ADHDは遺伝する?家族にいると可能性は上がる?

監修医師 小児科医 黒木 春郎
黒木 春郎 日本小児科学会専門医、子どもの心相談医。1984年千葉大学医学部卒。現在はこどもとおとなのクリニック パウルームの院長として診療を行っております。公認心理師や発達臨床心理士の資格も取り、お子さんとご両... 監修記事一覧へ

じっとしていられない、集中力がなくてすぐ飽きてしまう…。子どもにそんな様子がみられると、「ADHDなのかな?」と思うことがあるかもしれません。また、その原因は遺伝によるものなのか気になるママ・パパも多いのではないでしょうか。

今回は、ADHDは遺伝するのか、家族がADHDだと子どももADHDになる可能性が高くなるのかなどをご紹介します。

そもそもADHDとは?

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ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)とは、日本語で「注意欠如・多動症」といいます。

いつも動き回って目が離せなかったり、じっと我慢することができなかったり、遊びや課題に集中できなかったりと、「この歳ならもう少し落ち着いてできるはずなのに…」という症状があれば、ADHDの可能性があるかもしれません。

ADHDの兆候の多くは4歳頃までに現れますが、小さい頃は「好奇心旺盛な活発な子ども」という印象にとどまり、行動が問題となってくるのは小学校にあがってからということも多いです(※1)。

ADHDの子どもの主な特性として、幼児期、小学生、中学生以降の時期別で以下のようなものがあります(※2)。ただし、特性には年齢差や個人差があります。

幼児期

・じっとしていることが苦手で動き回る傾向が強い
・いきなり手を振り切って駆け出す
・道具や遊びの順番を待てない
・邪魔だと思った子を突き飛ばす
・他の子の所有物を取り上げる

小学生

・連絡帳やノートをとれない
・忘れ物が多い
・作業が雑
・よそ見が多い
・ケアレスミスが多い
・宿題をしない
・提出物を出さない
・授業中に立ち歩く
・授業中に大声で話しかける
・いつも多弁で騒々しい
・いつも体をもじもじ、そわそわと動かしている
・むやみに走り回り、興味のおもむくままに乱暴にものを取り扱う
・軽はずみで唐突な行動が多い
・ルールの逸脱が多い
・順番が待てない
・教師からの質問へ指される前に答えてしまう
・他の子にちょっかいを出してトラブルになる
・道路に突然飛び出す

中学生以降

・ケアレスミスが多い
・忘れ物・失くし物が多い
・約束を忘れる
・整理整頓が苦手
・授業中や会話の際に上の空にみえる
・作業に集中せず脱線が多い
・時間管理が苦手で大切な課題も後回しにする
・授業中の離席は減っても、体をもじもじ、そわそわと動かして落ち着きがない
・じっとしていることを求められる場が苦手で避けようとする
・軽はずみな行動やルールの逸脱が生じやすい
・相手の話を最後まで聞けず、途中で発言してしまう
・感情的になってキレやすい
・順番を待たなければならない環境を避ける

ADHDは遺伝するの?

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ADHDの具体的な原因は明らかになっていませんが、多くのケースで遺伝が関連しているのではという報告があります(※2)。

ママやパパがADHDであった場合、子どもがADHDになる可能性は高くなりますが、必ずしも遺伝するわけではありません。

親がADHDでなくても子どもがADHDであるケースもあり、反対に親がADHDであるけど子どもはそうでないケースもあります。

ADHDの発症には、ママの妊娠中の喫煙や飲酒、若年での出産、妊娠中のストレスも関係しているともいわれています(※2)。

ADHDは、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる可能性がありますが、生まれつきの脳の機能障害なので、育て方やしつけ方、本人の性格などが原因で起こることはありません。

ADHDの治療法は?

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ADHDは根本的に治せるものではありません。しかし、子どもの特性を理解し、その子にあった発達支援を行うことで、円滑な学校生活や社会生活を送るサポートができます。

ADHDの子どもに向けた治療としては、主に次のような方法があります(※2,4)。

環境を整える

学校や家庭などで勉強や作業をするときの環境を、以下のような方法で集中できる状態に整えます。

● 教室での机の位置や掲示物の見せ方を工夫して授業に集中しやすくする
● 勉強時間を10~15分ごとなど集中しやすい長さに区切る
● 部屋にあるおもちゃを見えない場所に置いて集中が途切れないようにする など

成功体験を増やす

不適切な行動でも、ある程度許容できるようなものは見逃して、授業中にしっかり座っていられた、勉強に集中できたなど、望ましい行動をしたときは、しっかりと褒めてくださいね。

成功体験を増やすことで、子どもの意欲を高めてあげましょう。

ソーシャルスキルトレーニングを受ける

ソーシャルスキルトレーニングとは、ADHDの子ども自身が社会で自立した生活を送るためのスキルを学ぶプログラムです(※5)。

さまざまな状況に応じて、相手とどのようにコミュニケーションをとったらいいか、どんな行動をしたらいいのか、といったことを学びます。

ペアレントトレーニングを受ける

ペアレントトレーニングは、ママやパパなど保護者がADHDの子どもとの関わり方を学ぶプログラムです(※6)。

褒め方や指示の仕方、子どもの行動分析などを学びます。

薬での治療

幼児期にADHDと診断された場合は、原則として薬は処方されません。

小学生以上になると、医師の診断によって薬が処方されることもあります。薬を適切に服用することで不注意・多動性・衝動性といった症状が和らぐとされています。

ADHDの治療薬にはいくつかの種類がありますが、効果には個人差があり、体質によって副作用が現れたりするため、専門の医師とよく相談したうえで子どもにあった薬を処方してもらうことが大切です。

ADHDの診断方法は?

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ADHDであるかどうかの診断は、専門の医師によって以下のようないくつかの方法を組み合わせながら時間をかけて行われます(※3,4)。

● 診断基準の条件を満たしているかチェックする
● 親や教師が記入した質問票を確認する
● 子どもの行動を観察する

普段の子どもの様子をみていてADHDかもしれないと思ったら、気になる行動をできるだけ具体的に記録しておきましょう。その記録を持って、専門の病院や自治体の発達障害者支援センターなどで相談すると、診断の手がかりとなりやすいですよ。

ADHDが遺伝かどうか気にし過ぎないで

ADHDには遺伝的な要因もあると考えられていますが、必ずしも遺伝するわけではありません。また、実はママやパパにADHDがあったけど「ちょっと落ち着きがない子」「一つのことに集中するのが苦手な子」などと捉えられて、発達障害と診断されていなかったケースもあるかもしれません。

子どもにADHDの可能性があったりADHDと診断されたりしても、遺伝かどうかはあまり気にし過ぎず、その子の特性にあった支援や治療を行って成長を見守っていけると良いですね。

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