男性不妊の原因には様々なものがありますが、「逆行性射精」はその一つ。勃起障害(ED)などと比べると耳慣れないかもしれませんが、妊活に取り組むカップルであればぜひ知っておきたい病気です。今回は、逆行性射精の原因や症状、治療法のほか、人工授精や体外受精、顕微授精など補助生殖医療での妊娠についてまとめました。
逆行性射精とは?症状は?
逆行性射精とは、射精時に精液が膀胱に流れてしまう病気です。
本来であれば、射精のとき、精液は尿道を通って放出されます。その際、膀胱に精液が流れていかないように、膀胱と尿道の間の「膀胱頸部」が閉じ、逆流しない仕組みになっています。しかし、膀胱頸部がうまく閉じないと、逆行性射精が起こってしまうのです。
逆行性射精の症状として、オーガズムや射精感はあるものの精液がまったく出ない「完全逆行性射精」と、わずかに出る「部分逆行性射精」があります(※1)。逆行性射精そのものは体に害があるものではないため、特に妊娠の希望がない場合、放置しておいても問題はありません。
逆行性射精の原因は?
逆行性射精は、糖尿病や外科手術の後遺症による末梢神経障害として起こることが多いのですが、病気や手術の影響で、射精時に膀胱頸部の閉鎖がうまくいかなくなってしまうことが原因とされています(※2,3)。
なお、逆行性射精については、泌尿器科で検査を受けても原因がわからないことも多くあります。
逆行性射精は不妊の原因になる?
逆行性射精の場合、体外に放出される精液量が少なくなるので、性交渉を重ねても膣内に精子が入っていかず、自然妊娠につながりにくくなります。特に痛みなどの症状はなく、射精のときに「少し量が少ないかな」と感じるぐらいで放置してしまう可能性もあります。
精液の量が減っていると感じる場合や、排卵日に合わせて性交渉をしていても、半年〜1年以上妊娠しない場合は、病院を受診しましょう。
逆行性射精の検査方法は?
「射精したときの精液が少ない」などの自覚症状がある場合、泌尿器科で検査を受けましょう。
病院でまず排尿し、膀胱を空にしてからマスターベーションをします。そのあと、膀胱内に出た精液ごと培養液の中に再度排尿します。尿の中から精子を回収し、精子運動率や精子生存率、精子数を調べます(※2)。
逆行性射精の治療法は?妊娠できるの?
逆行性射精の治療方法として、「塩酸イミプラミン」や「アモキサピン」などを使った薬物療法が行われます(※4)。
しかし、完全逆行性射精も部分逆行性射精も治療が難しく、妊娠を希望する場合、逆行性射精そのものを治すというよりも、人工授精や体外受精、顕微授精といった生殖医療技術を使って妊娠を目指すことも選択肢の一つです。
排出された尿の中から、運動率の高い精子を回収できれば人工授精を行い、精子の数が少なかったり運動率が低かったりする場合は、体外受精や顕微授精を行うのが一般的です。
逆行性射精で妊娠が難しい場合もある?
逆行性射精で自然妊娠が難しくても、精子自体が作られているのであれば、人工授精などで妊娠を目指せる可能性は残っています。
しかし、そもそも精子を作る段階の「造精機能障害」があり、精液の中に全く精子が見当たらない「無精子症」と判断された場合、妊娠が望めない可能性もあります。
無精子症には2つの種類があります。1つは、精巣内で精子は作られているものの、尿道までのルートである「精路」に問題がある「閉塞性無精子症」です。このケースでは、「精路再建術」などの治療を行うことで子供を持てる希望があります。
もう1つは、先天的な原因などで精子を作ることができない「非閉塞性無精子症」です。この場合、現在の医学では生殖医療技術を使っても妊娠することが難しいとされます。
男性不妊のうち、精子に何らかの原因があるかどうかを調べたい場合には、泌尿器科で「精液検査」を受けましょう。精子濃度や精子の運動率、奇形率、ウイルス感染の有無などをチェックする検査を複数回受け、総合的に判断するのが一般的です。
逆行性射精でも妊娠の可能性はあります
逆行性射精は、原因不明なケースも多く、治療も難しいと言われています。しかし、自然妊娠は難しくても、元気な精子を作り出せていれば、人工授精や体外受精、顕微授精によって妊娠できる可能性はあります。
射精の問題や不妊に悩んでいる場合は、泌尿器科を受診して検査を受けてみましょう。もしかすると、逆行性射精以外の病気を見つけられる可能性もありますよ。