O157の後遺症とは?死亡することもあるの?

監修医師 小児科 武井 智昭
武井 智昭 日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギ... 監修記事一覧へ

感染すると、下痢や血便などの食中毒症状が出るO157。特に子供が感染すると、後遺症が残るような合併症を引き起こしやすいという特徴があります。そこで今回は、O157に感染するとどのような合併症にかかるのか、また、その後遺症によって死亡することがあるのかどうかについて、ご説明します。

O157とは?

O157とは、人間の体内に入ると、腸管出血性大腸菌感染症を引き起こす大腸菌の一種です。腸管出血性大腸菌感染症が発症すると、激しい腹痛を伴う下痢や血便の症状が現れます。

腸管出血性大腸菌感染症を発症するのは子供が多く、患者の約80%は15歳以下で発症しています(※1)。

また、O157が出すベロ毒素は、腸管出血性大腸菌感染症の他に、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症といった病気を併発させることもあります。

O157の後遺症とは?

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O157が体内に入ることで、腸管出血性大腸菌感染症に続き、溶血性尿毒症症候群や脳症を発症することがあります。これらの病気により、後遺症が残る可能性があります(※2)。

溶血性尿毒症症候群の後遺症は?

日本での2006年から2008年までの調査によると、腸管出血性大腸菌感染症に感染した人のうち、約3〜4%が溶血性尿毒症症候群を併発しました(※2)。

5歳未満に限ると、腸管出血性大腸菌感染症から溶血性尿毒症症候群を発症する割合は全年齢の10倍以上で、年間130件も報告されています(※2)。

O157の菌が体内に入り、ベロ毒素によって溶血性尿毒症症候群を発症した患者については、

● てんかん
● 精神運動発達遅滞
● 高血圧
● 腎機能障害
● 蛋白尿・血尿
● 出血傾向

など、重篤な後遺症が残ることがあります(※3)。

O157の菌が体内に入り、溶血性尿毒症症候群を発症した場合、回復して退院しても、その後10年以上腎機能の低下が起こる場合があります(※4)。

てんかん

てんかんとは、慢性的な脳疾患の一種です。脳の神経細胞に激しい興奮が起こり、突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」を繰り返し起こす病気です(※5)。

発作が原因で嘔吐することがあり、吐瀉物が喉に詰まったり、浴槽など危険な場所で発作が起こるなどの事故によって、呼吸障害や低酸素脳症から死亡につながることがあります(※6,7)。

精神運動発達遅滞

精神運動発達遅滞とは、知能と運動能力に遅れが現れることです。

直接的に死に至る症状ではないものの、日常生活に支障が出る可能性があります。

高血圧

高血圧とは、血圧の高い状態が続く症状です。溶血性尿毒症症候群にかかると、尿が少なくなり、血管内の容量が増加するため、高血圧の症状が出ます。

血圧が高い状態が続くと、様々な臓器に負担がかかります。そのため、脳梗塞、腎不全、眼底出血、心不全など、死に至るような重篤な病気の原因になる可能性があります(※8)。

腎機能障害

腎機能障害とは、腎臓の機能が落ち、濾過されるはずの血液内の老廃物が体内に溜まる状態のことです。

腎機能障害は、障害の度合いによって腎不全、尿毒症と進行していき、死に至る場合もあります(※4)。

蛋白尿・血尿

蛋白尿・血尿は、ベロ毒素によって腎機能障害が引き起こされた結果現れる症状です。

腎臓の機能が低下していくと、全身状態が悪化して、透析が必要になる場合もあります(※9)。

出血傾向

出血傾向とは、ベロ毒素の働きにより、血小板という血を止める細胞の数が減ることで、ささいな怪我でも全身にあざができたり、鼻血が止まらなくなる症状のことを指します。

脳症の後遺症は?

O157に感染することで、溶血性尿毒症症候群と前後して発症しやすいのが脳症です(※10)。

脳症を発症すると、頭痛、うとうとする、落ち着きがなくなる、口数が多くなる、幻覚などが予兆として起こり、数時間~12時間後にけいれんや昏睡の症状が現れます(※11)。

O157の菌が体内に入り、脳症を発症した患者については、

● 精神運動機能退行
● てんかん
● 半身麻痺

のような後遺症が高い頻度で見られます(※10)。

また、O157に感染して脳症を発症すると、長期間の昏睡に陥ることがあります。しかし、昏睡から回復する可能性は高く、多くはその後の病状も良好です(※10)。

精神運動機能退行

精神運動機能退行とは、成長とともに身に付けた、言葉を発する能力や運動機能が、急速に失われていく症状です。

精神運動機能退行が進行すると日常生活に支障をきたす場合があります。

てんかん

脳症によるてんかんも、溶血性尿毒症症候群によるてんかんと同様に、発作が原因で意識障害・嘔吐・呼吸障害などが起こることがあります。

上述のように、吐瀉物が喉に詰まったり、浴槽など危険な場所で発作が起こり、事故によって死につながる可能性もあります。

半身麻痺

半身麻痺とは、体の右半身、もしくは左半身の運動機能に麻痺が出ることです。

自分の思い通りに体を動かすことができなくなるため、日常生活に支障が出てしまいます。

O157の後遺症で死亡することもあるの?

はてな

これまでご説明してきた通り、O157に感染し、溶血性尿毒症症候群や脳症を発症した場合、その後遺症である腎機能障害や高血圧によって引き起こされる、脳梗塞や心不全などの病気で死亡してしまうことがあります。

実際に、2015年10月には、1996年に大阪府堺市で起きたO157による集団食中毒の感染者が、後遺症によって死亡した例がありました(※12)。

O157の後遺症を抑えるために

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O157への感染によって発症する病気はもちろん、その後遺症もまた脅威です。

ただし、O157に感染しても、日本では早い段階で抗生物質を使用することで溶血性尿毒症症候群の発症をある程度抑えられるという報告があります(※13)。

また、腸管出血性大腸菌感染症のときは下痢止めを使うと、毒素の排出が遅れるので溶血性尿毒症症候群を引き起こす危険性が高まるとされており、下痢止めは使用しないことが推奨されています(※13)。

O157は熱に弱いという特徴があるため、予防をしっかりしていれば感染しにくいという面もあります。まずは感染しないための予防を心がけ、それでも感染した可能性があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。

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