女性は年齢を重ねるほど卵子が老化して妊娠しづらくなるといわれますが、実は男性にも同じことがいえます。男性も年齢による影響はあり、精子も老化や劣化をしてしまうのです。精子が老化すると、一体どのような影響があるのでしょうか。不妊にもつながるのでしょうか?今回は精子の老化や劣化についてご説明します。
精子は老化・劣化するの?
2009年の調査によると、全分娩に対して、35歳以上の分娩が22.5%以上、40歳以上の分娩は2.9%以上であったということがわかっています(※1)。出産年齢の高齢化が進んだこともあり、卵子の老化についてはよく話題にのぼりますが、男性は高齢になっても射精ができるため、老化とは無関係と思われがちです。
たしかに成人男性の精巣では、生涯精子が作られ続けます。しかし年齢を重ねるにつれて、精液の量や精子の数が減少し、精子の運動率も低下してしまいます(※2)。
精子の老化・劣化が始まる年齢には個人差がありますが、30代と比較すると、50代では、精液量が3~22%、精子の運動率は3~37%、精子の正常形態率は4~18%低下するという報告もあります(※2)。
精子の老化・劣化は不妊の原因になる?
男性不妊の原因には、精液中に精子がいない「無精子症」や精子の数が減少する「乏精子症」、勃起できない「勃起障害(ED)」など様々な種類があります。
精液の機能の低下と不妊の関係については、高齢の男性の配偶者は一般的に高齢であることから、不妊症にどの程度関係するかは、詳しくわかっていません(※2)。
しかし、精子が老化や劣化をすると、前述の通り、精液の量や精子の数、精子の運動率が低下します。そのため、性行為を行ったとしても、精子が卵子まで到達できないなどで、妊娠しにくくなることもあるかもしれません。
精子が老化・劣化すると受精能力も低下する?
2014年に行われた独協医科大学越谷病院の研究で、男性の精子は35歳を境に受精能力が低下する傾向があると報告されました。不妊治療で来院した男性患者の精子をマウスの卵子に注入し、卵子が活性化するかどうかを確かめるという研究方法で、「卵子を活性化させる能力の低下」が顕著に現れたのです。
一方で、子供がいる20~40代の健常男性を調査したところ、年齢に関係なく卵子を活性化させる能力の低下は見られなかったとされます。
したがって、精子には老化するタイプと老化しないタイプが存在し、人によって異なると結論づけられています。
精子が老化・劣化すると、自然流産も増える?
自然流産の頻度は、全妊娠の8~15%といわれており、35歳以上の妊婦さんではその確率が著しくあがります(※3)。しかし、女性の年齢など、他の要因の影響を除いても、男性の年齢が上がると自然流産の確率が上がるという報告が多数あります。
なかには、45歳以上の男性では、25歳未満の男性と比較して、自然流産の確率が約2倍になるというものや、自然流産に与える影響は男性の40歳以上は女性の30歳以上に相当するとの報告もあります(※2)。
精子が老化・劣化すると「女の子」が生まれやすくなる?
精子の老化・劣化に関わらず、妊娠時の男性の年齢は、子供の性別に影響するという報告もあります。
赤ちゃんの性別は卵子に受精する精子の染色体の種類によって決まり、X染色体の精子が受精すれば女の子、Y染色体をもつ精子が受精すれば男の子になります。
高齢の男性では、Y染色体をもつ精子の数が減少するため、男性が高齢になると女の子が生まれる可能性が高まるそうです(※4)。
精子の老化や劣化も不妊と無関係ではない
子供を授かりたいと願いながら妊娠できないカップルは、世界的に見ても全体の約10%にのぼり、日本で不妊の治療を受けているカップルは、平成14年度時点で46万人を超えています(※5,6)。
また、不妊の原因は主に女性にあると考えられがちですが、40~50%は男性側に原因があります(※7)。精子が老化・劣化することがわかった今、男性の年齢も無視できません。
夫婦ともに35歳を過ぎていて、数ヶ月ほど妊活をしても妊娠できないときは、夫婦揃って不妊外来などを受診することをおすすめします。検査をして原因がわかれば、それを治療することで自然妊娠できることもありますし、自然妊娠が難しい場合でも、人工授精や体外受精など様々な方法があります。
できるだけ早く妊娠できない原因を知って対処することが、子供を授かるための第一歩ですよ。