20~30代の男性に最も多く見られるがん(悪性腫瘍)は、「精巣がん(精巣腫瘍)」です。初期のうちは自覚症状が少ないため、発症していることに気づかず放置してしまう人も多いのですが、進行が早いがんであるため注意が必要です。将来、妊娠を望むカップルにとっては、特に気になる病気の一つではないでしょうか。
そこで今回は、精巣腫瘍の原因や症状、治療法について説明します。
精巣がん(精巣腫瘍)とは?
「精巣がん(精巣腫瘍)」とは、精巣に発生するがんで、片側または両側の精巣組織内に悪性(がん)細胞が認められる病気です。幼児と20~40歳代の男性に多く見られます(※1)。
精巣腫瘍の発症率は男性10万人あたり1人程度とそれほど高くはありませんが、20歳後半~30歳代の男性が最も多くかかるがんです(※2)。そのため、社会的に重要な疾患として捉えられています。
精巣がんは体の他の部分に転移しやすいという特徴があります。しかし、精巣がんは抗がん剤が効くことが多く、他の部位に転移していても完治できる可能性のある、悪性腫瘍です(※2)。
精巣がんの原因は?
精巣がんの原因は明確にはわかっていません。ただし、精巣がんを発症しやすい人の傾向はあります。
生まれたときに精巣が陰嚢内に下りていない「停留精巣」の状態だった人は、そうでない人に比べて2~9倍、精巣腫瘍が発生しやすいと推定されています(※1)。停留精巣は、男の子の生殖器異常のなかでは最も多く見られる病気です。
また、過去に精巣の発育異常があった、父親や兄弟など家族に精巣がんにかかった人がいる、反対側の精巣に腫瘍があるといった場合にも、精巣がんの発生リスクに影響が出るとされています(※2)。
精巣がんの症状は?
精巣腫瘍ができると、精巣内のしこりや、精巣が硬く大きくなるなどの症状で気づきます。人によっては、下腹部や肛門、陰嚢に鈍い痛みや重たい感じをともなうこともあります。
しかし、目立った痛みや腫れの症状がないことから、かなり進行しないと気がつかないことは少なくありません。また、精巣がんの症状に気がついても恥ずかしいという気持ちから、病院で診てもらわないまま放置してしまう人も多いようです。
精巣腫瘍は他の部位への転移が早いがんです。初期症状に無自覚のまま、肺や骨、後腹膜リンパ節などへの転移があってはじめて発見されることもあります。転移すると、腰痛を感じるなどの症状が出ます。
精巣がんの検査や診断方法は?
最初は、陰嚢内のしこりについて触診で確認します。さらに明確に判断するには超音波検査が最も有用とされています。陰嚢の表面に超音波を当てて、精巣の内部の様子を画像にすることで観察します。
精巣腫瘍は肺や後腹膜リンパ節などに転移しやすいため、転移しているかどうか診断するためには、胸部X線撮影や腹部CTスキャンなどが必要となります。
また、「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」や「アルファフェトプロテイン(AFP)」などの腫瘍マーカーの数値を測定することも、精巣腫瘍の診断に役立ちます。
精巣がんの治療法は?手術は必要?
腫瘍マーカーの値、進行の程度といった「ステージ」によって精巣腫瘍の治療法は異なります。転移の広がりによって、I期、II期、III期と分類され、数が大きいほど腫瘍が広がっていることを表します。
精巣腫瘍は、進行が早く転移しやすいことから、原則として「高位精巣摘出手術」を行います(※2)。これは、がんが認められる側の精巣、精巣上体に加えて、精子の通り道である「精管」と「精索血管」を長く切除する手術です。
その後の治療法については、精巣以外にがんの転移が見られるかどうかで分かれます。
精巣がんが精巣内のみに限られる場合
精巣の摘出手術後、がんの転移が見られず、腫瘍マーカーの値が基準値に戻った場合には、通院して経過を観察します。
精巣がんがほかの部位に転移している場合
精巣摘出後に、がんが転移している場合、また再発の可能性が高い場合には、抗がん剤を用いた化学療法を行います。
精巣がんの手術は、不妊の原因になるの?
精巣腫瘍に対する治療では、がんが見られる側のみ精巣を摘出します。そのため、反対側の精巣は温存されるので、精子を作り出す「造精機能」は維持されることになります。
しかし、精巣がんの進行度合いによって両側の精巣を切除する場合や、手術後に放射線治療や抗がん剤による化学療法を行う場合は、その機能を失う可能性があります。
また、精巣がんになる人のなかには、もともと精子を作る能力が弱い人もいるため、将来的に妊娠を望むのであれば、精子を凍結保存するという方法も考えられます。
妊娠を望んでいるカップルで、もし男性が精巣腫瘍と診断された場合には、治療前に妊娠できる可能性や方法について医師に相談してみてくださいね。
精巣がんの治癒には、症状の早期発見が大切
男性特有の病気である精巣腫瘍は、進行が早く、転移しやすいという特徴があります。20~30歳代の若い男性に最も多く見られるがんでもあり、精巣にしこりがあるなどの症状を感じたときには、一刻も早く泌尿器科を受診することが大切です。
精巣がんは原因がわかっていないため、予防が難しいですが、今回ご紹介したとおり、有効な抗がん剤もあるため、完治する人が多いのも事実です。がんで亡くなる人全体でみると、精巣腫瘍による死亡の割合は0.1%未満で、がんの部類では比較的予後がよいといわれています(※2)。
万が一、パートナーが精巣腫瘍と診断を受けても悲観しすぎず、医師とよく相談のうえ、前向きな気持ちで治療に取り組めるといいですね。