子育てしていると、子どもが言うことを聞いてくれない、家事が何ひとつはかどらなかった……なんていう日もあります。そんな気持ちをよそに、「ママ見て!」「遊んで!」と矢継ぎ早の攻撃に、「ママをやめたい」「すぐイライラしてしまう私は母親失格?」などと思ったことのあるママも少なくないのではないでしょうか。
こんな時、どのように考え、子どもと向き合ったらいいのでしょう。青山学院女子短期大学子ども学科准教授の菅野幸恵先生に伺いました。
菅野幸恵先生
青山学院女子短期大学子ども学科准教授。幼稚園教諭や保育士をめざす学生に心理学を教えている。著書に『あたりまえの親子関係に気づくエピソード65』(新曜社)、『甘えれば甘えるほどひとりでできる子に育つ』(PHP研究所)など。
親と子は別々の存在
親子はひとつの人間関係
出産前は楽しみだった子どもとの暮らし。でも、いざ子育てが始まると、「笑顔がかわいいな~」「子育てって楽しい!」と思うときもあるけれど、夜泣きが続き睡眠不足でくたくた、イヤイヤ期が始まりいうことを聞いてくれない、子どもの世話ばかりで自分の時間が持てない……など、さまざまなハードルが立ちはだかることも多いものです。
そんななか、子どものことをイヤだと思ったり、ママをやめたいと思うことがあるかもしれませんね。
日々の子育ての中で、親が、子どもや自分自身に対しネガティブな感情を抱く。これはごく自然なことです。なぜなら、そもそも親と子は一体ではなく別々の存在であり、親子関係も「人間関係のひとつ」だからです。
会社や地域など他の人間関係だったら「気が合わなければ付き合わない」という選択肢も取れますが、子育てはそうはいきません。
「親」と「子」という関係が、これから先もずっと続き、親には「子どもを一人前の大人に育てていく」という大切な役割があります。
だからからこそ、初めての育児の場合は特に子どもの一挙手一投足に敏感になり、「せっかく作った離乳食を食べてくれない」「どうして泣き止まないの!」などと悩んだりイライラしたり。
その結果、「もうイヤ!」「ママをやめたい」といった感情を抱いてしまうことがあります。
ネガティブな感情がわき上がることも
このようなネガティブな感情は、「わが子を理解したい」「いい子に育ってほしい」など、子育てを一生懸命がんばっている過程でごく自然にわき上がるもの。自己嫌悪におちいる必要はありません。
しかし、このような気持ちが「一時的」でなく「日常的」に続いてしまうと、「いつもイライラしてばかりの私って、母親失格?」といった育児不安につながり、子どもを無条件に愛することができなくなってしまうこともあるでしょう。
子育ては、待ったなし。日々の忙しさに流されてしまいがちですが、自分は子どもに対して日頃どんな感情を抱いているのか、これを機に振り返ってみましょう。
ネガティブな感情が起こりやすい人は、日ごろから「『こうしなければならない』といった枠組みを強く持っている」傾向もあるようです。
たとえば、「友だちにおもちゃを貸してあげて仲良く遊んで欲しい」というのは、親なら誰しもが抱く願い。だから、おもちゃをひとり占めしていると、「なんで貸してあげられないの?」と怒りたくなるかもしれません。
すると子どもも意固地になり、さらにイライラが募る、子どもは言うことを聞かないという悪循環に陥ってしまうことがあります。
「こうしなければ」という枠組みを取り払う
ネガティブな感情を少しでもなくしていくために大切なのは、「こうしなければいけない」という枠組みを取り払い、なるべく目の前の子どもの気持ちや欲求に合わせて柔軟に対応するよう心がけることです。
「育児書にはこう書いてあるのに、うちの子はなんでできないのだろう」「インターネットを見るとこう紹介されているけど、うちの子は全然違う。なにかおかしいのではないか」など、あふれる情報に縛ら「頭で考え、悩む」よりも、「この子にはこういう気持ちがあるんだ」「この子はこうしたいのね」など、固定観念を解き放ち、子どもの気持ちを受け止める。そして、目の前の子ども中心に考えていくスタンスが大切です。
時には何をしても泣き続け、身も心もヘトヘトになる、そんな日もあるでしょう。でも、こうした試行錯誤を繰り返しながらわが子と向き合い、しっくりくる方法を見つけていくことが「子育て」なのかもしれませんね。
「子どもがイヤ」「ママをやめたい」
そう思ったときはこうしています!
実際、ママたちに起こった事例を紹介します。
パパに子どもを預け、一人カラオケで気分転換
「着替えがイヤ!」「ご飯を食べるのもイヤ!」など、イヤイヤがひどい娘。「イヤイヤ期は成長過程のひとつ」とわかってはいるけれど、家事が思うように進まず、私のほうもイライラしてしまいます。
もう少しで爆発寸前……となった時は、パパが休みの日に子どもを預け、一人でカラオケに出かけます。好きな歌を思い切り歌っているうちに気持ちもリフレッシュ。帰る頃にはいつもの自分に戻っています。(2歳2ヶ月の子のママ)
子育てひろばに一時預かりをお願いする
妊娠を機に仕事を辞め、専業主婦に。出産後、子育ては楽しいけれど、気がついたら夫以外の大人と会話しない日が何日も続くことも。ストレスがたまり、夜泣きが続くわが子にイラッとするようになりました。
夫のすすめもあり、近くの子育てひろばの一時預かりを思い切って利用してみたら、イライラが少なくなり、不思議と夜泣きも落ち着きました。わが子はかわいいけれど、時には離れる時間も必要。一時預かりは今でも定期的に利用しています。(10ヶ月の子のママ)
仲良しのママ友の家に遊びに行かせてもらう
いたずら盛りのわが子にイライラして怒鳴りつけ、その後自己嫌悪に陥ったりして「もうイヤ!」と思った時は、仲良しのママ友の家に遊びに行かせてもらいます。
「ねえねえ聞いて~」と、話を聞いてもらっているうちに、イライラしたり、悩んだりしているのは自分だけではないことに気づき、救われた気持ちになります。一緒に遊ばせたりランチしているうちに、気持ちがスッキリします。(1歳4ヶ月の子のママ)
幼稚園入園を機にパートを開始
幼稚園入園を機にパートを始めました。子育てだけだとどうしても煮詰まり、子どものできないところばかりが目についてイライラする→そんな自分を責めるという悪循環が続いていたからです。
週に1、2回ですが、仕事をすることによってスイッチが切り替わり、精神的にもメリハリがつくようになりました。子どもの成長を見ながら少しずつ仕事を増やしていきたいです。(4歳3ヶ月の子のママ)
パートナーシップを見直し
周りの助けを借りよう
子どもは、ママだけでなくいろいろな人と関わり、その中で育っていくことが大切です。
一緒に子育てを担うパパにも、悩みや困り事を相談しましょう。日常的な子育て、朝の着替えや保育園の送りなど、パパに協力してもらえるところは、具体的に相談してみるといいですね。
また、子育て中のママ達に話を聞いてみると、「泣く」「いたずらする」「自己主張する」など、子どもからの要求や主張、抵抗に対応する時にネガティブな感情が生じるという声が多く聞かれました。
逆に、子どもをかわいく思う時の答えの一つとして多く聞かれたのが、「子どもが寝ている時」。子どもと少し離れ、客観的に見ている状態の時に、かわいく思えたりほっとしていることがわかりました。
パパの仕事が休みの日には、パパと子どもで過ごして、ママの時間を作ってもらったり、近くに祖父母がいれば時々預かってもらって夫婦の時間を作るのも一案です。
地域の子育てひろばの一時預かりを利用する、働きたいなら可能な範囲で仕事を始めるなど、子どもと「離れる」時間を意識的につくることも、心を安定させることにつながるでしょう。
何事も一人で抱え込まず、周りの人のサポートを借り、ときには「手放す」潔さも必要です。
料理上手、裁縫上手なママや、子どもへの接し方が上手なママと自分を比較し、私は何もできない」などと落ち込む必要もありません。
「子どもと公園で遊ぶ」「絵本を読む」など子どもと一緒の時間を過ごし、ご飯を食べ、お風呂に入り、笑ったり泣いたりする中で子どもが元気に成長していれば、それだけで立派なママです。
これからも、子どもの成長に伴いさまざまな出来事に直面し、ネガティブな感情が押し寄せて不安に落ち込むこともあるでしょう。
どうしても辛い場合は、地域の家庭支援センターや保健所などに相談しましょう。子育てしていれば当たり前に抱くこの感情とうまく付き合いながら、親子で成長していかれるといいですね。
出典:miku 47号 2016年冬号
※掲載されている情報は2016年12月25日当時のものです。一部加筆修正しています。
絵本ナビ編集部