突然「睾丸が痛い!」という状況に陥ったら、とてもびっくりしてしまいますよね。デリケートな部分なだけに、誰に相談していいのか、病院に行くべきなのかなどがわからず、一人で悩んでしまう人も多いでしょう。今回は睾丸炎(精巣炎)について、その症状や治療法、また不妊につながるのかなど、様々な角度からご紹介します。
睾丸炎(精巣炎)とは?その症状は?
睾丸炎とは、文字通り睾丸が炎症を起こすことで、正式には精巣炎といいます。睾丸に炎症が起こることで、精巣が膨張し、ときに激痛を伴うこともあります。
睾丸炎は、ウイルスが原因となります。体のどこかが病気になり、ウイルスの感染巣ができると、血液を通してウイルスが精巣まで移動し、感染してしまうのです。
扁桃炎や蓄膿症など、感染のもとになる病気は様々ですが、睾丸炎の多くが「ムンプスウイルス」の感染症である「流行性耳下腺炎(おたふく風邪)」を併発します。思春期前の子供にはあまりみられませんが、それ以降の男性がムンプスウイルスに感染すると、約20%の確率で睾丸炎を発症します(※1)。
ムンプスウイルスによる睾丸炎は、おたふく風邪の症状が出て3~5日目に発症し、概ね1週間ほどで回復します(※1,2)。
炎症は片側だけに起こることが多く、両側に起こるのは30%以下です(※3)。
睾丸炎の治療法は?
先にもご説明したとおり、睾丸炎はムンプスウイルスの感染によるものが多いのですが、ムンプスウイルスに対する特別な治療法はありません。
そのためおたふく風邪と同様、睾丸炎に対しては対症療法を行うのが一般的です。痛みに対しては鎮痛薬を服用し、腫れに対しては冷却するなどの対策がとられます。
ムンプスウイルス以外の細菌やウイルスによる感染の場合も、上記と同じような治療法が行われます。
睾丸炎は不妊につながる?
睾丸炎が両側の精巣に起こると、精巣が委縮してしまい、それによって精子をつくる機能が妨げられてしまう可能性があります。その結果、まれにですが、完全に精子を作ることができない状態(無精子症)にまで悪化することもあります(※3)。
思春期前までにおたふく風邪にかかったことがない男性は、ムンプスウイルスのワクチンを接種して、予防することも選択肢に入れておくといいでしょう。
睾丸炎に似た病気は?
「睾丸が痛い=睾丸炎」とは簡単に決められません。睾丸(精巣)や陰嚢付近が痛いという症状が見られる病気は、睾丸炎の他にもいくつかあります。
精巣捻転症
精巣につながる「精索」を軸として、精巣がねじれてしまうことです。血管がねじれて締め付けられることにより、最悪の場合は精巣が壊死してしまいます(※1)。
思春期前後の子供が、寝ているときに発症することが多く、睾丸の激しい痛みと腫れが特徴です。吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
子供が症状をしっかりと伝えられずに「お腹が痛い」と訴えることもあり、見落とされてしまうこともあります。しかし6~12時間以内に血液の流れを回復させないと精巣が壊死してしまうため、早めに気づいてあげることがとても大切です(※1)。
両方の精巣が同時に捻転することはほぼないので、これにより完全に不妊になるというわけではありませんが、治療が遅れると、片側の捻転でも精子を造る能力が下がり、妊娠させる能力は低下してしまします。
治療は、精巣を固定させる手術が行われますが、壊死してしまった際は手術で精巣を摘出します。
精巣上体炎(副睾丸炎)
精巣にくっついている精巣上体(副睾丸)が炎症を起こす病気です。子供も大人もかかる病気で、精巣上体が腫れて、硬いしこりができます。
精巣上体が急激に痛んだり、発熱したりするのが特徴です。完治するまで抗菌薬を服用することが必要となります。
また、炎症により精子の通り道である「精管」が塞がってしまうと、精液に含まれる精子の量が少なくなってしまうこともあります(※2)。
精巣付属器捻転症
精巣や精巣上体についている、本来は退化すべき組織がねじれることで痛みが生じます(※4)。精巣捻転症より痛みは軽く、不妊などにつながる心配はありません。症状が軽ければ鎮痛剤や炎症を抑える薬を服用して様子を見ます。
しかし精巣捻転症との違いを見分けるのが難しいため、念のため手術を行うこともあります。
精索静脈瘤
精索内の静脈が膨らんでしまう病気で、陰嚢が腫れたり、痛みを感じたりすることがあります(※5)。血管が膨らむことにより精巣の温度が上がり、精子を作る機能が低下してしまうことがあります。
多くのケースが左側にのみ起こりますが、左の精巣静脈の方が構造的に、血液の逆流を防ぐ弁の仕組みが不十分なために起こると考えられています。
精索静脈瘤は子供にも大人にも起きますが、手術を行って治療することができ、治療すれば40~60%の確率で精子の状態が向上するといわれています(※6)。
睾丸炎は早めに病院に行きましょう
睾丸に痛みを感じても、素人がその原因を突き止めるのはかなり難しいのが現実です。
他人に打ち明けにくい悩みかもしれませんが、不妊につながる病気の可能性もあります。早めに泌尿器科で受診して、痛みや不安から解放されましょう。
また、大人だけでなく子供にも十分起こりうる症状なので、子供が痛がる素振りを見せていたら、早めに気づいてあげられるといいですね。