子供が人とのコミュニケーションが苦手だったり、特定のモノに非常に強い興味・関心を持っていたりする場合、自閉症スペクトラム障害(ASD)という発達障害が起きている可能性があります。しかし、なかには「これは本当にASDなのかな?」と判断が難しいものもあり、病院に行くべきか迷うこともあるかもしれません。今回は自閉症スペクトラムの診断基準やチェック方法についてご紹介します。
自閉症スペクトラム障害とは?

自閉症スペクトラム障害(ASD:Autistic Spectrum Disorder)とは、細かく分類されていた自閉症やアスペルガー症候群、レット症候群などの発達障害をひとまとめにした概念です。
自閉症スペクトラム障害は症状が軽いと、学童期になるまで分からないこともあり、女の子より男の子の方がなりやすいとされています(※1)。
自閉症スペクトラム障害の子供は、他人とコミュニケーションをとることが苦手で、一人でいることを好む傾向にあります。また、特定のモノに強い興味や関心を持つという特徴もあり、好きな分野に関して大人顔負けの知識を身につけることもあります。
自閉症スペクトラム障害の診断基準は?M-CHATとは?

自閉症スペクトラム障害の子供は、幼稚園や保育園、小学校に入ったときに、対人関係をうまく築けずストレスを感じて、不登校や引きこもりになることがあります。
そうならないためにも、自閉症スペクトラム障害に早めに気づき、子供の個性に合わせた教育方法や環境を整えてあげることが大切です。
自閉症スペクトラム障害を早期発見するために使えるチェックリストとして、「乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(M-CHAT:Modified Checklist for Autism in Toddlers)」があります。
2歳前後の幼児を対象にして作られたこのチェックリストは、親に質問する形式になっており、全23項目に「はい」か「いいえ」で答えて、自閉症スペクトラム障害の可能性を探ります(※2)。
きちんと診断する場合にはさらに詳しい検査が必要ですが、M-CHATに答えれば、病院を受診するべきかどうかの判断がしやすくなります。
以下にM-CHATの全23項目を羅列したので、2歳前後の子供が自閉症スペクトラム障害かもしれない場合は、「はい」か「いいえ」の回答をメモしながら、ひとつひとつ答えてみてください。回答結果についての解説は、最終項目の下で行います。
日本語版M-CHATの全23項目
1. お子さんをブランコのように揺らしたり、ひざの上で揺すると喜びますか?
2. 他の子供に興味がありますか?
3. 階段など、何かの上に這い上がることが好きですか?
4. イナイイナイバーをすると喜びますか?
5. 電話の受話器を耳に当ててしゃべる真似をしたり、人形やその他のモノを使ってごっこ遊びをしますか?
6. 何かほしいモノがあるとき、指をさして要求しますか?
7. 何かに興味を持ったとき、指をさして伝えようとしますか?
8. クルマや積木などのオモチャを、口に入いれたり、触ったり、落としたりする遊びではなく、オモチャに合った遊び方をしますか?
9. あなたに見てほしいモノがあるとき、それを見せに持ってきますか?
10. 1~2秒より長く、あなたの目を見つめますか?
11. ある種の音に、特に過敏に反応して不機嫌になりますか?(耳をふさぐなど)
12. あなたがお子さんの顔を見たり、笑いかけたりすると、笑顔を返してきますか?
13. あなたのすることを真似しますか?(たとえば、口をとがらせてみせると、顔真似をしようとしますか?)
14. あなたが名前を呼ぶと、反応しますか?
15. あなたが部屋の中の離れたところにあるオモチャを指でさすと、お子さんはその方向を見ますか?
16. お子さんは歩きますか?
17. あなたが見ているモノを、お子さんも一緒に見ますか?
18. 顔の近くで指をひらひら動かすなどの変わった癖がありますか?
19. あなたの注意を、自分の方にひこうとしますか?
20. お子さんの耳が聞こえないのではないかと心配されたことがありますか?
21. 言われた言葉を分かっていますか?
22. 何もない宙をじぃーっと見つめたり、目的なくひたすらウロウロすることがありますか?
23. いつもと違うことがあるとき、あなたの顔を見て反応を確かめますか?
出典: 国立精神・神経医療研究センター「日本語版 M-CHAT」 ( www.ncnp.go.jp )
11、18、20、22の項目は「はい」と答えていれば、それぞれ1点とします。それ以外の項目は「いいえ」と答えていれば、それぞれ1点となります。
全23項目を答えて点数が3点以上の場合、あるいは2、6、7、9、13、14、15、20、21、23の重要10項目を答えて、点数が2点以上の場合は「自閉症スペクトラム障害の疑いがある」と考えられます。
自閉症スペクトラム障害の詳しい診断は病院で
M-CHATの項目は、自閉症スペクトラム障害ではない子供でも、成長の過程で見られることがあり、いくつかの項目に当てはまったら、必ず発達障害があるというわけではありません。
また、M-CHATはあくまで2歳前後の子供を対象にして作られたものなので、2歳前後ではない子供について、M-CHATで「自閉症スペクトラム障害の疑いがある」という結果が出ても、その有効性については確かではありません。
3歳くらいの子供が自閉症スペクトラム障害である可能性がある場合は、発達障害に詳しい専門の医師に診てもらいましょう。住んでいる地域で専門医が見つからない場合は、各都道府県の発達障害者支援センターや地方自治体の障害福祉課に問い合わせると、紹介してもらえます。
最初から病院を受診することに抵抗があれば、乳児健診や住んでいる地域の保健センターで相談してみてください。
子供一人ひとりにはそれぞれの個性があり、自閉症スペクトラム障害はその個性が強く現れたものと考えることができます。発達障害があってもなくても、子供の個性を伸ばすという視点で、臨床心理士など専門家の助けも受けながら、成長をサポートしてあげることが大切です。