妊娠するためには、卵子と精子が良いタイミングで出会い、受精することが最初のステップとなります。それでは、女性の腟内に射精された精子は、受精までにどのような動きをするのでしょうか?今回は、射精から受精までの流れやかかる時間、受精しやすい射精のタイミングなどについてご説明します。
射精から受精までの流れは?
精子が腟内に射精されたあと、子宮のなかを通り、卵管を通過して、「卵管膨大部」というところにたどり着きます(※1)。
卵管膨大部に到着した精子たちは、卵子の周りを一斉に取り囲み、先端部を卵子のなかに突っこもうとします(※1)。
しかし、そのなかで1個の精子が卵子のなかに入りこむと、卵子を包んでいる「透明帯」という膜の性質が変化し、ほかの精子は入りこめないようになります。
こうして、たくさん射精された精子のうち1個だけが、卵子と受精することができるのです。
射精から受精までの時間は?
女性の腟内に射精された精子の一部は、15分ほどで卵管まで到達します(※2)。
そのあと、卵管を通って卵管膨大部に到達するまでの時間も考えると、射精から受精までには約1時間程度かかるとされます。
なお、精子は腟内に射精された段階では、受精能(卵子と受精する能力)がありません。そのあと子宮のなかを進んでいく過程で受精能を獲得し、5~6時間かけて受精が可能な状態に変化します(※2)。
射精から受精まで、腟内は精子にとって過酷?
1回の性交で射精される精子の数は、2~4億個といわれています(※1)。こう聞くとずいぶん多いように感じますが、受精までの道のりでだんだんと精子は減っていきます。
通常、女性の腟内は、子宮内に細菌やウイルスが侵入するのを防ぐために酸性の状態になっています。しかし、精子は酸性に弱く、腟内で生存することは容易ではありません。
そこで、酸から身を守るために、射精されたばかりの精子は「精漿(せいしょう)」というアルカリ性の液体に保護されています。
しかし、精漿はやがて薄まっていくので、精子は自力で腟内を進み、子宮頸管を目指す必要があります。
射精から受精までに、精子は子宮頸管でどうなるの?
子宮頸管で分泌されている頸管粘液は、通常であれば進入してきた精子を子宮の奥に運ぶ役割をします。
先述のとおり、精子は酸に弱いのですが、排卵が近くなると、精子が入ってきやすいように子宮頸管粘液は弱アルカリ性になります。また、粘液の量が増え、よく伸びる状態になるため、精子が運ばれやすくなります(※3)。
そうはいっても、やはり精子にとっては大変な道のりで、子宮頸管を抜けて子宮のなかにたどり着く頃には、精子の数は1~2万個にまで減っています(※1)。
また、まれですが頸管粘液内に「抗精子抗体」が含まれていると、精子の通過が阻止されてしまいます。抗精子抗体とは免疫異常の一種で、精子を異物とみなして攻撃をしてしまう結果、精子が子宮内に入っていけなくなってしまうことがあるのです。
射精から受精まで、卵管膨大部がゴール?
精子が子宮のなかを通って卵管に到達する頃には400~600個になり、卵子と出会う卵管膨大部までたどり着ける精子は60~200個ほどです(※1)。
卵管膨大部まで来た精子たちは、卵子の周りを取り囲みます。精子の頭部から酵素を放出することで、卵子を包んでいる透明帯を分解し、なかに入りこもうとします(先体反応)。
やがて、透明帯を突破して1個の精子が卵子と受精すると、透明膜のタンパク質構造が変化します(透明帯反応)。
そうすると、ほかの精子が入ってこられなくなり、その精子たちは卵細胞膜にたどり着けないまま死滅してしまいます(※1,2)。
このような仕組みで、最初は何億個もあった精子のうち1個だけが卵子と受精できるのです。
射精から受精までに、卵子はどう動くの?
ところで、射精された精子と出会うまでに、卵子はどのような動きをしているのでしょうか?
卵子は、卵巣から排卵されたあと、卵管の先端にある「卵管采(さい)」にキャッチされ、卵管に取りこまれます。
そのあと、卵管膨大部まで進み、過酷な道のりを乗り越えてきた精子たちと出会い、受精のときを待ちます。
なお、精子と卵子の受精によって生まれた受精卵は、分裂を繰り返しながら卵管を通り抜け、子宮のなかに到着して着床が成立すると、「妊娠」となります。
受精しやすい射精のタイミングは?
先述のとおり、精子と卵子が受精するためにはクリアしなければいけない条件がたくさんあり、射精されたからといって必ず受精できるとは限りません。
しかし、精子と卵子の機能には異常がないとすると、排卵に合わせたタイミングで射精することで、受精の可能性を高めることができます。
腟内に入ったあとの精子の寿命が2〜3日、卵子の寿命が排卵から約24時間で、そのうち受精できるのが約6~8時間です。
これを踏まえると、「排卵日の直前に射精する」ことで、精子が卵管膨大部に到着しておき、卵子が排卵されるのを待っておく状態だと、受精しやすいといえます。
排卵日を予測するには、基礎体温をきちんとつけておくことが大切です。上のグラフのとおり、基礎体温がガクッと落ちた日の前後3日間くらいに排卵が起こると考えられます(※4)。
射精から受精までは奇跡の連続
射精から受精までの道のりはまさにサバイバルで、精子はいくつものハードルを乗り越えてやっと卵子と融合することができます。まさに生命の奇跡を感じますね。
無事に受精したあと、妊娠するためには受精卵が子宮内膜にきちんと着床する必要があります。この仕組みについて詳しくは関連記事を参考にしてください。