)」、腎不全などを併発するリスクが高まり、命の危険もあるため、早期の対応がとても大切です。
セロトニン症候群の治療法は?
セロトニン症候群の症状は、副作用を起こしたと考えられる薬を飲むのをやめて、安静にすることで、70%のケースは24時間以内に消えるとされます(※2)。
しかし、体の異変がセロトニン症候群によるものでなかった場合は、薬をやめることがかえって危険なこともあるため、自己判断せず、必ず医師に相談しましょう(※2)。
病院を受診し、セロトニン症候群と診断された場合、原因と考えられる薬の使用をすべて中止します。症状が軽い場合、安静にすることや鎮静薬の投与で落ち着くことも多いですが、念のため詳しい検査や経過観察を行うため、入院が必要になることもあります。
重症の場合は、集中治療室への入院が必要です。体温を下げるために、体温冷却装置を用いて体を冷やしたり、セロトニンの作用を抑える薬を投与したりします。そのほか、臓器の機能不全を起こしているときは、状況に合わせた治療を行うことになります。
セロトニン症候群と妊娠の関係は?
最近では、セロトニン不足の原因として、女性ホルモンの分泌の減少が関係しているということがわかり(※3)、セロトニンと不妊の関係が注目されています。
ただし、セロトニン症候群が起きることで、将来的に妊娠に影響を及ぼすかどうかについては、まだ明らかになっていません。
ただし、米国食品医薬品局(FDA)は、「抗うつ薬や片頭痛治療薬と同時にオピオイド鎮痛薬を使っている場合、セロトニン症候群を引き起こすリスクが高くなる」ということと、「オピオイド鎮痛薬を長期間にわたって使うと女性ホルモンが減少し、性欲が低下する可能性がある」という警告を出しました(※4)。
セロトニン症候群と不妊とのあいだに因果関係が認められているわけではありませんが、薬の飲み合わせによっては妊娠に影響がある可能性もあるため、妊娠を希望するときはかかりつけの医師に治療法を相談すると良いでしょう。
セロトニン症候群は早期発見が大切
セロトニン症候群は命に関わる恐れもある症状なので注意が必要ですが、適量の抗うつ薬を使っている限りは、症状が現れる可能性はそれほど高くないとされています(※2)。精神疾患などの治療中は、かかりつけの医師に服用量や回数、飲み合わせなどを詳しく聞いたうえで、正しく服薬しましょう。
また、新しい薬が処方されたり、服用量が増えたりしたときは、服用後の体調に十分気をつけましょう。できればセロトニン症候群について家族などにも伝えておき、症状の疑いがあるときはすぐに病院を受診できる体制を整えておきたいですね。