フェニルケトン尿症とは?遺伝が原因?症状や治療法は?

監修医師 小児科 武井 智昭
武井 智昭 日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギ... 監修記事一覧へ

赤ちゃんが生まれてきてすぐに、なんらかの障害を抱えていることがあります。これは先天的な疾患で、その一つに「フェニルケトン尿症」があります。発症する確率はそれほど高くありませんが、精神発達に障害をきたすことも。一体どのような病気なのでしょうか?今回は、フェニルケトン尿症の原因や症状、治療法についてご説明します。

フェニルケトン尿症とは?

赤ちゃん 泣く 口 泣き顔 新生児

フェニルケトン尿症とは、必須アミノ酸の一つ「フェニルアラニン」を「チロシン」という別のアミノ酸に変えることができないために起こる、先天性の代謝異常の病気です。フェニルアラニンが過剰に蓄積されると知的障害やけいれんなどを引き起こす可能性があります。

フェニルアラニンは筋肉やホルモンの材料となるたんぱく質を作ったり、脳の働きを活性化したりする上で不可欠な栄養素で、体内で合成することができないため、肉や乳製品、大豆といった食品から摂取する必要があります(※1)。

正常な状態であれば、体内の酵素の力でフェニルアラニンを分解して無害化し、尿を通じて体外に排泄できるため、人体に悪影響を与えることはありません。しかし、酵素の働きが生まれつき弱い赤ちゃんの場合、フェニルアラニンが体内に蓄積し、チロシンが不足してしまうため、様々な障害をきたしてしまいます。

フェニルケトン尿症は、遺伝が原因?

では、なぜフェニルケトン尿症が起こるのでしょうか?

フェニルアラニンをチロシンに変える酵素の働きに先天的な異常が見られ、酵素の活性が低下する病気で、はっきりとした仕組みは解明されていませんが、遺伝によって発症する可能性もあることはわかっています。

両親が代謝異常の因子を持っていて、フェニルケトン尿症を発症していない場合、1/4の確率でその病気を持った赤ちゃんが生まれます。難病情報センターによると、発症頻度は約8万人に1人で、全国で500人ほど患者がいます(※2)。

フェニルケトン尿症の症状は?

赤ちゃん 男の子 髪 舌

先ほども触れたとおり、フェニルケトン尿症は、体内でうまく代謝されなかったフェニルアラニンが蓄積されることで起こる病気です。

フェニルアラニンは、神経伝達物質の「ノルアドレナリン」と「ドーバーミン」の合成に関わっており、精神を高揚させたり血圧を上昇させたりする作用があります(※1)。

血中フェニルアラニン値が高くなりすぎると、新生児期にはほとんど症状がないものの、だんだんと発達の遅れなど神経異常が現れるようになります。また、本来フェニルアラニンから変換されるはずのチロシンが不足すると、色素欠乏症が引き起こされ、髪の毛や皮膚の色が薄くなるほか、湿疹が出ることも。

さらに、酵素の働きを助ける補酵素まで欠乏してしまうと、母乳・ミルクを飲まない、甲高い夜泣きをする、短い痙攣が続く、といった症状も現れ、早い時期から重い精神発達障害が見られることもあります。治療しないまま放置すると、呼吸不全や感染症によって亡くなってしまうこともあるので、検査で見つかり次第、すぐ治療することが重要です(※2)。

フェニルケトン尿症の検査方法は?

新生児 かかと 検査

フェニルケトン尿症のほとんどは、新生児のスクリーニング検査で発見できるので、上に挙げた症状が現れる前に診断されます。

生後4~5日頃に赤ちゃんのかかとから少量の血液を採取し、血液中のフェニルアラニンの数値が高くないかをチェックします。検査で異常値が認められ、再検査でも高い数値が出た場合はフェニルケトン尿症と診断され、新生児期からすぐに治療を開始します。

フェニルケトン尿症の治療法は?食事療法が基本?

ミルク

フェニルケトン尿症の原因は、先天的な代謝異常・補酵素不足なので、根本的に治療する方法はありません。しかし、食事療法や薬物療法を続けることによって発症を抑えることはできます。

食事療法では、たんぱく質を制限してフェニルアラニンの摂取を抑制し、代わりに不足する他のアミノ酸を治療用の特別な粉ミルクで補います。また、補酵素が欠乏している赤ちゃんの場合、食事療法に加えて、補酵素と神経の作用を助ける薬による治療も行います。

フェニルケトン尿症を発症すると、少なくとも成人するまで、長い場合は生涯にわたって食事療法を継続しなければなりません。特に女性が将来妊娠を希望する場合、胎児に影響しない程度に血中フェニルアラニン値を維持するため、さらに厳しい食事療法を行う必要があります(※1)。

また、補酵素欠乏症の赤ちゃんの場合は、薬を飲み忘れると致命的な症状が現れてしまうリスクがあるので、小さいうちから服薬を習慣づけてあげることが大切です。

フェニルケトン尿症は根気強い治療が必要

小児科 医師

フェニルケトン尿症は、先天的な遺伝子異常によって起こる病気なので、残念ながら根本的な治療法はありません。

しかし、食事療法や薬物療法を続けることで、けいれんや発達遅延などの症状を抑えながら通常の生活を送れる可能性があります。子供が小さいうちは、パパやママが根気強くサポートをしてあげましょう。

なお、フェニルケトン尿症は、平成27年に厚生労働省によって「指定難病」とされました(※3)。症状の程度が一定以上の場合、医療費助成の対象となります。手続きの方法は都道府県によって異なるので、詳しくはお住まいの地域の保健所等で相談してください。

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