男の子を持つママにとって、男児特有の体のしくみや病気はわからないことが多いのではないでしょうか。特に生殖器系の異常については、「将来、男性不妊やがんの原因になるのでは?」と心配している人もいるかもしれません。
今回は、新生児の男の子の約3%に見られる「停留精巣」という病気について、その原因と症状、治療法や手術費用などについてまとめました。
停留精巣とは?
通常、精巣は「陰嚢(いんのう)」と呼ばれる袋に入っています。お腹にいる赤ちゃんの精巣は、妊娠7~8週目に作られ、妊娠30~32週くらいまでに腹部から陰嚢の中へと下りてくるのですが、その途中で止まってしまったままの状態を「停留精巣(ていりゅうせいそう)」と呼びます(※1)。停留精巣のある男児のうち半数は右側の精巣だけが停留しており、4分の1は左右両方とも停留しています(※2)。
男の子100人のうち約3人の割合で、生まれたときに停留精巣が見られますが、患者のうち3分の2は、生後3~4ヶ月頃までに精巣が自然と下りてきます。そのため、治療が必要な停留精巣のケースは、男児の出生数全体の約0.8%ということになります(※3)。
なお、精巣が陰嚢のなかにあるものの、陰嚢と腹部とのあいだで簡単に行ったり来たりする状態を「移動性精巣(遊走精巣)」と呼びます。これは停留精巣とは異なり、思春期までに精巣が動かなくなるので、手術などの治療は必要ありません(※2)。
停留精巣の原因は?
停留精巣が見られる要因として、男性ホルモンの分泌不全や、精巣を陰嚢に固定する靭帯(精巣導帯)が、精巣が加工する道に付着してしまっていること、鼠径管の通過障害、腹腔内圧などが考えられていますが(※1)、停留精巣のほとんどは原因がわからない「特発性」のものとされています(※3)。
早産や低出生体重児(2,500g未満)の場合は、停留精巣の発生率が高いといわれています。また、家族のなかに停留精巣だった人がいる場合、生まれてくる男の子も停留精巣になる傾向があります(※2)。
停留精巣の症状は?不妊の原因になるの?
停留精巣には、目立った症状がありません。しかし、精巣がいつまでも温度の高いおなかの中にとどまっていると、精巣の発育が遅れる傾向があります。精子を作る細胞が減少したり、精子の通り道である精管がうまく発育せず、成人したときに不妊となったりする可能性も指摘されています(※4)。
また、停留精巣を放置してしまうと、精巣が腹腔内でねじれる「精巣捻転」や「腫瘍」を発症する恐れがあります。精巣捻転が起きてしまうと、血管から精巣に栄養が運ばれなくなり、強い痛みと腫れが現れ、12時間以内に対応できないと精巣の壊死が進み、精子を作る能力が減少してしまいます。また「精巣腫瘍(精巣がん)」の発症リスクも高まるので、注意が必要です(※1)。
停留精巣だからといって、将来必ず不妊になってしまうというわけではありませんが、長く放置してしまうと不妊リスクが上がると考えられているので、小児科を受診するようにしましょう。
停留精巣の治療法は?
生後6ヶ月頃までに精巣が自然と下りてこず、腹部のなかにとどまっている場合は、1歳前後に手術をして精巣を陰嚢まで下ろす必要があり、一般的には2~3日の入院が必要です。手術方法は、停留精巣のタイプによって次のとおり異なります(※3)。
触知停留精巣(精巣を触知できるタイプ)
精巣を足の付け根あたりに触知できる「触知停留精巣」の場合、精巣を固定する手術を行います。まず下腹部にある鼠径部を2~3cm切開し、精巣についた血管や精管、筋肉をはがしたあと、精巣を陰嚢のなかに糸で固定する手術です。体に吸収される糸で傷口を縫うため、術後に抜糸をする必要がなく、成長とともにほとんど目立たなくなります。
非触知精巣(精巣を触知できないタイプ)
「非触知精巣」の場合、まず内視鏡検査をして、精巣の状態を確かめます。場合によってはもとから精巣がないか、大きさが極めて小さく、正常に機能しない可能性もありますが、精巣の位置が確認できたら、鼠径部を切開して精巣を固定したり、萎縮してしまっている部分があれば除去したりする手術を実施します。腹腔内に精巣がある場合には、内視鏡手術をすることもあります。
なお、日本泌尿器科学会によると、精巣の自然下降を促すために性腺刺激ホルモンを投与する方法もありますが、日本では一般的ではなく、普及していません(※5)。
停留精巣の手術費用は、いくらかかるの?
停留精巣の手術費用は、保険の適用で数万円程度かかりますが、「乳幼児医療助成制度」により、手術費用がかからないケースも多いです。この制度は、各自治体が医療費を助成してくれる制度です。医療機関で診療を受けるときに、自治体から発行された「医療証」を、健康保険証と一緒に提示すれば支払いの必要はなくなります。
手術費用のほかにかかる入院中の食事代や個室差額、ベッド費用などは自己負担となるケースが多いです。詳しくは、お住まいの地域の窓口や医療機関に問い合わせてみてくださいね。
停留精巣の可能性があれば、焦らず病院で相談を
女性であるママにとって、男の子の生殖器の病気は実感がなく、自分の息子が「停留精巣」と診断されると不安な気持ちになるかもしれません。しかし、今回ご紹介したとおり、停留精巣は100人のうち3人がかかる病気で、生後6ヶ月ぐらいまでに自然に治ることもあります。必要があれば手術をすれば治癒するものなので、焦らないでくださいね。
普段赤ちゃんのお世話をしていて、生殖器の異常を感じることがあれば、まずは小児科や泌尿器科で相談してみましょう。