着床前スクリーニング(着床前遺伝学的検査)とは?方法や費用は?

監修医師 産婦人科医 間瀬 徳光
間瀬 徳光 2005年 山梨医科大学(現 山梨大学)医学部卒。板橋中央総合病院、沖縄県立中部病院などを経て、現在は医療法人工藤医院院長。産婦人科専門医、周産期専門医として、産科・婦人科のいずれも幅広く診療を行って... 監修記事一覧へ

妊活や不妊治療を行っている方は、「着床前スクリーニング」や「PGT-A」「PGT-SR」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

今回は、着床前スクリーニングやPGT-A、PGT-SRとは何なのか、検査の流れや事前に知っておくべきこと、費用などについてご説明します。

着床前スクリーニングとは?

体外受精

着床前スクリーニングは、染色体の異常を起因とした不育・不妊症の妊娠継続率の向上、および流産の回避を目的に検討する検査のことをいい、現在は「着床前遺伝子学的検査(PGT)」と呼ばれています。

「着床前遺伝子学的検査(PGT)」は、体外受精や顕微授精による胚(受精卵)から細胞の一部を取り出し、染色体や遺伝子を調べる検査の総称です。

この検査には「PGT-A」「PGT-SR」「PGT-M」の3種があり、着床前スクリーニングにあたるのは、染色体を調べる「PGT-A」「PGT-SR」です。

染色体に異常がみられる場合、着床不全や流産につながる可能性が高くなります。

検査により染色体に異常が認められない胚(受精卵)を子宮に移植することで、妊娠を継続しやすくすることが期待されます。

PGT-A・PGT-SRの違いは?

顕微鏡 検査

以下から、「PGT-A」と「PGT-SR」の違いと検査の対象について詳しく紹介します。

PGT-A

PGT-Aとは、正式には「着床前胚染色体異数性検査」といい、染色体の数に異常がないかを検査するものです。

検査の対象は以下のどちらかに当てはまる人です(※2)。

● 2回以上、胚移植をして妊娠に至らなかった経験がある不妊症の夫婦
● 2回以上、流死産の経験がある不育症の夫婦

PGT-SR

PGT-SRとは、正式には「着床前胚染色体構造異常検査」といい、均衡型染色体転座などの染色体の構造異常がないかを検査するものです。

検査の対象は以下に当てはまる人です(※3)。

● 夫婦にいずれかに染色体異常が確認されている不妊症または不育症の夫婦
(妊娠や流死産の経験の有無は問わない)

PGT-A・PGT-SRの流れは?

検査 実験 感染症

PGT-A・PGT-SRは、日本産科婦人科学会の認定施設のみで行われます。

1. 問診・事前検査

着床前遺伝学的検査を受ける前に、まず病院で問診を受け、染色体や遺伝子の検査をします。

2. 検査前の遺伝カウンセリング

その後、専門の医師による遺伝カウンセリングを受け、検査の内容や意義を正しく理解し、悩みや不安を解消します。

そのうえで、PGT-A・PGT-SRを受けるかどうかを意思決定します。

3. 審査

意思決定後は、担当医が日本産科婦人科学会に申請書を提出します。この審査には、3ヶ月〜6ヶ月程度の時間がかかります。

学会での審査が通れば、検査実施施設の倫理委員会で最終審査が行われます。

4. 検査

申請が承認されてPGT-A・PGT-SRを受けることが決まったら、受精卵を得るため、まずは妊娠を希望するカップルの卵子と精子を体外受精させます。

受精卵ができたらしばらく培養し、ある程度細胞分裂が進んだ段階で、細胞の一部を取り出します。

取り出した細胞の一部に対しアレイCGH法や次世代シーケンサー法という方法を使い、染色体の数や構造に異常がないかを確認します(※4)。

5. 検査後の遺伝カウンセリング

検査の実施後、個々の胚の遺伝学的データをもとに、専門家が解析をします。

その解析結果をもとに、カップルは遺伝カウンセリングを受けながら、どの胚を移植するか、またはどれも移植しないかを判断します。

6. 胚移植

遺伝カウンセリングで移植する胚を決めたら、胚移植を行います。

PGT-A・PGT-SRで知っておくべきことは?

医師 診断 夫婦

PGT-A・PGT-SRは、一般の人が利用できる技術となっていますが、希望すれば誰でも受けられるわけではありません。

PGT-A・PGT-SRはいずれも移植する受精卵を選ぶことを想定した検査です。倫理的な課題はあり、医師はもちろん、受ける側の十分な理解と慎重な判断が必要です。

希望する場合は、夫婦の状況や意向をもとに、担当医と検査の必要性をしっかり話し合い、専門医・施設の倫理委員会・日本産婦人科学会が連携を取って厳格な審査を行ったうえで、承認された場合のみ行うことができます。

そのため、受けられる病院も限られます。常勤する臨床遺伝専門医がいる・施設の倫理委員会の設置等の条件が満たされ、日本産婦人科学会が認定した病院のみが対象です。

また、検査時に性別を判断することは技術的には可能なため、PGT-A・PGT-SRを「産み分け」のために利用したいと考える人もいます。

しかし、生命倫理的な観点から、染色体や遺伝子異常を起因とした不育・不妊、及び流産の回避などを目的とした場合のみに限定されています(※5)。

PGT-A・PGT-SRにおける問題点やリスクは?

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PGT-A・PGT-SRには、流産を回避し、妊娠継続率を向上する可能性がある一方で、問題点やリスクもあります。以下のことを事前に知っておきましょう(※6,7)。

● 検査には限界があり、解析が不成功に終わる可能性がある
● 検査の結果、移植できる胚がない可能性がある
● 女性側に排卵誘発や採卵などの負担がかかる
● 正常な妊娠が約束されているわけではない
● 胚生検(胚の一部を取り出す行為)により、生まれてきた赤ちゃんの発育・発達への影響も考えられる

PGT-A・PGT-SRの費用は?

お金 お札 

PGT-A・PGT-SRは将来的な保険適用を目指してはいるものの、現時点では保険に適用されず、自費診療となります(※8)。また、実施する施設や行う検査の種類、受精卵の数などによって費用が大きく異なります。

さらに、保険診療と自費診療を混合で行うことができず、本来は保険適用である体外受精や顕微授精の費用も自己負担となります(※9)。

トータルの額では50〜100万円ほどかかることもあるようです。詳しい費用は遺伝カウンセリングの際に知ることができますよ。

PGT-A・PGT-SRの検討は慎重に

PGT-A・PGT-SRは、不妊症や不育症に悩むカップルにとって救いの手となりうる一方で、倫理的な問題や母体への負担、費用面など様々な観点から、事前に医師やパートナーとしっかり相談する必要があります。

遺伝カウンセリングでは、カップルの不安や疑問を取り除き、意思決定をサポートしてくれるので、気になることは医師に相談してみてくださいね。

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