「育休の制度や手続きが難しくてよくわからない」「育休は取りたいけど、取れそうな職場の雰囲気ではない」などと疑問や悩みを持つ方は多いのではないでしょうか?
ここでは、育休を検討するパパの疑問や悩みに、専門家である社労士の先生に答えていただきました!
小橋 海生(社会保険労務士)
かもめ社会保険労務士事務所 代表。一児のパパとして、長期の男性育児休業を経験したことをきっかけに、一般や企業に向けた男性の育児休業取得を後押しするセミナーを多数行う。
法令・制度の情報のみならず、家事育児の心構えや実践的両立ノウハウの提供を重視しており、パパの育休を通じ、少しでも多くの家庭が充実した育児・職業人生を送れることが目標。
Q1. 出産予定日より前に生まれた場合、育休を前倒しできますか?
小橋
先生
条件付きでできます。
育休開始日は生まれた日に応じて繰り上げて開始することができますが、事前に会社への申出が必要で、申し出た日の1週間後から取得できるのが原則となります。
ただし、もしも会社が認めてくれればそれより早く取得することもできます。事前に話し合っておくのがおすすめですよ。
ー もし会社が認めてくれない場合はどうすればいいですか?
小橋
先生
その場合は、有給休暇を利用する手もあります。有給休暇であれば会社は断ることができず、すぐに取得が可能です。
ただし、十分な引き継ぎが終わらないまま休みを前倒しすると自分も周りも大変です。早く生まれることを想定して準備をしておきましょう。
Q2. 出産予定日より後に生まれた場合、育休を遅らせることはできますか?
小橋
先生
会社と合意できれば、開始日を遅らせることが可能です。
逆に言うと、基本的には出産予定日より後に生まれた場合でも、育休は当初の出産予定日から取ることができます。
もし出産が予定日より遅れた場合に育休を遅らせたい場合は、事前に会社と相談しておくといいでしょう。
Q3. 出産直前ですが、今からでも育休は取れますか?
小橋
先生
育休自体は取れますが、所定の期間よりも早く取り始めたい場合は、会社の了承が必要です。
通常の育児休業は、原則として開始日の1ヶ月以上前、産後パパ育休は2週間以上前に申出をする必要があります。申出がギリギリすぎると休みに入れるのは出産後になるかもしれません。
また、会社との間に「通常の育休と同様、産後パパ育休も1ヶ月前までに申告してください」という労使協定(※)があれば、従わなければなりません。
出産直前の申出となると周囲への影響も大きくなるので、できれば予定日の半年前には取得の意向を伝え、引き継ぎを進めましょう。
※労使協定…労働者代表や労働組合と事業主の間で締結される、書面による協定のこと。
Q4. 育休を予定より早めに終わらせることはできますか?
小橋
先生
会社と話し合い、お互いに合意すればできます。
ただし、自分が「早めに終わりたい」と言っても会社の合意がなければ早められません。あくまで双方の合意が必要です。
Q5. 育休を延長することはできますか?
小橋
先生
はい、育休は特別な理由がなくても、原則1回まで延長ができます。
これとは別に、1歳になる時点で以下の理由に当てはまる場合、最長で2歳まで延長ができます。
①保育所に入園できない
②配偶者が病気や離婚などの理由で養育ができない
まず1歳6ヶ月まで延長され、その時点で同じような状況が続いていた場合は2歳まで延長できます。
延長はパパもママも同時に行うことができ、育児休業給付金も支給されますよ。
ー 延長の申出はいつまでにする必要がありますか?
小橋
先生
延長の申出は、育休終了予定日の1ヶ月前までにする必要があります。
1歳6ヶ月まで、または2歳までの延長の場合は、別途各1回、2週間前までに勤務先に申し出てください。
▼育休の延長について、詳細はこちら
Q6. 契約社員やアルバイトでも育休を取れますか?
小橋
先生
要件を満たせば取得できます。
契約社員やアルバイトは、「子どもが1歳6ヶ月になるまでに、労働契約の期間が終了することが明らかでない」という要件を満たす必要があります。
通常、契約書に契約更新しない旨が明記されていない場合や、「契約更新しませんよ」とはっきり言われていない場合などは、契約が終了することが明らかであるとは取り扱われませんので、原則取得が可能です。
ただし会社は労使協定を結ぶことで、以下の条件を満たす人の育休の申出を拒否できます。
①会社に継続して雇用された期間が1年未満
②育児休業を申し出た日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかである
③週の所定労働時間が2日以下
上記の①〜③に当てはまる場合は、労使協定の有無や内容を職場に確認してみましょう。
Q7. 育休から復職せず、退職・転職をすることはできますか?
小橋
先生
育休中、もしくは復帰後すぐの退職や転職は可能です。
ただし育休は職場復帰を前提とした制度なので、基本的に育休取得前から復職する意思がなければ取得はできません。
労働者には、育休後の就労を円滑に行うようにする法律上の努力義務があるので、ぜひその覚悟を持って育休に入っていただきたいです。
育児休業給付金については、支給単位期間(※)の途中で退職した場合は、その支給単位期間分の給付金は支給されないので注意してください。
※支給単位期間…育休開始日から起算した1ヶ月ごとの期間のこと。
Q8. 育児休業給付金はいつもらえますか?
小橋
先生
育休開始日から約3ヶ月後を目安に、2ヶ月分の給付金が振り込まれます。
本来もらえるタイミングに遅れないよう、勤務先やハローワークから指示された書類は早めに提出するようにしましょう。
ー 2回目以降は自動的に振り込まれるのですか?
小橋
先生
2回目以降は、2ヶ月ごとに給付金の追加申請が必要です。
2回目以降の申請も職場を通して手続きをすることが多いですが、会社によって異なるため、事前に確認しておくようにしましょう。
▼育児休業給付金について、詳細はこちら
Q9. 育児休業給付金の上限額はありますか?
小橋
先生
給与によって給付金の上限額が決まっています。
そもそも育児休業給付金とは、育休開始から180日目までは開始時の賃金月額の67%、181日目以降は50%がもらえる制度です。
上限額は、67%の場合は最大約30万円、50%の場合は最大約22万円(※)となっています。逆算すると、給与月額が約45万円を超える人は最大で先述の額までしかもらえないので注意しましょう。
※育児休業給付金の上限額は毎年8月に改定されるので、厚生労働省のホームページをチェックしてください。
Q10. 育休中にもらえるお金はどれくらいですか?
小橋
先生
育休中に実際に受け取れる給付金は、手取りの月例給与の8割前後(取得期間が180日目までの場合)です。
育休中は社会保険料が免除されるほか、育児休業給付金が非課税であるからです。
Q11. できるだけもらえるお金を減らさない方法はありますか?
小橋
先生
育休開始日・終了日・取得期間を工夫することで、その月の社会保険料の免除を賢く受けることができます。
①月末の日を含んで育休を取得する
その月の社会保険料が免除となる一つの基準は、「月末の日に育休を取得していたかどうか」です。
例えば、10月31日から11月1日に育休を取得した人は、10月分の社会保険料が免除されますが、11月1日から11月2日まで育休を取得した人は、社会保険料が全く免除されません。
月初から育休開始する予定なら前月末開始に前倒し、月末に復職する予定なら翌月の月初に後ろ倒すなどの工夫を、無理の無い範囲で行うと良いでしょう。
②同一月内に14日以上育休を取得する
月末を含んでいなくても、同一月に育休開始日と終了日がある場合で、14日以上育休を取得すると、その月の社会保険料が免除となります。
同一月内の短期間で取ろうとしているのであれば、月末を含むか、14日以上取るのがおすすめです。
ー ちなみに、育児休業給付金を増やす方法はあるんでしょうか?
小橋
先生
ありますが、おすすめはしません。
育児休業給付金は、育休開始前6ヶ月間の給与によって計算されます。基本給以外に手当がつく仕事を行う、シフトを少し増やすなど、この期間の給与を増やす方法がある場合は、無理のない範囲でする方法が考えられます。
ただ、パートナーは妊娠中なので、十分なケアが第一。必要のない残業をするなどして、パートナーを支える時間が減るのはおすすめできません。
Q12. 賞与の査定期間の途中から育休に入った場合、働いていた期間分の賞与はもらえますか?
小橋
先生
受け取ることが可能です。
法律上、育休の取得を理由として、働いていた期間分の賞与を支給しないことや、育休でお休みをした期間に相当する割合を超えるような減額をすることは禁止されています。
ただ、賞与に一定の査定期間があり、その期間の就業状況などに応じて支給されるのが一般的ですが、就業規則によっては必ずしもここに当てはまらない制度もあるので、どういう賞与体系なのかを職場に確認するようにしましょう。
ー ちなみに、育休中に賞与の支給日がある場合は受け取れますか?
小橋
先生
受け取れます。
上記と同じく、支給日に育休を取得していることを理由として賞与の支給対象としないことは、育児介護休業法で定める「不利益な取扱い」となります。
Q13. 育休中に仕事はできますか?
小橋
先生
原則、育休中の就労はできませんが、例外があります。
【産後パパ育休中】
労使協定を締結していれば、一定の条件内で就業が可能です。働ける時間は、休業期間中の本来働いていた日数および時間の半分までです。職場の労使協定の有無や内容を確認しましょう。
【通常の育休中】
育児に支障がない限りにおいて、一時的・臨時的な就業のみ可能ですが、定例会議に出るなど、定期的な就業はNGです。また、就業が月10日(10日を超える場合は80時間)を超える場合は育児休業給付金が支給されません。
就業を希望する場合は、事前に会社への申出と双方の合意が必要です。
ー 育休中に働いた場合、給与は受け取れますか?
小橋
先生
受け取れますが、額によっては給付金が減額になる可能性があります。
支給単位期間(※)の給与が、育休開始時の賃金月額の13%〜80%未満となった場合、もらえる給付金は[育休開始時の賃金月額 × 80% − 支給単位期間の給与]となります。
また支給単位期間の給与が、育休開始時の賃金月額の80%を超えた場合は給付金が支給されません。
なお、「一時的・臨時的」ではなく、育休開始前から仕事をする必要がある期間が判明している場合は、育休の分割取得で対応することも検討しましょう。
※支給単位期間…育休開始日から起算した1ヶ月ごとの期間のこと。
Q14. 会社に育休を断られた時、それでも取ることはできますか?
小橋
先生
できます。
法律で定められた要件を満たしている限り、会社は育休の申告を拒むことはできません。一度でも拒んだ時点で違法になります。ただし会社や上司が違法と知らない可能性もあるので、法律上必ず取得できることを説明してみましょう。
それでもだめな場合は、会社の人事部門や都道府県の雇用環境・均等室に相談してください。雇用環境・均等室は育児休業や両立支援などを専門的に取り扱う機関で、労働者の状況を丁寧にヒアリングして対応方法などを優しく教えてくれますよ。
▼育休が取得できる要件について、詳細はこちら
Q15. 会社に育休を短くするよう言われたのですが、従う必要はありますか?
小橋
先生
従う必要はありません。
会社が取得を控えさせたり短めに取るよう強要したりすることは違法となります。
Q13と同様、会社の人事部門や都道府県の雇用環境・均等室に相談しましょう。
▼雇用環境・均等室について、詳細はこちら
Q16. 育休取得を理由に評価や給与を下げられることはありますか?
小橋
先生
「育休の申告や取得を理由として、解雇や不利益な取り扱いをしてはならない」と法律で定められています。
ただし、育休取得後に今までの働き方ができなくなって、現実的なラインで別のポジションが用意されたり、取得によって目標達成が途中で終わってしまったためにそれに値する評価となる、ということはありえます。
育休を理由として解雇や不当な評価をされた場合は、Q14,15と同様、会社の人事部門や都道府県の雇用環境・均等室に相談してください。