更年期障害で処方される薬は?市販薬でも良いの?

監修医師 産婦人科医 山本 範子
山本 範子 日本産科婦人科学会専門医。平成5年、日本大学医学部卒。日本大学附属病院および関連病院で産婦人科医として経験を積み、その間に日本大学総合健診センターで婦人科検診にも力を注いできました。現在は港区の日野原... 監修記事一覧へ

卵巣の機能低下によって生じる「更年期障害」は、かつては、その概念すらありませんでした。しかし、ここ10年で知名度は高まり、更年期外来を設ける病院やクリニックも徐々に増えてきました。更年期障害になったら、薬で治療するものなのでしょうか?今回は、更年期障害で処方される薬や、市販薬は飲んでいいものなのかといったことについてご説明します。

更年期障害には薬が処方されるの?

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卵巣機能が低下し、いよいよ閉経を迎えようとする頃に「更年期障害」が見られるようになります。

閉経を迎える頃になると、子宮粘膜を厚くして妊娠の準備を始める「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の分泌量が減ります(※1)。

そのため、脳が「卵胞刺激ホルモン」を出し、分泌量の減ったエストロゲンを出そうとします。しかし、機能が低下した卵巣は、脳の指令どおりにエストロゲンを出すことができなくなります(※1)。次第に脳のホルモン中枢が混乱し、自律神経に影響を及ぼしてしまうのです。

更年期障害は、エストロゲンの分泌量の減少と、女性を取り巻く環境によるストレスが複雑に絡みあって引き起こされます(※1)。

そのため、更年期障害の治療には、欠乏しているホルモンを投与したり、症状にあった薬を処方することが一般的です(※1)。

更年期障害で処方されるホルモン剤とは?

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更年期障害と診断されたら処方される薬のひとつに、「エストロゲン剤」があります。ホルモンを投与する治療法を「ホルモン補充療法」といい、患者さんの過去の病歴に応じて「エストロゲン単剤」もしくは、「エストロゲン・プロゲステロン合剤」を投与します。

ホルモン補充療法で処方されるホルモン剤の違いは?

子宮を摘出した人にはエストロゲン単剤が、摘出していない人にはエストロゲン・プロゲステロン合剤が処方されます。

エストロゲンには子宮内膜を厚く作用があるため、その作用だけでは子宮体がんが発生するリスクが高まるという報告があります。そのため、子宮を摘出していない人には、プロゲステロンを併用し、子宮体がんの発生を高めないようにしています(※1)。

更年期障害で処方されるホルモン剤の効果は?

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更年期障害の治療に使われるホルモン剤は、ホットフラッシュと呼ばれるのぼせやほてり、発汗、手足の冷え、動悸といった自律神経失調症状の改善に効果があるとされています(※1)。

更年期障害の治療にはホルモン補充療法が優先してとられ、併用して漢方薬や自律神経調整薬が処方されます(※1)。

ホルモン剤のデメリットは?

ホルモン補充療法には副作用が出る可能性があり、子宮内膜がんと乳がんの発生率が上昇するとされています。そのほか、肝障害や血栓症といった副作用、出血や月経前症候群のような不調が起こることがあります(※2)。

明確なデータはありませんが、5年を越える長期間のホルモン剤の服用は避けたほうがよいとされています(※2)。

ホルモン補充療法をできない人はいるの?

副作用が出る可能性があることから、更年期障害の治療にホルモン剤の投与ができない人もいます。また、経過を慎重に観察しながら投与しなくてはいけない人もいます(※2)。

投与できないのは、乳がん(過去に乳がんにかかった人も含む)の人、妊娠が疑われる人、原因不明の不正性器出血がある人、子宮内膜がんの人、静脈血栓塞栓症(過去に患ったことがある人も含む)の人などです。

慎重に投与すべき人は、肥満、高齢の人、血栓症のリスクがある人(遺伝的に血液の固まりやすい体質の人、糖尿病や高脂血症で血液がドロドロ状態の人、病気やケガで長期歩行困難であったり、骨盤部や腹部の大手術後の人など)などです。

診察時に、過去の病歴を確認されるので、伝え忘れがないように気をつけましょう。

更年期障害で処方される薬とは?

漢方薬
ホルモン補充療法をとれない人は、主に漢方療法で治療をします。また、更年期障害の症状が長期に渡って見られ、様々な症状が現れる人にも漢方薬が処方されます(※1)。

更年期障害は日によって症状や程度が変化しやすいため、検査を受けても原因が見つからないケースがほとんどです。漢方薬は、病名のつかない不調を治すことを原点としているので、「なんとなく体調が優れない」更年期障害の治療薬によく向いています。

漢方薬のメリットは?

漢方薬は患者さんの症状に合わせて処方されるので、原因が特定できなくても薬を出してもらうことができます。

また、1つの薬に複数の生薬が配合されているので、複数の症状を改善させたり、体質そのものを改善することも期待されます(※3)。

効き目はゆっくりですが、重い副作用がほとんど出ないことも高く評価されています(※3)。

更年期障害の症状別!処方される漢方薬は?

漢方薬は、患者さんの症状に合わせて処方されます。更年期障害で見られる症状には、以下の漢方薬がよく処方されます(※2)

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

疲れやすく、足腰が冷えやすい人に処方されます(※3)。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

体力が低下した人で、精神不安、イライラなどの精神神経症状がある人に処方されます。頭痛や肩こり、不眠、のぼせといった症状に、最も多く処方されます(※3)。

女神散(にょしんさん)

のぼせとめまい、頭痛、動悸、不眠、不安などの精神神経症状のある人に処方されます(※3)。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

体格がしっかりしていて、赤ら顔の人に処方されます。血流の停滞によるイライラ、のぼせ、痛みを伴う症状の改善が期待できます(※3)。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

比較的体力があり、精神不安があって驚きやすく、動悸や不眠を伴う人に処方されます(※3)。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

比較的体力があり、のぼせて便秘傾向がある人に処方されます。イライラ、ヒステリー、頭痛、めまい、興奮などの症状の改善が期待できます(※3)。

精神神経症状が中心の場合、処方される薬は?

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怒りっぽい、憂うつになる、焦ったりイライラする、不眠、めまい、頭痛といった精神神経症状が中心の場合は、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬が処方されることがあります(※1)。

更年期は、女性を取り巻く環境に変化が生じやすい時期でもあります。家族や会社での人間関係や健康に対する自信の喪失、老化の意識などがストレスとなり、体の変化に合わさって更年期障害の症状を重くすると考えられています(※2)。

そのため、薬の処方だけでなく、医師や心理療法士などが、対話を通して患者さんの苦痛を取り除いていくこともあります(※2)。

更年期障害、市販薬は飲んでもいいの?

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更年期障害の症状を緩和する目的で販売されている市販薬には、漢方薬に使われているいくつかの生薬の成分とビタミンを、バランスよく配合した複合薬が多いようです。

病院で処方される漢方薬より多くの成分が配合されているため、体質に合わない生薬を服用してしまうこともあります。

病院で更年期障害以外の治療薬を処方されている場合、市販薬を飲む前に医師や薬剤師などに飲み合わせを確認するよう求めている製薬会社もあります。

更年期障害は薬で症状が改善することも

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更年期障害というとつらい症状を想像しがちですが、適切に治療をしたり薬を処方してもらったりすれば、症状が改善することが多いようです。

更年期は、子育てがひと段落する人も多く、第2の人生のスタートともいわれています。

更年期障害の症状が出始めて「なんだか体調が悪いな」と思ったら、婦人科や更年期外来を受診して薬を処方してもらいましょう。症状を改善させて、第2の人生をさらに楽しめるといいですね。

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