赤ちゃんの足の付け根にポッコリとした膨らみを見つけたら、「小児鼠径(そけい)ヘルニア」かもしれません。なんだか難しい名前で、「危険な病気なのでは?」と心配になってしまいますよね。今回は、小児鼠径ヘルニアとはどういう病気なのか、原因や症状、手術の方法や費用についてご説明します。
小児鼠径ヘルニアとは?
体内の臓器が本来あるべき場所から飛び出している状態を「ヘルニア」といい、「小児鼠径ヘルニア」とはヘルニアが足の付け根(鼠径部)で起こったものをいいます。
小腸や大腸、男の子であれば精巣、女の子であれば卵巣や卵管など、お腹の中にある臓器の一部が飛び出して、足の付け根にポッコリとした膨らみができるのが特徴です。
約1〜5%に子供に見られ、子供の外科手術では最も多い病気です(※1)。臓器が飛び出しているというと大変な病気に思うかもしれませんが、自然に治ることもあります。しかし、6ヶ月経っても戻りにくい場合は、手術が選択されます。
小児鼠径ヘルニアの原因は?
男の子の精巣(睾丸)は、胎児のときは赤ちゃん自身のお腹の中に作られます。ママの体から生まれる頃になると、鼠径部にぶら下がっている「腹膜鞘状突起」という袋状の通り道を通って、精巣がだんだんと下に降りていき、やがて陰嚢(精巣を包む袋)の中に入ります。
通常、精巣がお腹から陰嚢の中に降りたあと、腹膜鞘状突起は腹膜から離れ、袋の根元が自然に閉じます。しかし、これが何らかの原因で閉じないとき、その袋状のすき間に腸などの臓器が飛び出してしまいます。これが鼠径ヘルニアです(※2)。
一方、女の子の場合も、生まれるまでに閉じるべき通路が「円靭帯(えんじんたい)」という子宮を支える筋に沿って開いたまま残ってしまうことで、鼠径ヘルニアが起こりえます。すき間に腸だけでなく卵巣まで一緒に飛び出してくることもあります。
小児鼠径ヘルニアの症状は?
小児鼠径ヘルニアの症状は、鼠径部に腫れや膨らみが現れるものです。片方だけに現れるのが一般的ですが、約10%の割合で両方に見られることがあります(※1)。飛び出した部分は、大きいとピンポン玉くらいに膨らみます。
小児鼠径ヘルニアの症状が現れる時期には個人差があり、生まれてすぐに見つかることもあれば、あんよが始まり、腹圧がかかることで気づくこともあります。
初期段階では痛みなどは特になく、柔らかい状態なので指で軽く押さえると元に戻ります。しかし、飛び出している臓器が締め付けられると、「ヘルニア嵌屯(かんとん)」という状態になり、赤く変色して硬くなってお腹の中に戻りにくくなります。
ヘルニア嵌屯が起こると痛みが現れるので、子供の場合、嘔吐をしたり、不機嫌になったり、激しく泣いたりします。最悪の場合は、飛び出した臓器が袋の根元で締めつけられてしまい、腸閉塞を起こす危険性も。
「鼠径部の膨らみが赤く変色して、触れると、硬くて引っ込まない」「子供が痛がって激しく泣く」などの状態であれば、できるだけ早く病院を受診してください。
小児鼠径ヘルニアの治療法は?手術が必要?
生後3ヶ月くらいまでに発症・発見された小児鼠径ヘルニアは、1歳頃までに自然に治ることもあります(※2)。しかし、その時期を過ぎても鼠径部に膨らみがある場合、自然治癒することはほとんどないので、できるだけ早く手術を受ける方が安全です。
手術によって、ヘルニアの原因になっている腹膜の出っ張りをなくし、袋の根元を糸で閉じます。所要時間は10〜30分程度、長くても1時間以内には終了する簡単な手術です。
入院に必要な日数は子供の体の状態によっても異なりますが、早ければ日帰りもできますし、入院する場合でも1泊2日か2泊3日程度で済みます。
小児鼠径ヘルニアの手術費用は?
小児鼠径ヘルニアの手術を受ける場合、入院するかどうかによって部屋代(ベッド代)や食事代などに差が出ます。目安として、保険が適用されて5~7万円かかると考えておきましょう。
ただし、「乳幼児医療費助成制度(子ども医療費助成制度)」を利用すれば、保険が適応された医療費の自己負担分については補助が出ます。ただし、食費や差額ベッド代など、医療保険の対象とならないものは助成されません。地域によって助成内容や金額は異なるので、自分の住んでいる自治体に確認してください。
小児鼠径ヘルニアのサインを見逃さないで
小児鼠径ヘルニアの場合、足の付け根や、男の子だと陰嚢に膨らみが見られるのが特徴です。指で押すと引っ込むくらいであれば、それほど心配はいりませんが、ヘルニア嵌屯を起こしてしまうと手術が必要となるので、違和感があれば念のため病院を受診しましょう。
おむつ替えのときなどに、鼠径部や性器の脇、下腹部などに膨らみやしこりがないかどうか、こまめに確認してあげてくださいね。