人工的に起こす流産のことを「人工流産」といいます。何らかの理由によって妊娠し続けることができない場合に、妊娠を終わらせるための方法として行うものです。今回は、人工流産とはどのようなものなのか、薬を使って行うのか、費用はどれくらいかかるのかなどについてご説明します。
人工流産とは?
妊娠したけれど、22週より前に妊娠が終わってしまうことを総称して「流産」といいます。このうち、人の手によって意図的に起こす流産が「人工流産」で、いわゆる「人工妊娠中絶」のことです。
一方、人工流産の対になる言葉として、「自然流産」があります。こちらは自然に起きる流産のことです(※1)。
厚生労働省によれば、平成28年度に行われた人工流産は約17万件。人工流産の件数は年々減ってきていますが、年齢別に割合を見ると、20〜24歳が最も多く、次いで25〜29歳が多くなっています(※2)。
人工流産が行える条件は?
人工流産は、いつでも自由に行えるわけではなく、母体保護法という法律によって、行える条件がいくつか定められています(※3)。
正当な理由であること
人工流産をする場合、その理由が正当なものでなくてはなりません。具体的には、次の2つのうちどちらかに該当しない限り、人工流産はできないことになっています。
● 妊娠や分娩が母体の健康に悪影響を与える恐れがある場合
● 暴力や脅迫によって無理やり妊娠させられてしまった場合
指定の医師によって行われること
人工流産は医師であれば誰でも行えるわけではなく、都道府県の医師会が指定した医師しか行えません。
妊娠22週未満であること
人工流産を行えるのは妊娠21週6日までです。それを過ぎてしまうと行うことができません。
本人とパートナーの同意があること
人工流産を行うには、基本的には本人とパートナーの同意が必要になります。ただし、暴力などにより妊娠した場合やパートナーがわからないとき、パートナーが亡くなってしまったときなどは、本人の同意のみでも行えます。
人工流産は薬を使って行うの?
人工流産の方法には、妊娠週数によって、手術のみを行う場合と、薬を使って手術を行う場合の2通りがあります(※3)。
~妊娠12週
妊娠12週未満で人工流産を行う場合は「子宮内容除去術」という手術を行います。この手術では、鉗子と呼ばれる道具を使い、子宮の内容物を掻き出します。場合によっては、吸引することもあります。
妊娠12週~22週未満
妊娠12週以上、22週未満の場合、すでに胎児がある程度の大きさに成長しているため、子宮内容除去術を行うと母体が危険にさらされてしまいます。そのため手術の前に、オキシトシンやプロスタグランジンなどの子宮収縮薬と呼ばれる薬を使い、普通の分娩のように手術を行います。
子宮収縮薬を点滴したり、飲んだりすると、陣痛が誘発されます。陣痛が来たら分娩を行い、その後、子宮に残った胎盤などを取り除きます。
ただし、子宮収縮薬は帝王切開を2回経験していると使えないなど、使用に関していくつか制約があります。
人工流産はリスクがあるの?
人工流産にはリスクもあります。具体的には、手術の際に合併症にかかってしまったり、子宮収縮薬を使う場合は副作用が現れたりする可能性があります(※3)。
手術の合併症
人工流産の手術を行うと、子宮内が傷ついてしまったり、細菌などによる感染症にかかってしまったりすることがあります。
特に感染症の場合、後遺症として卵管閉塞や子宮内の癒着などが起こってしまい、場合によっては妊娠しづらくなることもあります。
子宮収縮薬の副作用
子宮収縮薬を使うと、強すぎる陣痛によって次のような副作用が起きることがあります。
● 子宮が破裂してしまう
● 子宮口が裂けてしまう
● 子宮から出血してしまう
この他にも呼吸困難や吐き気、不整脈、血圧上昇など、様々な症状が出ることがあります。
人工流産の費用はいくら?
人工流産の費用は妊娠週数によって違いがあります。
妊娠12週未満で人工流産を行う場合、基本的には日帰り手術になるため、費用は10〜15万円くらいです。
一方、妊娠12週~22週未満の間に人工流産を行う場合は、入院が必要となるため費用は出産するときとあまり変わらず、40〜50万円、あるいはそれ以上かかることがあります(※4)。
人工流産をする場合は慎重に
人工流産には薬の副作用や合併症にかかる危険性など、様々なリスクがあり、場合によっては母体に大きな負担を強いることがあります。また、行うためには母体保護法に定められたいくつかの条件を満たしている必要もあります。
何らかの理由で人工流産を選択することがあるかもしれませんが、その場合はパートナーと十分に話し合うとともに、リスクなどについてよく確認しておいた方がいいでしょう。
しっかり考えてから、人工流産を行うかどうか決めたいですね。