妊娠したいカップルの6組に1組が悩んでいるといわれている不妊(※1)。「不妊は女性側に何らかの問題がある」というイメージを持たれやすいのですが、実は不妊症の約半分は、男性側に原因があることがわかっています。今回は、男性側の不妊原因の一つである無精子症について、原因や症状での見分け方、検査方法、治療法、妊娠できるのかについてご説明します。
無精子症とは?
無精子症とは精液中に精子が全く無い状態をいいます。近年増加傾向にあり、男性の100人に1人は無精子症であるといわれています。
無精子症は閉塞性と非閉塞性の2タイプに分けられます。閉塞性は、精巣内で精子が作られているものの精子の通り道が塞がっている状態。非閉塞性は、精巣内で精子が全くもしくはほとんど作られていない状態です。
無精子症の8割は非閉塞性無精子症といわれています。
無精子症の症状や特徴は?
無精子症だと精液中に精子がいないのだから、「普通の精液に比べて粘り気や色、匂いが薄いのでは?」と思う方も多いようです。
しかし、精子はごくごく小さいもので顕微鏡でなければ見ることはできません。そのため、通常の精液と無精子症の精液の特徴には違いはないとされています。
精液の色や匂い、粘り気の違いが見られることもありますが、精子の有無ではなく精液側が原因で起こります。
男性の体調や射精時のオーガズムの仕方によって、精液を構成している前立腺液と精嚢分泌液の割合や混ざり具合が異なり、匂いや見た目の変化が現れます。精液の匂いや色は気にせず、不妊期間が長いときは検査を受けましょう。
見た目で気にすべき病気として「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」には注意が必要です。男性不妊の20~30%前後に起こるとされる症状で、精巣静脈の逆流で陰嚢が腫れあがってしまい、精子をつくる能力に影響が出てしまいます。
陰嚢の左側が腫れることが多いため、左右で大きさが違うなどが見られたときには、泌尿器科や不妊治療を行っている病院に相談しましょう。
無精子症の原因は?
閉塞性無精子症の場合は精巣輸出管、精巣上体管、精管、射精管といった精子の通り道が尿路感染や性感染症、子供のときに受けた鼠径ヘルニアの手術の後遺症により閉塞することが原因で起こります。
非閉塞性無精子症の場合はホルモンの異常か、精巣の造精機能に何らかの問題があるかのどちらかが原因と考えられていますが、具体的な原因を突き止めるのは困難な場合も多い疾患です。
無精子症の検査方法は?
男性不妊の検査にはいくつか段階がありますが、初期に行う検査方法にフーナーテストというものがあります。
フーナーテストとは、性交後の子宮頸管の粘液を採取し、精子の状態を確認する検査です。排卵日頃、検査の前日か当日に性交を行い、病院で子宮頸管の粘液を採取し、そこに含まれている精子の数や運動量をチェックします。
フーナーテストや直接精液を採取する精液検査で、精子が見つからないときや極端に数が少ない際には、さらに詳細な検査を行います。
問診、触診、ホルモン値検査などを行い、精子の形成を促すホルモンであるFSHの値や睾丸の大きさが正常であれば閉塞性無精子症の可能性を、FSHの値が高く睾丸が小さい場合や触診で痛みを感じる場合は非閉塞性無精子症の可能性を疑います。
初回の精液検査で精子が見つからなくても、次の検査でごく少数ながら元気な精子が見つかることもあります。そのため、お医者さんが複数回の精液検査結果を総合的に判断して、最終的な診断と治療法が決まります。
無精子症の検査に、どうやって精子を採取するの?
精液検査を行うには、精子が含まれる精液の採取が必要です。
ただ、産婦人科やクリニックには女性が多いイメージがあり、病院で採精することに恥ずかしさを感じる男性も。リラックスした状態での採精が検査には有効なため自宅での採取も可能ですが、より鮮度のいい精子を検査に使用するという意味では、病院で採精を行った方が良いとされます。
不妊治療を積極的に取り扱っている病院であれば、採精室という個室が用意されていることがほとんどです。病院によって異なりますが洗面やリクライニングシートなどが置かれた小部屋で、周囲を気にせず精液の採取が可能です。
無精子症でも妊娠できるの?
無精子症では精液に精子が含まれていないため、自然妊娠は難しいといえます。
ただし、精子が1つでも見つかれば、顕微授精を用いて妊娠・出産まで到達できる可能性もあります。
閉塞性無精子症の治療方法は?
一般的に、自然妊娠を望み、女性側に不妊原因がなくカップルの年齢が35歳未満の場合には、「精路再建手術」という方法があります。
女性側にも何らかの不妊原因があるときや、年齢が35歳以上の場合は、精巣や精巣上体内の精子を採取して顕微授精を行う方法が検討されます。
いずれにしても、適切な方法を選択するためには男性不妊治療も行っているクリニックで、治療経験が豊富な医師に相談することが大切です。
非閉塞性無精子症の治療方法は?
ホルモン異常が原因の場合は、ホルモン剤を注射することで精子が精液中に出現する可能性があります。
また、MD-TESE(精巣内精子採取術)と呼ばれる手術で精子を探すこともありますが、精子の採取成功率は30%ほどです。精子が一つでも見つかれば、採卵した卵子とともに顕微授精を行って妊娠できる可能性があります。
高い技術力が求められる治療法なので、クリニック選びは事前にホームページで確認するなど、慎重に行いたいですね。
無精子症の治療を行っても精子が得られないときは?
閉塞性無精子症や非閉塞性無精子症の治療を行っても精子が得られなかったときには、人工授精の中でも精子バンクなどを通して第三者から提供された精子を利用する、「非配偶者間人工授精(AID=Artificial Insemination by Donor)」で妊娠・出産まで至ることが可能です。
日本ではまだまだ認知の低い治療法ですが、男性にとっては自分と血がつながっていない子供への愛情が保てるかなどの問題もあるので、事前にパートナー同士で深く話し合っておく必要があります。
また、最近は生まれた子供の出自を知る権利が認められたことにより、生物学的な父親(精子提供者)を知りたいと希望する人が増えています。そのため、精子提供者が減少しているのが現状です。
無精子症でも妊娠の可能性はゼロではない
夫婦生活を1年間続けても妊娠しないときには、女性だけでなく男性も一緒に検査を受けて不妊原因がないか調べてみてください。夫婦のどちらかの年齢が35歳を過ぎていれば、半年で受診するのが良いでしょう。
もし無精子症と診断されても、体質や症状に合った不妊治療を受ければ妊娠の可能性はゼロではありません。
信頼できるお医者さんを見つけ、可愛い赤ちゃんの顔を見る日を思い描きながら夫婦で協力し合い、納得できる治療方法を探していきましょう。