子宮は、赤ちゃんを宿し、育む機能を持つ大切な器官です。妊娠によって子宮が大きくなるほか、赤ちゃんの発育にあわせて位置も変わっていきます。また、妊娠とは関係なく、体質などによって子宮の位置がずれてしまうことも。今回は、子宮の正しい位置と、妊娠やそのほかの原因によって位置が変わるケースについてご説明します。
子宮の正しい位置は?
妊娠していないときの子宮は、骨盤内の中央に位置し、下腹部のほぼ真ん中、おへそと太ももの付け根のあいだにあります。
子宮を側面から見てみると、お腹側(前方)に向かって少し傾いている「前屈」の状態であることがほとんどです。
子宮の位置がずれることもある?
次のように、妊娠とは関係なく、子宮が正しい位置からずれていることもあります。
子宮後屈
右上の図のように、子宮が背中側(後方)に向かって傾いている、または曲がっている状態を「子宮後屈」といいます。
子宮後屈はそれほど珍しいものではなく、すべての女性のうち約20%が子宮後屈だともいわれます(※1)。
原因としては、生まれつき子宮が後ろに傾いている、つまり体質によることがほとんどで、痛みや合併症がなければ治療は特に必要ありません(※2)。
ただし、骨盤内の炎症や子宮内膜症などが原因で子宮後屈になることもあり、この場合は、原因となる病気の治療が必要になります。
子宮下垂・子宮脱
子宮が本来の位置よりも下に落ちこむ「子宮下垂」や、腟から外に出てしまう「子宮脱」の状態が見られることもあります。これは、過去の出産や手術、加齢によって、子宮を支える骨盤底の筋肉や靭帯が弱っていることで起こります。
子宮下垂のうちは自覚症状はほとんどありませんが、子宮脱になると外陰部などが子宮に圧迫されて違和感が生じるほか、頻尿や失禁、排尿困難、膀胱炎などにつながることもあります(※2)。
子宮下垂も子宮脱も、命に関わる病気ではありませんが、頻尿や排尿困難などの症状がある場合には、ペッサリー(リング)というドーナツ状の器具を腟の中に挿入して、子宮を元の位置に固定する治療を行います。
まれに子宮を摘出したり、左右の靭帯を縫い合わせるなどの手術による治療が必要になることもあります(※2)。
子宮の位置は妊娠に影響するの?
子宮の位置が少しずれているからと言って、それがそのまま将来の妊娠に影響するとはいえません。
ただし、次のような場合は不妊や感染症のリスクを避けるため、治療が必要なこともあります。
子宮後屈
「子宮内膜症」が原因で子宮後屈の状態になっている場合、不妊につながる恐れがあります。
これは、子宮内膜症によって周囲の臓器と癒着を起こし、卵子や精子、受精卵の通り道である卵管がふさがってしまうことなどがあるためです(※3)。
生理が来るたびに生理痛がひどい場合や、性交痛や排便痛があるといった場合は、子宮内膜症を疑って婦人科を受診しましょう。
子宮内膜症と診断された場合でも、低用量ピルやホルモン剤によって治療を行うことで、妊娠を目指すことができます。
なお、子宮後屈が生まれつきの体質である場合、「妊娠や出産にはほとんど影響がない」とする説もあれば、「精子が子宮内に入りにくく、妊娠しづらい可能性がある」という説もあり、はっきりしていないのが現状です。
子宮下垂・子宮脱
子宮下垂の初期段階で特に症状がなく、性交渉に影響がなければ妊娠・出産できる可能性はあります。
しかし、子宮下垂が進んで子宮脱となった場合、痛みのために性交渉しにくくなったり、子宮が腟から外に出ていることで細菌感染のリスクが高まったりするため、妊娠を希望する場合は治療法について医師と相談しましょう。
妊娠で子宮の位置はどう変わる?妊娠初期の場所は?
妊娠中、赤ちゃんが大きくなるにつれて、子宮は右方向へ傾き、子宮の左側が体の前を向くように回旋します(※4)。
また、子宮の傾きだけでなく、高さも妊娠によって変化します。
妊娠初期の子宮底(子宮の上端)は、骨盤の下部をつなぐ「恥骨結合」の上縁にあたる位置にありますが、妊娠月数が進むにしたがって上がっていきます。
妊娠5ヶ月末にはおへそから指2〜3本下がったところの位置になり、臨月を迎える頃にはみぞおちにある剣状突起とへその中間くらいまで上がります(※4)。
なお、上図のとおり、「恥骨の上端から子宮の一番上までを体の表面上で測った長さ」を「子宮底長」といい、毎回の妊婦健診で検査する項目の一つとなっています。
子宮の位置は体操で戻せる?
子宮後屈は生まれつきの体質であることが多く、痛みなどがなければ正しい位置に戻さなくても特に問題はありません。
ただし、子宮下垂はそのまま放っておくと子宮脱が起こる恐れもあるため、「骨盤底筋体操」などで子宮を支える骨盤底の筋肉や靭帯を鍛え、位置を改善することが大切です。
骨盤底筋体操のやり方
1. 仰向けの姿勢で膝を立て、足を30cmくらい開く
2. 頭の下にクッションを置き、腕を体の両側に垂らす
3. 肛門と腟の筋肉を引き締める
4. 力を入れて、締めた状態を8~10秒キープする
5. ゆっくりと力を抜き、リラックスする
6. その後、力を抜いてまた締めなおす。1~5を10~20回程度繰り返す
ただし、産後は産褥期(産後6~8週)を過ぎてから、無理のない範囲で骨盤底筋体操をするようにしましょう。
子宮の位置が気になったら病院へ
重い生理痛や腰痛、外陰部の違和感などがある場合は、子宮内膜症による子宮後屈や子宮下垂の可能性があります。気になる症状がある場合は、婦人科で詳しく診てもらいましょう。適切な対策をとることで、症状が軽くなる場合もあります。
また、妊娠によって自然と子宮の位置が変わるのは、なんだか不思議な感じがしますね。妊娠中の子宮の変化はお腹の赤ちゃんの成長と連動しているので、少し意識してみるとママになる実感が湧くかもしれませんよ。