ホルモンバランスが乱れる原因にもなる「下垂体機能低下症」。妊娠を希望する女性が気になる病気のひとつです。妊娠だけでなく、日頃の体調にも関わる病気なので、早めに発見し、治療をするのが大切ですよ。今回は、下垂体機能低下症について、原因や症状、治療法、妊娠できるかどうかなどをご説明します。
下垂体機能低下症とは?難病なの?
「下垂体機能低下症」とは、下垂体から出るホルモンの分泌が低下している状態のことをいいます。国から難病指定を受けている疾患です(※1)。
下垂体とは、脳のなかにあるホルモンの中枢部分です。ここから出る「下垂体前葉ホルモン」が様々な末端ホルモンの分泌を調節しています。そのため、下垂体前葉ホルモンの分泌が低下すると、体内の様々なホルモンにも異常をきたし、全身にあらゆる症状を引き起こすのです。
下垂体前葉ホルモンは、具体的に下記を指します。
● 副腎皮質刺激ホルモン
● 甲状腺刺激ホルモン
● 成長ホルモン
● 黄体化ホルモン
● 卵胞刺激ホルモン
● プロラクチン
全ての下垂体前葉ホルモンが低下していることを「汎下垂体機能低下症」、複数のホルモンが部分的に低下していることを「部分型下垂体機能低下症」と呼びます(※2)。
平成13年に行われた調査では、全国で約1,500人が下垂体機能低下症として受診していたことが分かりました。しかし、原因や症状が多岐に渡ることから、実際はもう少し多いのではないかと考えられています(※1)。
下垂体機能低下症の原因は?
下垂体機能低下症は、下垂体やその周辺に生じた炎症や腫瘍、外傷などが主な原因ですが、原因が特定できないこともあります。原因不明の場合は、何らかの免疫異常が関係している可能性があるとされています(※1)。
また、昔は出産時に大量に出血することで、産後に下垂体機能低下症になることもありました。現在は医療機関が整ったこともあり、出産が引き金になることは少なくなっています(※3)。
下垂体機能低下症の症状は?
下垂体機能低下症の症状は、分泌が低下したホルモンの種類によって異なります(※1)。
副腎皮質刺激ホルモン
副腎皮質刺激ホルモンが低下すると、「副腎皮質ホルモン(コルチゾール)」という末梢ホルモンが欠乏します。それによって、副腎不全となり、下記のような症状が現れます。
● 疲れやすい
● 血圧が低い
● 食欲がなくなる
● 頭がぼーっとする
甲状腺刺激ホルモン
甲状腺刺激ホルモンが低下すると、「甲状腺ホルモン」という末梢ホルモンが欠乏します。それによって、下記のような甲状腺機能低下症状が見られます。
● 低体温になり、寒さを感じる
● 皮膚が乾燥し、荒れる
● 脈が遅い
● 記憶力や集中力の低下
成長ホルモン
成長ホルモンが低下すると、成長因子の分泌が減少します。大人の場合、下記のような症状が見られます。
● 体脂肪の増加
● 筋肉力の減少
● 骨粗相症
● 体力の低下
黄体化ホルモン・卵胞刺激ホルモン
黄体化ホルモンや卵胞刺激ホルモンの分泌が低下すると、アンドロゲンやエストロゲンといった性ホルモンが減少します。その結果、女性特有の下記のような症状が起こることがあります。
● 排卵機能の低下
● 無月経
● 不妊
プロラクチン
プロラクチンは、乳腺の発育と母乳の分泌を担うホルモンです。そのため、プロラクチンの分泌が減少しても男性には影響ありませんが、授乳中の女性はおっぱいが出にくくなってしまいます。
下垂体機能低下症の治療方法は?
下垂体機能低下症の原因が炎症や腫瘍などの場合は、まず、その原因となる病気を治療します。
その上で、欠乏しているホルモンを薬の内服や注射によって補充する治療を行います。補充するホルモンの量や種類は、その人の症状や年齢などに合わせて調整されます。
欠乏しているホルモンをきちんと補えば、健康な人と同じように生活することが可能です。しかし、一度機能が低下した下垂体が回復する可能性は低く、ほとんどの人が長期間ホルモン治療を行う必要があります(※1)。
下垂体機能低下症でも妊娠できる?
下垂体機能低下症になると、人によっては妊娠に必要な黄体化ホルモンや卵胞刺激ホルモンの分泌が低下し、排卵障害を起こすことがあります(※3)。
この場合も、これらのホルモンを注射や薬などで補い、排卵を誘発する治療が行われます(※2,3)。これらの治療により、約30%の妊娠率が見込まれるというデータも出ています(※3)。
妊娠を希望する人は、婦人科や内分泌内科、泌尿器科などの専門医に、妊娠を視野に入れた治療方法を相談しましょう。
下垂体機能低下症の治療は家族と協力して
下垂体機能低下症は、ホルモン治療を一生行う可能性もある病気です。定期的に通院する必要もあるため、家族に協力してもらいながら、治療に取り組む環境を作れるといいですね。
妊娠を希望する人も、下垂体機能低下症になったからといって諦める必要はありません。主治医やパートナーと話し合いながら、最適な方法を見つけていきましょう。