顕微授精で受精しない理由は?確率を上げる方法は?

監修医師 産婦人科医 城 伶史
城 伶史 日本産婦人科専門医。2008年東北大学医学部卒。初期臨床研修を終了後は、東北地方の中核病院で産婦人科専門研修を積み、専門医の取得後は大学病院で婦人科腫瘍部門での臨床試験に参加した経験もあります。現在は... 監修記事一覧へ

顕微授精は、1つの卵子に対して1つの精子を直接注入する方法で、ほかの不妊治療法に比べて高い受精率が期待できます。しかしそれでも受精できないこともあります。顕微授精でも受精しないとき、どのような原因が考えられるのでしょうか?今回は、顕微授精で受精しない理由や、受精の確率を上げる方法などについてご説明します。

顕微授精は高い技術が求められる方法

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顕微授精は、その名のとおり、顕微鏡で確認しながら卵子と精子を授精させる方法です。とてもシンプルに聞こえるかもしれませんが、生殖補助医療(ART)のなかでも特に繊細なコントロールが求められるものです。

具体的には、培養液の中で固定した卵子に、1匹の精子を吸引したピペット(ガラス針)を刺し、卵子の透明帯と細胞質を破って精子を中に注入します。このとき、培養液も一緒に入ってしまったりすると卵子が壊れてしまうので、慎重に行います(※1)。

このように顕微授精は、1匹の卵子に対して1匹の精子があれば実行できるという点で、体外受精よりも受精する確率が高いですが、そこに至るまでのプロセスが難しいといえます。

顕微授精で受精しないこともある?

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日本産婦人科学会によると、顕微授精で受精障害が起き、受精しない確率は5.6%とわずかながらあります(※2)。

前述のとおり、顕微授精には高い技術が求められます。これはあくまでも卵子と精子が本来持っている受精能力を発揮できるように、両者が出会うまでの障害を取り除くものであり、卵子や精子の質を直接的に向上させるものではありません。

そのため、顕微授精の作業がうまく行ったとしても、そもそも卵子や精子に何らかの問題がある場合には、受精しないこともありえます。

顕微授精で受精しない理由は?

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顕微授精で受精しない、受精卵が作られない場合、卵子や精子の受精能力が極端に低く、次のような不具合が起きている可能性も考えられます。

卵子の透明帯が硬い・柔らかすぎる

受精するためには、精子が卵子の透明帯を突き破り、中に入りこむ必要があります。

しかし、卵子の質によっては透明帯が硬い、もしくは柔らかすぎることによって、顕微授精のピペットを刺しても透明帯が切れないことがあります(※1)。

卵子が活性化されない

通常であれば、卵子の中に精子が入ったあと、精子の持つ卵活性化因子が卵細胞質内で放出されることで、カルシウムイオンの濃度が上昇します(※1)。これによって卵子が活性化され、受精卵が作られます。

しかし、卵子または精子の質が低下していると、カルシウムイオンの濃度が十分に高くならず、卵子の活性化が起こらないことがあります。

卵子や精子は女性または男性の年齢が上がるにつれて質が下がっていくことがわかっており、顕微授精で受精しない場合は加齢が原因となっていることも考えられます(※1)。

顕微授精で受精しない精子が選ばれることも

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体外受精の場合、培養液の中に卵子と複数の精子を一緒に入れ、その中で受精できる条件の揃った精子だけが自力で受精します。

それに対して顕微授精の場合は、元気に運動していて、奇形がないように見える精子を人の目で1個選んで授精させます。

そのため、選ばれた精子が最も顕微授精に適しているものかどうかを事前に判断することはできず、実際のところは卵子の中に注入してみないとわかりません(※4)。

顕微授精で受精しないときの改善方法は?

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先述のとおり、顕微授精で受精しない理由として「卵子の透明帯の質」と「卵子の活性化」の問題について触れましたが、このうち後者については、「カルシウムイオノフォア」という物質を含む薬剤が有効なこともあります。

カルシウムイオノフォアは、卵子の細胞質内のカルシウム濃度の上昇を促すもので、この物質の作用により、顕微授精後の卵子の活性化が起こり、受精障害を回避できるという報告がいくつかあります(※2)。

カルシウムイオノフォアにより、どれくらい受精率が上がるかは明らかになっていませんが、不妊治療を行う病院の一部では使われることもあるようです。

顕微授精でも受精しないこともあります

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タイミング法や人工授精、体外受精でうまく行かなかった場合に検討されることが多いのが顕微授精です。顕微授精は一番受精しやすい方法ですが、それでも数%の確率で受精障害が起きてしまいます。

ただし一方で、1回目で受精しなかった場合のうち、2回目も受精しない確率は1割ほどという報告もあります(※2)。再チャレンジすることでうまく行くこともあるので、夫婦の年齢や予算なども考慮したうえで、顕微授精の継続を検討するのも一つの方法です。

また、加齢に伴う卵子や精子の老化は避けることができませんが、十分な睡眠をとる、適度な運動をする、喫煙や過度の飲酒をしないなど生活習慣に気をつけることで、老化のスピードを遅らせることはできると考えられています(※1)。

夫婦二人三脚で健康的な生活を送るよう、心がけてみてくださいね。

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