子供が受け口だと気になりますよね。受け口は見た目だけでなく、子供のその後の成長にも大きく影響します。一方で、治療期間が長期に及んだり、高額な費用がかかることもあるため、本人だけでなくママやパパ、家族全員のサポートが必要です。そこで今回は、子供の受け口を治療しようと思ったときのために、受け口の矯正・手術の方法やその費用について紹介します。
受け口(反対咬合)ってなに?
受け口とは、下の歯のほうが上の歯よりも前に出て、噛み合わせが悪くなっている状態のことです。「反対咬合」や「下顎前突症」と呼ばれることもあります(※1)。
受け口になると、以下のような悪影響があります(※2)。
● 食べ物を効率よく噛むことができない
● 発音に支障が出る
● 虫歯や歯周病を悪化させやすい
● 心理面に悪影響を与える
こうした悪影響によって、子供のその後の成長や学習に支障をきたすこともあります。
受け口の原因としては先天的なものと後天的なものの両方があります(※2)。
先天的な原因として考えられるのは、遺伝や病気、あごの骨の大きさ、歯の大きさや数などです。一方、後天的な原因には、あごの成長中に発症したホルモンの病気や栄養障害、ケガによるもの、顎変形症によるものがあります。
さらには、日常の癖が受け口の原因となることも。例えば口をポカンと開ける、指しゃぶり、唇を噛むなどの癖が長年続いて受け口になる場合があります。
虫歯が原因で乳歯を早く失ったり、乳歯がいつまでも抜けず、永久歯への生え変わりが順調でないことも、受け口の原因になりえます。
受け口は矯正が必要なの?手術になる?
受け口の治療としては、原因となる病気や癖があればそれの治療、歯並びの矯正などを行います。あごの骨と歯のズレが著しい場合は抜歯や手術をすることもあります(※2)。
なお、子供の受け口は自然に治ることもありますが、2歳時点で受け口だった子供が3歳になったときに治っている確率は約10%、3歳時点で受け口だった子供が4歳になったときに治っている確率は約5%しかありません(※3,4)。
3歳から矯正装置が使えることもあるため、子供の受け口は早めの治療が基本です。前述のように、子供の成長や学習に支障が出るかもしれないので小児専門の歯科医に相談しましょう(※5)。
受け口の矯正は自力でも可能?
受け口の原因が指しゃぶりや唇噛み、口をいつも開けているなどの癖にあるのであれば、それらをなくすことで矯正ができる可能性があります(※5)。
指しゃぶりや唇噛みは、子供が興味を持って楽しめるような遊びに誘ったり、おしゃべりや親子のふれあいの機会を増やすことで、自然に頻度が減ってくるでしょう。
また、口をぽかんと開けている場合、ラッパやシャボン玉などの口を使って吸ったり吹いたりする遊びに誘ってみてください。こうした遊びを通して、口を閉じる力と鼻呼吸を身につけさせることが大事です。
最近は、舌を上にあげるのが下手なことが受け口と関係する場合もあることがわかってきました。そのため、舌を上手に動かすトレーニングも受け口の改善に有効といわれています。
受け口の矯正や手術の方法は?
では、受け口の矯正や手術をする場合、どのような方法があるのでしょうか?以下に受け口の代表的な治療方法を紹介します。
ムーシールド
3歳くらいのからの受け口を治療するために使用する、マウスピース型の矯正装置です。口まわりや口の中にある筋肉の力の向きを調整し、上あごを前方へ成長しやすくします。取り外しできるため、子供の負担も少なく、寝ているときに使用するだけで効果があるとされています。
上顎前方牽引装置
おでことあごにそれぞれパッドをつけ、そこを支点に上の歯をゴムで前へ引っ張る矯正装置です。上あごの成長を促すと同時に、下あごの成長を抑えることで受け口を治します。寝ているときに装着するだけで効果があリます。とくに上あごが成長中の子供には効果が高いとされています。
チンキャップ
上顎前方牽引装置と似ていますが、チンキャップは下あごの成長のみを抑える受け口の矯正装置です。あごに当てるキャップと頭にかぶるヘッドキャップがゴムで繋がれており、装着するとゴムの力であごが後ろに引っ張られます。1日10時間程度装着する必要があるとされています。
リンガルアーチ
前歯の数本だけが受け口になっているときに使用する矯正装置です。歯の裏側に金具をつけて、歯を動かしたり、その位置で固定したりします。
装着しても目立たないため、子供の受け口矯正に適しています。また、子供が自分で取り外すことができないため、継続しやすく効果は大きいとされています。
切歯斜面板
リンガルアーチと同じく、1〜2本程度の歯が受け口の状態になっているときに使える矯正装置です。プラスチックでできており、下の歯に被せて使います。上の歯と接する面が斜めになっているので、噛んだとき自然と上の歯が下の歯よりも前に出るようになります。
自分で取り外しができるため、食事や歯磨きには支障が出ません。また、ほかの矯正装置に比べて安価です。ただし、使用時間が短いと効果が弱いため、子供の意思によって効果が左右されてしまうとされています。
手術
子供はあごの成長する力を利用できるため、歯並びと骨格の両面から治療ができます。しかし、あごの成長が終わってからの治療では、骨格に問題がある受け口を治そうとしたときに外科的な手術が必要になるケースがあります(※6)。
受け口の矯正でよく行われているのは、下あごの骨を切る手術です。下あごが全体的に引っ込むため、顔の長さが減り、ほっぺたの肉が少し余ることが多く、丸顔になる人が多いとされています。
なお、この手術には必ず手術前と後に矯正装置を使った矯正が必要になります。
受け口の矯正や手術は保険が適用される?
受け口の矯正や手術には保険適用される場合とされない場合があります。
手術であごの骨格を改善しなければならないほどの著しい受け口である場合には、その治療にともなう費用に健康保険が適用されます。それ以外の治療については、自費診療となるため保険が適用されません。
なお、保険で治療できる医療機関は届出を出している医療機関に限られるので注意が必要です。くわしくは矯正歯科医院に問い合わせてください(※7)。
受け口の矯正・手術費用は?
気になるのは保険適用されない受け口の矯正や手術にかかる費用ですね。
受け口の矯正・手術費用は様々です。地域や患者1人ひとりの症例によって治療の難易度や方法、使用する装置などが異なるため、一概には言えません。目安としては、保険適用されない受け口の治療にかかる費用は80万〜120万円くらいと考えておきましょう(※8)。
また、医療機関によっては治療にかかる費用を一括で設定しているところもあれば、毎回の通院ごとに費用が発生するところがあります。
受け口の矯正や手術にかかる費用は高額になる可能性があるので、治療を受ける前にきちんと確認しておいた方がいいでしょう。
受け口の矯正は家族のサポートが大事
受け口の治療は大人になってからもできますが、子供のうちから始めるほうが健康な歯の抜歯をせずに治せたり、使用する矯正装置も比較的シンプルですむ可能性があります。また、むし歯や歯周病などによる治療跡が大人に比べて少ないため、矯正器具の装着が容易にできるのもメリットです。
矯正器具を装着している子供が最近は増えているので、疎外感もなく、治療になじむのも早いとされています。
とはいえ、受け口の矯正や手術には子供本人の努力や根気が求められることも多くあります。いざ治療が始まると、慣れない矯正器具への違和感などで、子どもがやる気をなくしてしまうこともあるでしょう。
そんなときは、励ましたり、注意を促したりしながら、ママとパパがサポートしてあげましょうね。
※1 日本臨床矯正歯科医会「受け口は早めの治療が大切と聞きましたが、なぜですか?」
※2 成美堂出版『オールカラー版 家庭の医学 第3版』p.347
※3 愛院大歯誌 30,223-229,1992「乳歯反対咬合者の推移ー乳歯反対咬合者の自然治癒を中心としてー」
※4 小児歯誌 17(3):309-395,1979「乳歯完成前後の総合咀嚼器官の発育変化 第1報 前方交叉咬合いわゆる反対咬合について」
※5 医歯薬出版株式会社『親と子の健やかな育ちに寄り添う 乳幼児の口と歯の健診ガイド 第2版』pp.44-45、p.79
※6 日本臨床矯正歯科医会「子どものときから、矯正歯科治療を始めるメリットとは?」