子どもの普段の様子を見ていて、他の子ができていることができなかったりすると、「もしかして発達障害なのかな?」と思うことがあるかもしれません。特に、「人とのコミュニケーションが苦手」「特定のものに強いこだわりを持つ」といった特性が目立つ場合は「自閉スペクトラム症(ASD)」が疑われることもあります。
今回は、自閉スペクトラム症の可能性を探るためのチェックリストはあるのか、M-CHAT-Rとはどんなものなのかをご紹介します。
自閉スペクトラム症とは?どれくらいの子に起こるの?
自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)とは、「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などの発達障害(神経発達症)をまとめた総称です。
自閉スペクトラム症の発生頻度は約100人に1人という報告があり、男女比では男の子の方が多く、女の子の約4倍とされています(※1)。
最近の研究では、2009年から2016年までに生まれた子どものうち、自閉スペクトラム症と診断されたのは約2.75%と推定され、男女ともに2歳ごろから診断されることが多いと報告されています(※2)。
以前よりも自閉スペクトラム症の存在が知られるようになったため、診断されるケースが増えて発生頻度が上がってきていると考えられています。
自閉症スペクトラム症にはどんな特性があるの?
自閉スペクトラム症の子どもは、一般的に次のような特性(症状)があります(※1,3)。
● 他人とコミュニケーションをとることが苦手
● 特定のものやルールに対して強いこだわりを持つ
● 言語の発達が遅く、しゃべらなかったり言葉の指示を理解しなかったりする
こういった特性から、一人で遊ぶことを好んだり、好きな分野に関して大人顔負けの知識を身につけていたりする子も多くいます。
ただし、特性の現れ方や程度は人それぞれで、学童期になるまで自閉スペクトラム症と気づかれないこともあります。
自閉スペクトラム症は「生まれつきの特性」なので、育て方やしつけ方、本人の性格が原因で起こることはありません。
自閉スペクトラム症のチェックリストはあるの?
もし、子どもが自閉スペクトラム症だった場合、できるだけ早くに気づき、その子の特性に合った教育支援をすることが大切です。
そのためのチェックリストとして、「改訂 乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(M-CHAT-R)」があります(※4)。
生後16〜30ヶ月の幼児を対象にして作られたこのチェックリストは、親に質問する形式になっており、全20項目に「はい」か「いいえ」で答えて、自閉スペクトラムの可能性を探ります(※4)。
厚生労働省は、自閉スペクトラム症の早期発見のために、1歳6ヶ月健診でM-CHAT-Rを行うことを推奨しています(※5)。
ただし、M-CHAT-Rは、あくまでも自閉スペクトラム症の疑いがあるかを探し出すためのチェックリストなので、確実な診断をするには専門の医師によるさらに詳しい検査が必要となります。
M-CHAT-Rのチェック項目は?結果はどのように見るの?
ここでは、M-CHAT-Rの全20項目をご紹介します。
日本語版M-CHAT-Rの全20項目(※4)
出典: 改訂 乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(フォローアップ調査付き) ( mchatscreen.com )1. あなたが部屋の中の離れたところにあるモノを指でさすと、お子さんはその方向を見ますか?(たとえば、あなたがオモチャや動物を指さすと、お子さんはそれを見ますか?)
2. お子さんの耳が聞こえないのではないかと心配されたことがありますか?
3. モノをなにかに見立てて遊んだり、ごっこ遊びをしますか?(たとえば、からのコップから飲むふり、電話で話すふり、または人形やぬいぐるみの動物に食べさせるといったふりをして遊びますか?)
4. 何かをよじ登ることが好きですか?(例えば、家具、公園の遊具、階段など)
5. 目の近くで指を動かす変わったくせがありますか?(たとえば、目の近くで指をひらひら動かすことがありますか?)
6. ほしいモノを取って欲しいとき、指をさして要求しますか?(たとえば、手の届かないところにあるおやつやオモチャを指さすなど)
7. 何かに興味を持ったとき、指をさしてあなたに伝えようとしますか?(たとえば、空を飛んでいる飛行機や道路を走っている大きなトラックを指さすなど)
8. 他の子どもに興味がありますか?(たとえば、他の子どもを見たり、笑いかけたり、あるいは近づいたりということはありますか?)
9. あなたに見てほしくて(あなたに手助けしてほしいためではなく)、見てほしいモノをあなたのところに持ってきたり、あなたに見えるように持ち上げたりして見せますか?(たとえば、花、ぬいぐるみ、オモチャの車など)
10. あなたがお子さんの名前を呼ぶと反応しますか?(たとえば、顔をあげたり、何かことばや片言を言ったり、していることをやめたりしますか?)
11. あなたがお子さんに笑いかけると、笑顔を返してきますか?
12. お子さんは、日常的な物音で大騒ぎしますか?(たとえば、掃除機や音量の大きい音楽の音に泣き叫んだり騒ぎますか?)
13. お子さんは歩きますか?
14. あなたがお子さんに話しかけたり、一緒に遊んだり、あるいは着替えさせたりしているとき、お子さんはあなたの目を見ますか?
15. あなたのすることをまねしようとしますか?(たとえば、あなたがバイバイや拍手、あるいは変な音をたてたりすると、そのまねをする)
16. あなたが何かの方に顔を向けると、お子さんもあなたが見ているモノを探してあたりを見回しますか?
17. お子さんはあなたに自分の方を見てもらおうとしますか?(たとえば、褒めてもらいたそうにあなたを見たり、「見て」、「こっち見て」と言ったりしますか?)
18. あなたがことばで指示すると、お子さんはわかりますか?(たとえば、指さしで示さなくても、「その本をそのいすの上に置いて」や「毛布を持ってきて」というとその通りにできますか?)
19. 初めての場面では、あなたの顔を見て反応を確かめますか?(たとえば、今まで聞いたことのないような音や変な音を聞いたり、新しいオモチャを見たりしたとき、あなたの顔を見ますか?)
20.お子さんは身体を動かすことが好きですか?(たとえば、あなたがお子さんをブランコのように揺らしたり、膝の上でぴょんぴょんさせたりすることなど)
2、5、12以外のすべての項目の回答が「いいえ」の場合、または、2、5、12の3項目すべての回答が「はい」の場合は、自閉スペクトラム症の兆候がある可能性があります。
しかし、上記に当てはまったからといって、自閉スペクトラム症であることが確定するわけではありません。
また、M-CHAT-Rはあくまでも生後16〜30ヶ月の子どもを対象に作られたものなので、その月齢ではない子どもを持つママ・パパがM-CHAT-Rを行っても、その有効性については確かではありません。
自閉スペクトラム症の詳しい診断は病院で
M-CHAR-Rを実施して自閉スペクトラム症の可能性が高い場合は、発達障害に詳しい専門の医師に診断してもらいましょう。
また、3歳以上の子どもに自閉スペクトラム症の特性がみられる場合は、専門の病院を受診してください。専門医が見つからない場合は、かかりつけの小児科や発達障害者支援センター、自治体の障害福祉課などに問い合わせると紹介してもらえます。
子ども一人ひとりにはそれぞれの個性があり、自閉スペクトラム症はその個性が強く現れたものと考えることができます。発達障害があってもなくても、子どもの個性を伸ばすという視点で成長をサポートしてあげられるといいですね。