移動性精巣とは?睾丸が上がる?手術は必要?将来不妊になる?

監修医師 小児科 武井 智昭
武井 智昭 日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギ... 監修記事一覧へ

男の子の赤ちゃんのお世話をしていて、生殖器に違和感を覚えたことはないでしょうか。例えば、赤ちゃんの陰嚢をさわったときに、中にあるはずの精巣がなく、びっくりした経験があるママもいるかもしれません。今回は、精巣が簡単に動いてしまう「移動性精巣(遊走精巣)」という状態について、起こる原因や、手術や治療が必要かどうかなど、気になるけれど人には聞きにくい疑問についてご紹介します。

移動性精巣とは?睾丸が上がるの?

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男の子の生殖器のひとつである精巣(睾丸)は、通常、「陰嚢(いんのう)」というシワの寄った皮膚の中に左右に1つずつ入っています。胎児の精巣は、妊娠7~8週目に発生し、妊娠30~32週頃までに腹部から陰嚢の中へと下りてきます。

正常な精巣は、「精巣挙筋」と呼ばれる筋肉によって、腹筋の一層である「内腹斜筋」につながっています。精巣は普段は陰嚢の底にありますが、寒さや運動、性的興奮などの外的刺激により、精巣挙筋が収縮することで、精巣がお腹の方に引き寄せられます。

この反射が強いと、精巣が動きやすく、足の付け根の鼠径部まで引き上がることもあります。

このように、精巣が正常に陰嚢の中に収まっているものの、陰嚢と腹部とのあいだで簡単に行ったり来たりする状態を「移動性精巣(遊走精巣)」といいます(※1)。

移動性精巣は病気?症状は?

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移動性精巣は、通常よりも高い位置に精巣が上がることはあるものの、基本的には陰嚢の底まで精巣が下りてきている状態であり、鼠径管や腹部の中にまで入りこんでしまうことはないので、発生学的な「異常」とはみなされず、目立った症状もありません。

移動性精巣は外的刺激に対して強く反応が出やすく、寒い環境では精巣の状態を確認しづらいという特徴があります。入浴や就寝時など、暖かい環境やリラックスした環境での確認がおすすめです。

陰嚢を触ってみて、精巣が中にあることを確認できるのであれば心配ありませんよ。鼠径部と陰嚢を触診し、精巣にさわって陰嚢内に引き下ろしてみたときに、しばらくその位置に精巣がとどまることができるのであれば、移動性精巣と考えられます。

一般的には、思春期までには精巣が動かないようになるケースが多いようです。

移動性精巣は手術が必要?将来不妊になる?

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前述の通り、精巣が陰嚢とお腹との間で動きやすいこと自体は異常なことではありません。生殖器としての機能に問題があるわけではないため、「将来不妊になるのでは?」と不安になる必要はありません。

ただし、精巣が陰嚢から引き上がっている時間が明らかに長い場合、医師から精巣を陰嚢の中に糸で固定する手術を勧められることもあります。

これは、精子が高温に弱く、鼠径部や腹部で精巣が温められすぎることで、精子の運動率の低下や精巣腫瘍のリスクが上がるなど、正常な発育に悪影響を及ぼす可能性があるためです。

移動性精巣以外の可能性は?

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医師による触診で精巣を確認できなかったり、陰嚢内に引き下ろしてもすぐに元の位置に戻ってしまったりするようなら、「停留精巣」の可能性が疑われます。これは、精巣の片方または両方が腹部から陰嚢に下りてくる途中で止まってしまったままの状態を指します。

停留精巣にも目立った症状はありませんが、放置してしまうと精巣がお腹の中でねじれる「精巣捻転」や、精巣のがんである「精巣腫瘍」の発症リスクが高まることがわかっています。

素人の目で見て、移動性精巣なのか、それとも停留精巣なのかを判断するのは難しいので、乳幼児健診で指摘されたり、パパやママが何か違和感を覚えたりしたら、すぐに小児科や泌尿器科で診察を受けましょう。

移動性精巣が疑われるときは、まずは泌尿器科へ

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男の子の赤ちゃんのおむつを替えているときや、子供をお風呂に入れているときに、「精巣がない!」と驚いた経験がある人もいるかもしれません。もしくは、乳幼児健診で「移動性精巣」の可能性を指摘されると、「将来、不妊になるのでは」と不安になりますよね。

しかし、今回ご紹介したとおり、移動性精巣は一定時間内に精巣が陰嚢の中にあれば経過をみてよいものと考えられていますよ。ほとんどは思春期までに自然と治るケースが多いので、まずは落ち着いて医師の判断を仰ぎましょう。

ただ、場合によっては、停留精巣という別の病気が隠れていることもあります。ママやパパの自己判断で放置せず、小児科や泌尿器科で診断を受けてくださいね。

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