「細菌性膣症」という病気をご存知ですか?膣が炎症を起こす病気は性感染症をイメージするかもしれませんが、細菌性膣症は性行為が原因とは限らず、大人の女性であればかかる頻度が高い病気です。今回は細菌性膣症について、原因や症状、治療法のほか、妊娠中にかかった場合のリスクをご説明します。
細菌性膣症とは?
細菌性膣症とは、外陰部と子宮をつなぐ膣内で細菌が増殖して、炎症を起こす病気です。性成熟期の女性であれば、割とよく見られる病気で、10~30%の女性が細菌性膣症にかかっているといわれます(※1)
原因となる微生物が決まっているわけではないので、いわゆる「性病(性感染症)」とは区別され、「非特異性膣炎」とも呼ばれます。
膣に炎症が起こっているものの、カンジダ、トリコモナス、淋菌などの特定の病原体が見つからない場合、「細菌性膣症」と診断されることも多くあります(※2)。
細菌性膣症の原因は?
膣内には様々な常在菌がいて、普段は絶妙なバランスで健康な状態が保たれています。特に常在菌の多くを占める「乳酸桿菌」のおかげで膣内は酸性に保たれ、悪い菌が増殖するのを防いでいます(※2)。
しかし、ストレスや疲労、風邪などの影響で免疫力が低下したり、生理用品を長時間使って膣内が不衛生になったりすると、乳酸桿菌の数が減少します。これで膣内の常在菌の生態系が崩れ、「バクテロイデス属」や「ガルドネラバギリナス」などの菌が異常増殖し、細菌性膣症を引き起こしてしまうのです(※3)。
ちなみに、「細菌性膣炎」という似た名前の病気がありますが、これは連鎖球菌やブドウ球菌、大腸菌などが増殖することにより起こるもので、細菌性膣症とは区別されます。
細菌性膣症の症状は?
細菌性膣症になると、おりものの量が増え、生臭い悪臭がすることがあります。また、おりものの色が灰色っぽく変化するのも特徴です。
ただし、感染した人のうち半数は自覚症状がありません。カンジダやトリコモナスなどと比べると、デリケートゾーンのかゆみも軽いので、本人が気づかないこともあります。
膣内の細菌環境の乱れによって繁殖した雑菌が広がると、子宮内膜炎や子宮付属器炎、骨髄腹膜炎を引き起こすこともあり、その段階になると下腹部痛などの症状が現れます(※3)。
妊婦が細菌性膣症を発症すると早産になる?
すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、細菌性膣症を発症すると、その一部が膣炎、子宮頸管炎へとつながり、妊娠中だとさらに炎症が広がって「絨毛膜羊膜炎」へと波及する恐れがあります(※2)。
絨毛膜羊膜炎とは、お腹にいる赤ちゃんを包んでいる絨毛膜と羊膜に炎症が起こる病気です。炎症を放置してしまうと、子宮が過度に収縮し、切迫早産を経て早産に至るリスクがあります。また、絨毛膜羊膜炎の感染がさらに進むと、羊水などを通じて胎児に感染する恐れもあります。
ただし、妊娠20週までに細菌性膣症を治療すれば早産を予防できる可能性が高いとされています(※1)。妊婦健診で見つかることもあるので、妊婦さんは決められた回数と時期に必ず受診しましょう。
細菌性膣症と診断された場合、たとえ自覚症状がなくとも、早期に治療を受け、赤ちゃんへの感染リスクをなくすことが大切です。
細菌性膣症の治療法は?
まず婦人科でおりものを採取して、どんな菌が増殖しているのかを調べます。治療で使われる抗菌剤には、膣内に挿入するタイプ(膣錠)と飲み薬(経口薬)がありますが、主に膣錠が処方されます。
きちんと治療すれば7〜10日間ほどで症状は治まりますが、免疫力が低下していると治療が長引くこともあります。再発しやすい病気なので、完治した後も予防に努めることが大切です。
細菌性膣症を予防するために生活習慣を見直そう
細菌性膣症は珍しい病気ではなく、大人の女性であれば誰でもかかる可能性はあります。睡眠不足が続いていたりすると、膣内の細菌バランスが崩れ、細菌性膣症を引き起こす可能性があるので、疲れを溜めこまないように気をつけましょう。また、生理用のナプキンをこまめに取り替えるなど、デリケートゾーンを清潔に保つことも大切です。
特に妊娠中の女性は、将来生まれてくる子供に感染させないよう、健康的な生活を心がけるだけでなく、妊婦健診を必ず受けて早期発見・早期治療に努めてください。
※「膣」という字は医学上正しくは「腟」という字を使いますが、本記事においては一般のみなさまに親しみのある「膣」という字で記載しております。