「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」は、精巣(睾丸)の静脈にできる血管の瘤(こぶ)のようなもので、一般男性の5人に1人に見られます(※1)。男性不妊につながる恐れもあるので、夫婦で妊娠を希望している場合、詳しい検査のうえで治療が必要になります。
今回は、精索静脈瘤について、原因や症状、手術内容・費用のほか、セルフチェックのポイントについてご説明します。
精索静脈瘤とは?
精索静脈瘤とは、通常は精巣から心臓に戻る血液が逆流してしまい、精巣や少し上にある精索の周りの精巣静脈に瘤(こぶ)ができる症状のことです。
精索静脈瘤は、一般男性の約15~20%に見られ、精子をつくる機能に問題がある「造精機能障害」の原因のうち30%ほどを占めます(※1,2)。
精索静脈瘤の原因は?
精巣を流れる静脈のうち、右側の「右内精索静脈」は、そのまま「下大静脈」に流れこむことで、血液が精巣から心臓に戻ります。
一方、左側にある「左内精索静脈」は、まず「左腎静脈」に直角に流れこんだあとで「下大静脈」と合流します。
左腎静脈は「大動脈」と「上腸間膜動脈」の間を通っており、これら2つの血管に圧迫されると、腎静脈の弁がうまく機能しなくなります。
弁の機能不全が起こると、腎静脈から精巣に向かって血液が逆流し、精巣につながっている血管がふくらんで瘤のようなものができると考えられています。
このような体の構造から、精索静脈瘤は右よりも左の精巣で起こりやすいとされています(※1)。
精索静脈瘤だと不妊になるの?
精巣に静脈瘤ができると、血流が悪くなり、精巣の温度が高くなることで精巣内の酸化物が増加します。精子は熱と活性酸素に弱いため、酸化ストレスを受けて造精機能が低下してしまうと考えられています(※1)。
WHO(世界保健機関)が様々な国を対象に実施した大規模な調査では、不妊の男性のうち、精液所見に何らかの異常があった症例の25.4%に精索静脈瘤が認められ、精液所見が正常だった症例の11.7%と比べて、有意に割合が高かったと報告されています(※3)。
しかし、男性不妊の原因は必ずしも1つではなく、複数の要因が絡み合っていることが多いため、精索静脈瘤だけが不妊を引き起こしているとはいえないケースも多くあります。
また、不妊症ではなく、精液所見に問題がない男性にも精索静脈瘤が見られることはあるため、精索静脈瘤があるからといって必ず不妊になるとは言い切れません(※1)。
精索静脈瘤を放置するとどうなる?
前述のとおり、精索静脈瘤があっても特に不妊にならないケースもあります。
しかし、一般的には精巣内の温度が上がる、有害物質が溜まる、低酸素状態になる、血液や体液の流れが悪くなる、といった影響があると考えられています(※1)。
その状態を放置してしまうと、精子の運動率が下がる、運動のスピードが落ちるなど、精子機能の低下につながる恐れがあります。精索静脈瘤と診断されたら、早い段階での治療を検討しましょう。
精索静脈瘤の症状は?
精索静脈瘤の早期発見につなげるためにも、簡単なセルフチェックをしてみましょう。
精巣(睾丸)やそれを包む陰嚢(いんのう)に以下のような状態が見られれば、精索静脈瘤の可能性があるので、一度泌尿器科へ行き、検査を受けることをおすすめします。
● 左右でサイズが異なる
● 常に垂れ下がっている
● 表面が凸凹している
● 立ち上がったときに鈍痛を感じる
ただし、精索静脈瘤があったとしても特に自覚症状がなく、生活に支障が出ないために自分では気づかないことも多くあります。
不妊検査で精液を調べ、精子の状態があまり良くない場合、泌尿器科で超音波検査などの詳しい検査をすることで精索静脈瘤が見つかることもあります。
精索静脈瘤は手術で治療できる?費用は?
精索静脈瘤は、男性不妊の原因のなかでも外科的に治療できるものとされています。
ただし、手術を行うかどうかは、精液所見の状態や、夫婦が妊娠を望んでいるかなどにもよります。
一般的には、精索静脈をしばることで、精巣周辺の静脈に血液の逆流が起きないようにする「結紮(けっさつ)術」という手術が行われます(※1)。
精索静脈高位結紮術
下腹部を切開し、静脈をしばる手術で、数日間の入院もしくは日帰り手術で行っている病院もあります。
これまで広く行われてきた方法で、手術としての難易度は低く、短い手術時間で済む一方、精巣水瘤などの合併症リスクがやや高いとされます。
精索静脈高位結紮術は保険が適用され、手術費用は5~15万円程度となります。
顕微鏡下低位結紮術
鼠径部(太もものつけ根)を切開し、顕微鏡で観察しながら静脈を精巣の近くでしばる手術です。
動脈やリンパ管を温存するため、体への負担が比較的少なく、病院によっては日帰りが可能です。
病院によって保険適用されるかどうかが異なり、全額自己負担の場合は20~40万円ほどかかります。
なお、どの手術方法を選ぶかは体の状態や病院によっても異なるので、泌尿器科の医師とよく相談してください。
精索静脈瘤は子供でもなるの?
精索静脈瘤は子供でも発症することがあり、小児精索静脈瘤と呼ばれます。10歳未満ではほとんど見られませんが、10~15歳くらいから発症数が増えます(※4)。
大人のケースと同じく、特に自覚症状がないことも多いですが、精巣が腫れたり、子供が痛みや重苦しい感じを訴え、病院の検査で発見されることもあります。
治療法は症状にもよりますが、大人と同じように手術を選択することもあります。
精索静脈瘤は放置しないで
不妊症の原因は約半分が男性側にあるといわれており、男性も決して他人事ではありません。不妊の状態が続くときには夫婦で不妊検査を受け、精液所見が悪かった場合には泌尿器科で詳しい検査を受けましょう。
精索静脈瘤は自覚症状がないことも多いですが、もし精巣に痛みや違和感があれば、症状を放置せずに、すぐ泌尿器科を受診してくださいね。