乳がんの検査や治療方法は?初期やステージ別に解説

監修医師 産婦人科医 城 伶史
城 伶史 日本産婦人科専門医。2008年東北大学医学部卒。初期臨床研修を終了後は、東北地方の中核病院で産婦人科専門研修を積み、専門医の取得後は大学病院で婦人科腫瘍部門での臨床試験に参加した経験もあります。現在は... 監修記事一覧へ

「癌(がん)」にはいくつかの種類がありますが、なかでも女性の患者数が多いのは「乳がん」です。乳がんは、女性にとって最も身近で、気になるがんではないでしょうか。そこで今回は、乳がんの検査法や治療方法を、ステージ別にご紹介します。

乳がんとは?

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乳房は、母乳を作る「乳腺」と脂肪などから構成されています。乳がんとは、乳腺の「乳管」あるいは「小葉」の細胞から発生する悪性の腫瘍のことを言います。

患者数は年々増えていて、乳がんは女性がかかるがんのなかで最も多いがんです。乳がんになる確率は30歳代後半から増加し、40歳代後半から50歳代にかけてピークを迎えます(※1)。

乳がんは、他のがんと比べて比較的進行が遅いという特徴があり、早期に発見できれば、5年生存率は90%以上と言われています(※2)。しかし一方で、全身にがん細胞が散らばりやすく、がん細胞が他の臓器に転移する可能性もあります(※2)。

そのため乳がんは、定期的にチェックを行い、早期に発見することが大切です。

乳がんの検査方法は?

乳がんの疑いがあるかもしれない場合には、一体どのような検査を行うのでしょうか。乳がんの検査は、主に次のような流れで行われます。

1. 視診・触診

乳がん 検診 医師

乳房の形に大きな左右差はないか、乳房の腫れや凹みなどがないかを医師がチェックします。また、乳房にしこりがないか、触って確認します。

2. 画像検査

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視診と触診だけでは乳がんであるかどうか判断できないため、乳房を撮影して画像検査をします。画像検査には、以下の2種類があります。

マンモグラフィ

マンモグラフィとは、乳房を引き出して板と板の間に挟み、圧迫して薄く伸ばして撮影する検査です。

乳腺と乳がんは白く写り、脂肪は黒く写るため、乳腺と乳がんの見分けがつきにくいという特徴がありますが、乳腺は40歳代から萎縮し始めるため、40歳代以降はマンモグラフィでがんを発見しやすいようです。実際に、マンモグラフィ検査の対象は40歳以上とされています(※1)。

また、マンモグラフィは乳がんの疑いがどれくらいあるのかが分かりますが、がんのみではなく、治療の必要のない良性の腫瘍や、良性か悪性かの判断が難しいものも写ってしまうことがあります。

そのため、マンモグラフィだけでは乳がんかどうかを確定することができません。しかし「異常あり」と診断された場合は乳がんの可能性が高いため、さらに詳しく検査をする必要があります。

超音波検査

超音波検査では、乳腺は白く、乳がんは黒く写るため、マンモグラフィに比べてがんを発見しやすいという特徴があります(※1)。そのため、マンモグラフィでは結果が分かりにくい20〜30歳代の女性が主な対象となります。放射線を使用しないため、妊婦さんも安心して検査ができますよ。

また、マンモグラフィで腫瘍が見つかった場合に、それが悪性かどうかを調べるために併用されることもあります。

3.病理検査

顕微鏡 検査

画像検査で悪性または悪性の疑いが高い腫瘍があると判明した場合、病理検査でさらに詳しく調べる必要があります。

病理検査には、次の2種類があります。

細胞診

腫瘍部分に細い針を刺して採取した細胞を確認して、見つかった腫瘍が悪性かどうかを調べます。多くの場合は局所麻酔なしで行われ、検査時間も10分ほどです。

体への負担は少ないですが、良性か悪性かの識別ができない場合もあり、次に紹介する組織診をすることで初めて悪性と分かる場合もあります。

組織診

組織診では、腫瘍部分に太い針を刺して腫瘍の組織を切り取り、がん細胞の特徴を調べます。

痛みを伴う検査のため局所麻酔を使用して行い、体には負担がかかりますが、細胞診より正確な診断が可能です(※1)。

乳がんの治療法はステージごとに異なるの?初期は?

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以上のような検査をして乳がんであると診断された場合、どのような治療をしていくことになるのでしょうか。

乳がんは、がんの進行度合いに合わせて適切な治療を行う必要があり、このがんの進行度合いを、「ステージ」と言います。乳がんのステージは、しこりの大きさや乳房内でのがんの広がり具合、リンパ節やその他の臓器への転移の状況によって決まります(※1)。

ステージごとに必要な治療方法を以下でご紹介しますが、乳がんの治療方法は何通りもあります。医師や家族とじっくり相談をして治療方法を決めていきましょう。

ステージ0(初期)(※1)

がんが乳管・小葉の中にとどまっていて、腫瘍の範囲が小さい状態です。一般的に「初期」とも言われます。初期であれば適切な治療を行えば転移や再発をする可能性がほとんどないと考えられています。

治療方法

初期の場合は、乳房の切除範囲が少ない「乳房温存手術」と「放射線治療」を行います。

この段階であればリンパ節や他の臓器への転移の可能性は低いと考えられるため、多くの場合は手術後に薬物治療を行う必要はありません。

ステージ1〜3(※1)

がん細胞が乳管・小葉の周囲にまで広がっている状態です。

ステージ1〜2の場合は、しこりの大きさが2〜5cmほどで、リンパ節への転移がある場合とない場合があります。

ステージ3の場合は、しこりの大きさが5cmを超えていて、リンパ節に転移している可能性が高い状態です。

治療方法

腫瘍が比較的小さい場合は、乳房温存手術と放射線治療を行います。必要に応じて、手術後に薬物治療を行います。

腫瘍が大きく温存手術が困難な場合は、乳房を全て切除する「乳房切除術」を行います。先に薬物治療を行い、腫瘍が小さくなれば乳房温存手術ができる可能性もあります。

リンパ節への転移が明らかではない場合、手術の前に「センチネルリンパ生検」を行います。もしリンパ節への転移がある場合、脇の下から鎖骨あたりのリンパ節と脂肪を切除する「リンパ節郭清(かくせい)」という治療を行います。

ステージ4(※1)

腫瘍の大きさに関わらず、リンパ節や他の臓器へ転移している状態です。画像では見えない場所にも転移している可能性があるため、全てのがん細胞を根絶するのは難しいのが現状のようです。

治療方法

薬による治療が基本となります。薬物治療と聞いてまずイメージするのが、抗がん剤を投与する化学療法かと思います。ただ最近は、抗がん剤よりも副作用が軽い「分子標的治療法」が行われることもあります。これは、がん細胞にのみ効果を発揮する「トラスツズマブ」という物質を投与する治療法です。

また、乳腺の細胞は「エストロゲン」という女性ホルモンの作用により増殖するため、エストロゲンの作用を抑制することで、がん細胞の増殖を抑えるホルモン療法もあります。

治療の目的と腫瘍の特徴に合わせて、医師と相談のうえ使用する薬を決定していきます。

乳がんは早期の検査や治療が大切

今回ご紹介した通り、乳がんは進行速度が遅く、早期に治療を行えば再発の可能性も低いがんです。少しでも乳房に違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。

現在、厚生労働省は40歳以上の女性には2年に1回の乳がん検診を推奨しています(※3)。定期的に乳がん検診に行くことも、早期発見のために大切です。

もし乳がんと診断されたら、不安でいっぱいになると思います。でも焦らず、医師や家族とじっくり相談しながら治療をしていきましょう。

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