乳幼児検診の尿検査などで蛋白尿に明らかな異常が見られると、「小児ネフローゼ症候群」と診断されることがあります。多くの子供が治療によって回復しますが、数年にわたっステロイドや免疫抑制剤などの薬を飲み続けなければいけないこともあるため、正しく病気を理解することが大切です。そこで、今回は小児ネフローゼ症候群について、原因と症状、治療・看護するうえでの注意点をご説明します。
小児ネフローゼ症候群とは?
小児ネフローゼ症候群とは、腎臓の中の糸球体が障害を起こし、血管から尿の中にタンパク質が漏れ出てしまう病気です。たくさんのタンパク質が尿と一緒に排出されてしまうため、全身にタンパク質不足が生じ、むくみが起こります。
発症率は、年間10万人のうち2~5人程度で、予後が比較的良い「微小変化型ネフローゼ症候群」は2~6歳の子供に多く見られます(※1,2)。
ほとんどの場合、ステロイド治療により蛋白尿が消失(寛解)しますが、約60%の患者が一度は再発を経験するという、長期的に付き合っていく必要がある病気です。
小児ネフローゼ症候群の原因は?
ネフローゼ症候群には様々な種類があり、小児ネフローゼ症候群の約90%は原因不明な「特発性ネフローゼ症候群」で、さらにそのうちの約90%が「微小変化型ネフローゼ症候群」というものです(※1)。
微小変化型ネフローゼ症候群の場合、腎組織にほとんど変化が見られず、原因ははっきりしていませんが、何らかの免疫異常によるものではないかと考えられています(※3)。
そのほかのネフローゼ症候群には、腎臓の疾患が原因で起こる「一次性ネフローゼ症候群」と、高血糖やB型・C型肝炎、HIVへの感染などが原因の「二次性ネフローゼ症候群」がありますが、子供よりも大人に多く見られます。
小児ネフローゼ症候群の症状は?
初期には次のような自覚症状が現れることから、病気に気づくことがあります。
・短期間で体重が増える
・(男の子は)陰嚢に水が溜まる
・まぶたや手足にむくみが出る
・顔全体にむくみが広がる
・おしっこの量が減る
・顔色が悪い
・だるい
・食欲がない
また、ネフローゼの病気そのもので腸管の壁に水分がたまることによって下痢や腹痛が起きることもあります。症状が進むと、胸水や腹水が溜まり、息苦しくなったり、お腹が張ったりします。
さらに、急激な発症だと、顔面蒼白になる、冷や汗が出る、手足が冷えるなどの症状が現れることもあります。
小児ネフローゼ症候群は、感染症や血栓症などの合併症を引き起こすこともあるので注意が必要です(※1)。むくみなど気になる症状が見られたら、早めに小児科を受診しましょう。
小児ネフローゼ症候群の検査方法は?
尿検査により「高度蛋白尿」、血液検査により「低アルブミン血症(低蛋白血症)」と認められた場合、ネフローゼ症候群の疑いが強くなります。また、むくみなどの症状も診断の材料になりますが、確定診断をするには、腎臓の組織を採取して顕微鏡で調べる「腎生検」を行う必要があります。
ただし、小児ネフローゼ症候群の場合、最も発症例が多い「微小変化型」の90%以上はステロイドによる効果が期待できるため、腎生検を行わずにステロイド療法を始めるのが一般的です(※1)。
ただし、発症時に1歳未満である、高血圧や腎機能低下などが認められる、血尿が明らかであるといった場合は、微小変化型以外のタイプである可能性が考えられるため、腎生検でネフローゼ症候群のパターンを確定診断したあとに治療方針を決定します。
小児ネフローゼ症候群の治療法はあるの?
小児ネフローゼの治療法は、薬物治療と食事療法の二つを並行して進めるのが一般的です。また、初めて発症した際には、ステロイド薬の副作用への注意も必要なため、入院するケースがほとんどです。
薬物療法
小児ネフローゼ症候群の約90%はステロイド薬によく反応します。ステロイド治療を始めて約1ヶ月以内に蛋白尿は陰性になりますが、ステロイド薬の副作用に注意しながら量を調節していきます。
ステロイド薬が効いてくるまでの間、むくみがひどい場合は、利尿薬の投与も並行して行うこともあります。
食事療法
むくみが強いときは、塩分の摂取制限をします。塩、しょうゆ、ソースなどをなるべく使わない、栄養バランスのとれた消化の良い食事をすることが望ましいとされます。
大人のネフローゼ症候群の場合、タンパク質の摂取制限も推奨されることがあります。しかし、小児ネフローゼ症候群では、ステロイド治療を開始すると2週間以内に尿蛋白が減少することが多く、腎不全に進行する心配はあまりないこと、子供が成長期にあることを考慮して、年齢に応じたタンパク質摂取が適当と考えられています(※4)。
小児ネフローゼ症候群の看護の注意点は?
2ヶ月程度の入院治療が終わり、自宅療養の指示が医師から出されたあとも、風邪や細菌感染に十分注意して生活する必要があります。
小児ネフローゼ症候群を発症したあと、風邪や水疱瘡にかかると重症化する恐れもあるので、人ごみを避ける、マスクを着用する、手洗い・うがいを習慣づける、入浴によって清潔を保つ、予防接種を打つなど、感染予防に努めましょう。
激しい運動は控えるようにしますが、子供に行動の制限をかけてしまうことは、大きなストレスにもつながります。また、ステロイドを長期的に使用することで、骨塩量が減少したり、肥満のリスクが高まったりするため、適度な運動が望ましいとされています(※4)。
どれくらいの範囲で行動を制限すればいいのか、主治医とよく相談して決めることも大切です。
小児ネフローゼ症候群は早めの治療が大切
小児ネフローゼ症候群は、一度発症すると再発を繰り返すことも多く、長い治療とケアが必要な病気です。ただ、正しく治療を続ければ、重症化を抑えられる可能性は高いので、子供の状態に気を配りながら根気強く治療することが大切です。
集団で行われる検尿で発見されることも多いので、園や学校で検診の機会があれば定期的に受けるようにし、異常が見つかった場合はすみやかに詳しい検査を受けるようにしましょう。